茨城県の水戸から西へ行くと、笠間(かさま)市があります。笠間稲荷と笠間焼で知られていますが、笠間日動美術館という素晴らしい美術館もあります。日本を代表する美術商である日動(にちどう)画廊の創業者が蒐集した作品を展示しています。
- 常設展示の印象派などフランス近代絵画に加え、日本の近現代の洋画のコレクションもとても質が高い
- 自然の傾斜を利用した彫刻の屋外展示と竹林を進む散策路では緑のイオンが鑑賞者を和ませる
- 常に常設展と企画展が並行して行われており、画商系の美術館だけあって企画のレベルは高い
関東平野の隅っこにあることから東京からは電車でも車でも2時間ほどはかかりますが、わざわざ訪れる価値のある美術館だと感じました。北関東には上質の美術館が点在しているようです。
パレット館
笠間日動美術館は、1972(昭和47)年に東京・銀座の日動画廊の創業者・長谷川仁夫妻により、長谷川家の出身地・笠間に創設されました。日動画廊は1928(昭和3)年創業の日本最古の画廊で、現在の東京海上日動火災の前身・日動火災保険のビルを間借りして開業したことが画廊の名前の由来になったという、面白いエピソードがあります。
藤田嗣治・佐伯祐三ら昭和以降の洋画家とはほとんど付き合いがあり、19c後半の西洋絵画や日本の近代洋画を俯瞰できるような作品を少しずつ蓄積していったようです。画商であるがゆえに客から求められれば売らざるを得ません。コレクション形成は一筋縄ではいかなかったと推測されますが、それにしても見事です。
パレットコレクション
画家との付き合いの広さは、「画家が使用していたパレット」を譲り受けた大変珍しいコレクションから感じ取ることができます。300点を超すパレットには画家が様々な個性的な絵を描いており、日本の著名な洋画家の名前がずらりと並びます。ユトリロやピカソのパレットもあります。
今もパレットは増え続けていると言います。長谷川仁は、ユトリロの展覧会で展示されたパレットからユトリロらしい白の色使いを感じ、収集を思いついたと述べています。確かに画家の個性がパレットには表れています。
山の遠景をのぞめる散策路が美しい
美術館には、敷地北端の企画展示館、南端のフランス館のどちらの入口からも入ることができます。駐車場も両方にあります。敷地の中間が尾根になっており、南北両側の斜面を利用して設けられた散策路からは、山の遠景とともに屋外展示の彫刻も楽しめます。北端の企画展示館にあるカフェからは、竹林の静寂な美しさも楽しむことができます。
フランス館は常設展示スペースで、1Fは長谷川仁夫妻の愛蔵工芸品、スーラやルドンらのデッサン画が展示されています。2Fは、この美術館の目玉である印象派~エコールドパリの時代のフランス絵画の常設展示室です。
【美術館公式サイトの画像】ルノワール「泉のそばの少女」
【美術館公式サイトの画像】モネ「ヴェトゥイユ、水びたしの草原」
「泉のそばの少女」は、ぬくもりのある女性の肌を見事に表現した、とてもルノワールらしい名品です。円熟期の作品で、小品ながらもしっかりした存在感があります。「ヴェトゥイユ、水びたしの草原」もとてもモネらしい名品です。タッチに若々しさがありますが、どこまでも明るい光と水面の表現を追求しています。
【美術館公式サイトの画像】ゴッホ「サン=レミの道」
「サン=レミの道」はゴッホが死の直前に描いた作品です。南仏の明るい風景をとても健康的に大胆に描いており、精神を病んでいたようには感じさせません。こちらも小品ですが、作品が発するオーラは抜群です。
展示室の入口にはカーテン
笠間日動美術館の常設展示室は、カーテンを開けて入るようになっていることが印象に残りました。展示空間を暗くする必要のあるコンテンポラリーアート作品ではよく見かけますが、油絵の展示室では珍しい入り方です。
とくべつな空間に入っていくような緊張感を鑑賞者に与え、声の大きい会話を自然と抑制するような効果があり、鑑賞に集中しやすくなると感じました。画廊のプロらしい演出です。
【美術館公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
私が訪れた時には企画展「ARTとEAT 食にまつわる美術のはなし」が開催されていました。企画展示館の1Fは様々な食にまつわる近代洋画を中心とした絵画、2Fは北大路廬山人を中心とした器の展示です。
高橋由一「鯛図」は標本のように忠実ながらも生命感のある表現が目を引きます。高橋由一らしさを感じます。安井曾太郎「実る柿」は本物のように見える柿の皮の質感の表現が見事です。
北大路廬山人のコレクションは、廬山人の鎌倉の自宅を美術館の近辺に移築し、笠間日動美術館の分館・春風萬里荘(しゅんぷうばんりそう)として公開していることから、やはり充実度は違います。竹久夢二や熊谷守一といった、意外な作家の陶磁器も興味深く鑑賞できました。
南側入口、フランス館
「ARTとEAT 食にまつわる美術のはなし」は3/17で終了しており、3/23からは「シンクロニシティ -宮津大輔コレクション×笠間日動美術館 響き合う近・現代美術-」が行われます。宮津大輔氏は普通のサラリーマンとして無名時代に作品を購入し、今ではその作家たちがとても有名になったため、審美眼への評価が高い異色のコレクターです。
こちらも内容は充実していると確信できます。春が近づき、ちょっとしたお出かけが心地よい季節です。ぜひ笠間まで足をお運びください。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
画廊の敷居は高くない
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笠間日動美術館
ARTとEAT 食にまつわる美術のはなし 2019/3/17終了
【美術館による展覧会公式サイト】
シンクロニシティ -宮津大輔コレクション×笠間日動美術館 響き合う近・現代美術-
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:笠間日動美術館
会場:企画展示館
会期:2019年3月23日(土)~5月19日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30
※この美術館の一部の常設展示作品は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の
写真撮影が可能です。ただしフラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音は禁止です。
◆おすすめ交通機関◆
JR常磐線「友部」駅下車、北口で「かさま観光周遊バス」に乗り換え「日動美術館」下車、徒歩2分
JR水戸線「笠間」駅から車で5分
北関東道「友部」ICから車で15分、「笠間西」ICから車で20分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間30分~2時間
東京駅→常磐線特急ときわ→友部駅→かさま観光周遊バス→日動美術館
【公式サイト】 アクセス案内
※鉄道やバスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることを強くおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。
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