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繊細な仏のお顔が人々の心を癒した ~快慶

2017年06月10日 | 美の偉人ものがたり

奈良国立博物館 快慶展

 

 

東大寺の南大門をくぐる人を圧倒する金剛力士像の作者が運慶と快慶であることは、多くの日本人が知っている。日本の仏像史を飾るスーパースターと言っても過言ではない。

 

仏像は、迷いのない表情で会いに来る者の心を落ち着かせてくれる。秀逸な作品は日本には数多く残り、2017年5月時点の日本の「彫刻」部門の文化財指定は、国宝169件、重文2,699件もある。「彫刻」は、人物像や伎楽面など一部を除きほとんどが仏像で、かつ9割が鎌倉時代以前の制作である。

 

美術品は時代を遡るほど作者が不明になる場合が多く、仏像も然りである。スーパースターの一人「運慶」も、“伝”運慶作は極めて多いが、真作と確認されているものは少ない。一方「快慶」は、仏像に残した銘記や関係史料から真作と確認されているものが多く、稀有な芸術家の一人である。

 

躍動感のある表現が秀逸な運慶に対して、快慶は静寂で繊細で洗練された表現が秀逸だ。その作風は「安阿弥様(あんなみよう)」と呼ばれ、自身を「巧匠アン(梵字)阿弥陀仏」と銘記していたように、阿弥陀如来像の作品が多く残る。

 

運慶は、鎌倉幕府との関連が深く、東国に出向いての制作が多かった(関東にも作品が多く残る)が、快慶は東国での制作がほとんどない。快慶の造像の特徴としては、東大寺大仏の鎌倉復興を勧進職として遂行した重源(ちょうげん)との関係がまずあげられる。

 

重源は、平重衡による南都焼き討ちで焼失した大仏復興資金を集める勧進の出先拠点となる「別所」を西国各地に設け、快慶は別所の造像で重源の勧進に大きく貢献した。兵庫県の浄土寺はその代表例で、快慶による国宝・阿弥陀三尊像が死者を西方極楽浄土に導くまばゆいばかりの輝きを今に伝えている。

 

重源の大仏復興は、長く続いた朝廷や源平の戦乱の犠牲者を弔うことも大きな目的であり、そうした精神が阿弥陀信仰への帰依が強かったと思われる快慶の琴線に触れたのであろう。

 

華厳宗大本山の東大寺の別格本山に安部文珠院(奈良県桜井市)があり、ここにも重源ゆかりの快慶の傑作が伝えられている。重源が深く信仰した渡海文殊像を、東大寺復興にあわせて造立したもので、高さが7mに達する中尊の文殊菩薩の存在感を、繊細で美しい快慶らしいお顔が見事に引き締めている。脇侍の「善財童子」が振り向いた瞬間をあらわした表情が実に神秘的で、吸い込まれるように見つめてしまう。

 

安部文珠院 国宝・渡海文殊

 

 

快慶の造像にはもう一つ特徴がある。老若貴賤を問わず多くの人がお金を出し合って造仏する「結縁合力(けちえんごうりき)」だ。平安時代は支配階級の個人による造仏が多かったが、鎌倉時代に入ると結縁合力が多くなる。重源の精神と一般の民衆の考え方には相違がなく、皆が死者を弔う思いが強かった。

 

快慶が高さ三尺(約90cm)の阿弥陀如来立像を数多く残したのは、結縁合力に積極的に応じたためだ。快慶の繊細な作風は、弔いの精神を彼なりに表現した結果のように私は感じる。静かに祈ることを求めた時の人たちに愛されたのだろう。

 

快慶の生きた時代、鎌倉仏教の先駆となる法然による浄土宗が勃興した。快慶が信じた阿弥陀信仰は新たな形に発展し、「口に出して阿弥陀に念仏を唱えれば極楽に行ける」という浄土宗の教えに共感が広まった。まだ禅宗や日蓮宗が盛んではなかった鎌倉時代は、快慶の阿弥陀像は人々の帰依を深く集めたのだろう。

 

奈良国立博物館で「快慶展」が開催されていたが、快慶作の国宝仏像で常にお会いできる(常時公開されている)ものは以下である。例外が発生する可能性もあるので訪問前にご確認ください。

 

東大寺(奈良市)南大門 金剛力士像 http://www.todaiji.or.jp/

浄土寺(兵庫県小野市)浄土堂 阿弥陀三尊立像 http://ono-navi.jp/spot/463/

安倍文殊院(奈良県桜井市)収蔵庫 文殊五尊像 http://www.abemonjuin.or.jp

 

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

 

 テンポのよい解説で日本の仏像史の予習・復習にはおすすめ。

仏像史の流れの中から快慶の個性をあらためて理解できる。

(平凡社新書)

 

 


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