上野・東京都美術館で行われている「クリムト展」も終盤です。日本で開催されたクリムト展では過去最多の25点の油彩画が世界中から集められていることもあり、官能的な女性の裸体画以外にも様々なモチーフを描いたクリムトの魅力をたっぷりと味わうことができます。
- 世界最高峰のクリムト・コレクションを誇るウィーンのベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館が強力にバックアップ
- ローマからは円熟期の傑作「女の三世代」が初来日、クリムトの女性表現の昇華がよくわかる
- モチーフの背景のジャポニズムの影響を受けた装飾デザインは、日本人が見るととても落ち着く
100年前に描かれたものですが、日本の琳派と同じく、装飾デザインは現代でも斬新さを失っていないと感じられます。裸体画以外のクリムトの魅力もあわせてたっぷりと”発見”できる展覧会です。
昨年2018年はクリムト没後100年にあたります。その節目に合わせて、六本木・新美&大阪・国際美「ウィーン・モダン展」など、世紀末ウィーン文化の繁栄を回顧する展覧会が続いています。上野・都美館「クリムト展」は中でも、アートにおける世紀末ウィーンの主役にスポットをあてた格別の展覧会です。
出展作品の主な所蔵元が展覧会の”主催”に名を連ねていることから、その意気込みが伝わってきます。ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館は世紀末芸術の作品を中心に所蔵し、オールドマスター作品を中心に所蔵するウィーン美術史美術館と並んで、オーストリアのみならず世界的にも著名な美術館です。
展覧会はおおむね時系列で構成されています。最初の修業時代の画風は、当時のウィーン美術界に君臨していたハンス・マカルトのアカデミックで伝統的な表現の影響が見られます。
【展覧会公式サイトの画像】 「ヘレーネ・クリムトの肖像」
「ヘレーネ・クリムトの肖像」ベルン美術館寄託は、クリムトの弟の6歳の娘を描いた肖像画です。おかっぱ頭は当時の欧州ではあまり見かけないスタイルで、表情も6歳に見えず大人びています。クリムトの女性画に共通する”主張”の強さはしっかりと現れています。
【ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館公式サイトの画像】 ハンス・マカルト「装飾的な花束」
修業時代のクリムトが一生懸命観察していたであろうハンス・マカルトの作品にも注目です。「装飾的な花束」ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵は、いかにも貴族が好みそうな伝統的な画風です。ジャポニズムの影響が表れているのでしょうか、構図に奥行き感はありません。クリムト22歳の時、マカルトが死の直前1884年に描いた作品です。
【展覧会公式サイトの画像】 「女ともだちⅠ(姉妹たち)」
「女ともだちⅠ(姉妹たち)」クリムト財団蔵は、二人の女性を描いています。究極に平面的で、二人の女性の顔がアイコンのように際立っています。1907年、ジャポニズムを習得した円熟期の代表作と言えるでしょう。現代のデザインとしても立派に通用する斬新さには驚きです。
Chapter.5には、いわゆるクリムトの画風を象徴する”黄金時代”の作品が集められています。クリムトの代表作「ユディト I」もここにいます。
【展覧会公式サイトの画像】 「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」
「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」オーストリア演劇博物館蔵は、1899年のウィーン分離派結成の頃に描かれた、20cの到来を印象付けるようにシンプルかつドラスティックに描いた名品です。真実の象徴である鏡を手に持つ全裸の女性は古典的なモチーフですが、世紀末のウィーンに新しい時代の芸術を提案しているようです。ほんのわずかに官能的な趣を出していますが、アイコンのようなシンプルな全体像が際立ちます。
【展覧会公式サイトの映像】 「ベートーヴェン・フリーズ」
「ベートーヴェン・フリーズ」は原寸大複製です。クリムトの画業とその評価を最もストレートに伝える傑作です。原本の展示されているセセッション館と同じ空間が再現されています。幅30mを超える巨大な絵巻のような大作が部屋の三辺に描かれており、ベートーヴェンの交響曲第9番に着想した盛り上がりをドラマのように表現しています。
