美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

二人の根津嘉一郎 ~日本トップクラスの実業家系美術館を造った男たち

2018年01月12日 | 美の偉人ものがたり


根津美術館の竹の道はいつも美しい

東京・青山の根津美術館は、日本や中国美術のコレクションでは日本トップクラスの質を誇ります。日本文化や美術を体験したいものの京都まで行く時間のない外国要人がよく訪れるほどです。

館のコレクションは、東武鉄道の経営を軌道に乗せた初代・根津嘉一郎(ねづかいちろう)が主に蒐集したことはよく知られています。美術館を設立し、東武グループの経営を受け継いだ初代の長男も、嘉一郎を名乗りましたので嘉一郎は二人います。そんな二人の嘉一郎が美を追い求めた軌跡を探ってみたいと思います。

【公式サイトの画像】 初代・根津嘉一郎

根津嘉一郎は幕末の1860年、山梨県の豪商の家に生を受けました。明治期に関東で多くの事業を興した甲州財閥(山梨県出身の経営者たち)の代表格として知られたように、1896(明治29)年に東京に進出してからは、東武鉄道など数多くの企業を再建していきます。

並行して茶の湯にもいそしむようになり、美術品の蒐集にも情熱を傾けました。初代の孫で根津美術館の現館長である根津公一は「気性の激しい人で、事業も美術品収集も豪快だった」と語っています。

日本では大正時代ごろまで、実業家や華族が所有する美術品は、茶会などで限られた客人に披露するにとどまっていました。しかし、事業で得た富を社会に還元するという、アメリカで一般的だった「フィランソロピー」の考え方が日本の実業家の間で知られるようになると、美術館を造って公開する機運が生まれ始めます。

東京・大倉集古館、倉敷・大原美術館、名古屋・徳川美術館は、この考え方に基づき戦前に所蔵品の公開を始めた日本の私立美術館のはしりです。

根津嘉一郎は、1909年に渋沢栄一を団長とした訪米視察団に参加し、フィランソロピーの考え方に感銘を受けました。また当時相次いでいた国宝級の美術品の海外流出にも心を痛め、蒐集にさらに情熱を傾けたようです。太っ腹で、売立品を次々と高値で落札していきました。

館で最も有名なコレクションである尾形光琳の国宝「燕子花図屏風」は、1913(大正2)年の西本願寺からの売立で入手したものです。また中国・宋時代の水墨画家として名高い牧谿(もっけい)の代表作の国宝「漁村夕照図」を、1926(昭和元)年に松山の松平家から入手しています。夕暮れの光の明暗と海辺の湿度の高い空気感の表現が絶妙な作品です。

【公式サイトの画像】 牧谿「漁村夕照図」

初代・嘉一郎は1940(昭和15)年にこの世を去ります。この時、相続する二代・嘉一郎に莫大な相続税が課されかけました。しかし蒐集品を新たに創設する美術館に寄贈することで免税を勝ち取り、コレクションは散逸を免れました。

翌1941(昭和16)年に現在地に美術館が開館し、今に数多くの秀逸のコレクションを受け継いでいます。結果的に貴重なコレクションの散逸を防ぐことになった英断を下したのは、当時の税当局の幹部で、戦後に首相になった池田隼人です。

二代・嘉一郎は、初代とは対照的に温厚な人物でした。長らく東武鉄道の社長を務めていましたが、趣味は「根津美術館での美術鑑賞」という人柄でした。第二次大戦では、所蔵品は疎開させて無事でしたが、建物は焼失しました。

戦後は美術館の再建に尽力し、美術館の館長として蒐集を続けながら、寄贈品も多く集めるようになりました。美術品の寄贈は通常、公立の美術館・博物館に行われるのが一般的ですので、私立美術館としては稀有な存在と言えます。

初代・嘉一郎の邸宅があった敷地が現在の根津美術館です。起伏に富んだ美術館裏の広大な庭では、凛とした水の流れる音と青山に残る杜のイオンを体験できます。茶室も点在し、まさに東京都心の「市中の山居」です。私立美術館では数少ない常設展があることも、根津美術館の魅力の一つです。展示中の作品を公式サイトで確認できるのも、東博と並んでうれしい心配りです。

【公式サイト】 いま鑑賞できるNEZUコレクション

ミュージアムショップもおすすめです。館蔵品をセンスよくあしらったグッズが揃っており、作品の鑑賞と同じく時間を忘れてしまうほどです。ぜひ余裕をもってお出かけください。

【公式サイト】 ミュージアムショップ

こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



所蔵する数多くの国宝・重文と館の歩みを完全ガイド


根津美術館
http://www.nezu-muse.or.jp/



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 小林一三 ~日本人の生活ス... | トップ | 松方幸次郎 ~日本の西洋美... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

美の偉人ものがたり」カテゴリの最新記事