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江戸時代 大坂 見事な絵師を”発見”_京都 八幡 松花堂美術館 7/7まで

2019年06月26日 | 美術館・展覧会

京都の南、石清水八幡宮のある八幡の松花堂(しょうかどう)庭園・美術館で、かなりエッジの効いた展覧会が行われています。「ご存知ですか?大坂画壇」という絶妙な展覧会のネーミングからも内容にとても興味がそそられます。

  • 江戸時代の大坂にもたくさんの腕利きの絵師たちがいた、富が集まると文化が栄えるのは成り行き
  • 琳派や四条派の影響を受けた大坂の絵師たちの作品は、京都画壇に比べてリアル感が魅力


大坂は京都や江戸と比べ、人口の大半が町人で占められていたという特性があり、それが良きも悪きも大坂画壇の評価に影響しています。今まで知らなかった江戸時代の見事な絵師たちを、たくさん発見できる展覧会です。


史跡・松花堂

「松花堂」と聞くと多くの人が「弁当」を連想します。弁当のネーミングは、江戸時代初めの石清水八幡宮の社僧で、当代一流の能書家として知られた松花堂昭乗(しょうじょう)に由来します。昭乗は徳川幕府・公家双方に大きな人脈を築いており、本阿弥光悦や小堀遠州と共に京都で著しく繁栄した寛永文化サロンの中心人物でした。

弁当は昭乗の時代ではなく、昭和になってから日本を代表する名料亭・吉兆(きっちょう)の創業者・湯木貞一(ゆきていいち)が考案したものです。昭乗が好んで使っていた小さな盆をヒントに、弁当箱に子盆を並べて華やげることを思いついたと言われています。

「松花堂」は昭乗が晩年に過ごした庵の名前で、1637(寛永14年)年に建てられました。元は石清水八幡宮のある男山の中腹の宿坊が立ち並ぶエリアにありましたが、明治の廃仏毀釈で宿坊は撤去され、松花堂は1891(明治24)年に現在地に移築されました。

2002年になって八幡市立松花堂庭園・美術館として一般公開が始まります。手入れが行き届き、四季に応じた美しさを楽しめる名勝指定の庭園と共に、一流の文化人が好むようなどこか洒脱な外観を楽しむことができます。



松花堂美術館は、昭乗や地元ゆかりのテーマで年3回ほど企画展が行われています。「ご存知ですか?大坂画壇」も地元の個人コレクターのコレクションを一堂に披露するものです。大坂画壇とその画家たちは聞きなれないこともあり、きちんとパネルで解説されています。

大坂画壇とはその名の通り、大坂で活躍した絵師たちのことです。江戸時代の日本絵画は、江戸と京都を拠点に活躍した絵師たちが圧倒的に有名です。美術は古今東西、富が集まるところにはほぼ必ず栄えます。江戸時代を通じて日本最大の経済都市であり続けた大坂にも、腕利きの絵師たちがたくさんいました。

にもかかわらず大坂画壇が忘れられた存在のようになってしまっているのは、ひとえに京都・江戸と比べた大坂の情報伝播力の弱さでしょう。京都は富裕な町衆が寺社に絵を寄進し、全国から寺社の本山を訪れる僧を通じて絵師や名作の情報が伝播されます。著名な作品を京都滞在中に模写させてもらい、地方に持ち帰る例も珍しくありません。

江戸は参勤交代や日本一の大都会に物資を運ぶ物流で全国から人が集まり、地元に帰る際に土産話として持ち帰ります。江戸時代後半にフルカラーでとても美しく、しかも版画なので安価な錦絵が登場すると、土産物としても爆発的な人気を博します。江戸時代の絵画=浮世絵というイメージは、こうして強固に全国の人々に印象付けられていったのです。