時代背景を抜きにして現代の視点で見ると、きわめて美しい完成された表現です。発表当時はベートーヴェンという巨匠にはふさわしくない表現として酷評されました。政治の矛盾に比べ芸術の斬新さが独り歩きしていた当時のウィーンの空気でも、過去の巨匠に因んだ表現への評価には古典的な価値観が優先したのでしょう。
【展覧会公式サイトの画像】 「丘の見える庭の風景」
「丘の見える庭の風景」ツーク美術館蔵は、クリムトではあまり連想されない風景画の名品です。晩年1916年の作品で、モネ「睡蓮」を彷彿とさせるナチュラルな表現が秀逸です。花びらをちりばめたような紋様は、クリムト芸術の到達点のようです。
【展覧会公式サイトの画像】 「オイゲニア・プリマフェージの肖像」
「オイゲニア・プリマフェージの肖像」豊田市美術館蔵は、クリムトのパトロンの妻を描いた肖像画です。ジャポニズムを思わせる黄色の背景に、アジア的なカラフルな花柄模様の衣装を身に付けてモデルを描いています。表情は証明写真のように無感情であるところが、この作品の上質さを強調しています。
【展覧会公式サイトの画像】 「女の三世代」
「女の三世代」ローマ国立近代美術館は、クリムトのイメージとして強烈な”官能”表現から消化したことを物語る傑作です。おばあちゃん→母親→赤子の娘と”女の三世代”をモチーフにしていますが、官能性や死生観は一切感じられず、とても温かみのある表現です。
女性だけが営める生き物の”持続”に敬意を払った表現です。とてもナチュラルで、クリムトの画業と展覧会のフィナーレを飾るにふさわしい傑作です。
【展覧会公式サイトの画像】 「人生は戦いなり(黄金の騎士)」
都美館終了後に巡回する豊田市美術館では、愛知県美術館蔵「人生は戦いなり(黄金の騎士)」が出展されます。タイトルからして意味深ですが、黒い馬にまたがる黄金の鎧を身に付けた騎士に自らを重ねているようです。「ベートーヴェン・フリーズ」が酷評されていた苦しい時の作品です。
背景の星をちりばめたような紋様は、世紀末の時代の華やかさを感じさせ、全体の印象として決して暗くありません。構図・モチーフ共にクリムトとしてはとても珍しい名品です。トヨタ自動車の寄付金で購入した愛知県美術館の目玉作品です。トヨタ自動車は地元・愛知県でのメセナ活動にはとても熱心です。
2019年の都美館の特別展は、ムンク展→奇想の系譜展→クリムト展と、内容でも人気でも横綱級の展覧会が続いています。終了後に発表されたムンク展の総入場者数は66万人。クリムト展の20万人到達ペースから推測すると、一日あたり入場者数はムンク展とほぼ同じです。世紀末芸術家の二大スターの人気は、世界はもちろん日本でもものすごいことが数字にも表れています。
秋には「コート―ルド美術館展」が待ち構えています。日本での知名度は高くありませんが、印象派を中心とした個人コレクションの美術館としては世界最高峰の一つです。ロンドンに旅行された方は訪れた方が少なくないでしょう。2019年秋のmustの展覧会の一つです。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
世界遺産ストックレー邸にクリムトがのこした内装デザイン
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<東京都台東区>
東京都美術館
特別展
クリムト展 ウィーンと日本 1900
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】
主催:東京都美術館、朝日新聞社、TBS、ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館
会場:B1F 企画展示室
会期:2019年4月23日(火)~7月10日(水)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金曜~19:30)
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この会場で展示されない作品があります。
※この展覧会は、2019年7月から豊田市美術館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
JR「上野駅」下車、公園口から徒歩7分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩12分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩12分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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