大坂も「天下の台所」と言われたように、全国から物資が集まったのは事実ですが、武士がほとんどいなかったこともあり、全国との人の往来は江戸と比べてはるかに少なかったのです。絵や芝居といった娯楽も大坂の町の中だけの閉ざされたものとなり、全国レベルで記憶に残った京都・江戸の絵師たちと比べると情報伝播環境面でとても不利だったのです。

元禄時代に大坂で絶大な人気を博した井原西鶴の浮世草子(=小説)や近松門左衛門原作の人形浄瑠璃の芝居が全国レベルに広がらなかったのも、おそらく情報伝播力の弱さが大きく影響していると思われます。



展覧会では、大坂画壇の絵師たちの中でも比較的知名度の高い上田公長(うえだこうちょう)の名品をきちんと鑑賞することができます。公長は、江戸で錦絵の流行が絶頂期を迎えていた文化・文政時代に活躍した絵師です。四条派の写実的な画風を基本としますが、モチーフや構図がわかりやすいのが特徴です。

出展作「枯木唐鳥図」も主役の鳥の羽の色だけに着色し、その美しさを印象付けています。

大坂には京都のような伝統的な価値観がなく創作は自由です。それは江戸も同じですが、江戸はモチーフを理想化してより格好よく描く方が好まれます。一方、大坂は逆にモチーフをよりリアルに描く方が好まれます。この傾向は錦絵の役者絵の表情に最も顕著に表れています。

「枯木唐鳥図」も鳥がとまっているのは枯れ木です。江戸では枯れ木を描いた絵はまず売れなかった王な気がします。

近年の琳派ブームの影響で、大坂画壇では現在知名度が最も高いと思われる中村芳中(なかむらほうちゅう)も観ることができます。「菊図」です。ゆるキャラのようなおおらかな画風で菊を描いています。芳中らしく丸っこく表現しているため、菊の花がネズミにも見えます。いわゆる”癒される”名品です。

月岡雪斎(つきおかせっさい)は、肉筆浮世絵で知られる大坂画壇の中でも知名度の高い雪鼎(せってい)の子です。雪鼎作品は出展されていませんが、雪斎の「官女図」は、桜の下で佇む美女を描いています。

足が描かれていないため空中に浮いているようで、しかも屋外で高級そうな着物の裾を引きずっているようにも見えます。非現実的な構図で、美女の表情にまったく感情がないにも関わらず、なぜか観る者を惹きつけます。トリッキーで摩訶不思議な名品です。

江戸時代には聞いたことのないような無数にいます。平和で経済が発展し、目立って富裕な町人でなくとも絵を楽しむようになると、絵師の需要もかなり大きかったと考えられます。現代とは比べものにならないほど、娯楽の種類は限られていたのです。絵師は現代で言うと、画家/広告イラストレーター/写真家など数多くの職種を兼任していました。

「ご存知ですか?大坂画壇」は、新たな絵師を発見できる貴重な機会です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



町人文化が栄えていたのは江戸だけではない
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<京都府八幡市>
八幡市立松花堂庭園・美術館
2019年初夏展 普通展示
ご存知ですか?大坂画壇
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:八幡市立松花堂庭園・美術館
会場:松花堂美術館 B1F
会期:2019年5月25日(土)~7月7日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30

※6/9までの前期展示、6/11以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※企画展開催中は、コレクション展を行っていない場合があります。

(注)庭園のうち、松花堂のある内園は2019年6月現在、2018年に発生した地震・台風の被害で見学できません。



◆おすすめ交通機関◆

京阪電車「八幡市」駅下車、京阪バスに乗り換え「大芝・松花堂前」下車、徒歩3分
京阪電車「樟葉」駅下車、京阪バスに乗り換え「大芝・松花堂前」下車、徒歩1分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:55分
京都駅→近鉄京都線→丹波橋駅→京阪電車→八幡市駅→京阪バス32/77系統→大芝・松花堂前

【公式サイト】 アクセス案内

※バスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※イベント開催時は、駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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