前回に引き続き、奈良の當麻寺をリポートします。中心的な子院の一つ、中之坊(なかのぼう)です。
- 東塔を借景にできる庭園の表情が季節を通じてとても豊か
- 奈良にはあまりのこされていないコンパクトで上質な書院空間を味わえる
- 中将姫ゆかりの寺で、女性ファンが多い
當麻寺運営の中心的な存在の寺で、見応えのある美術品も多く伝わります。當麻寺の三堂拝観とは別料金ですが、必ず一緒に拝観されることをおすすめします。
中の坊名物、庭の池に映える東塔
當麻寺は運営形態としては現代ではかなり異色の寺です。本坊がなく、真言宗と浄土宗の子院が當麻寺を共同で管理しています。主要な子院では、中の坊と西南院(さいないん)が真言宗、奥院(おくいん)が浄土宗です。
當麻寺は平安時代初めに空海が訪れて當麻曼荼羅に感得し、曼荼羅の教えを説いた頃から真言宗になったと考えられています。鎌倉時代以降は浄土信仰が流行し、當麻曼荼羅はさらに注目を集めるようになっていきます。南北朝時代に京都の知恩院が奥院を設立し、浄土宗と真言宗が同居するようになります。
江戸時代まではこうした他宗との共存は珍しくありませんでしたが、明治以降にほとんどなくなります。現在では當麻寺の他には、宇治の平等院と長野の善光寺くらいしか見られません。
【寺公式サイトの画像】 丸窓席、写仏道場
中の坊は奈良時代に住職の住居として創建された最古の子院で、その名が示すように子院の中でも筆頭格です。
江戸時代始めの重文建築・書院の中では、丸窓席と呼ばれる茶室が見応えがあります。書院と庭を造ったのは、江戸時代始めの名作事家・茶人で大和小泉藩2代藩主の片桐石州(かたぎりせきしゅう)です。同じく名作事家・茶人だった小堀遠州の一世代後の年齢で、遠州の後を継ぎ、日本の武家の茶の湯のリーダー格でした。4代将軍・家綱の茶道指南役も務めています。
大和郡山市の名庭として知られる慈光院(じこういん)庭園も石州の作庭で、中の坊庭園と共に国の名勝・史跡のダブル指定です。奈良にのこる数少ない江戸時代の名庭です。丸窓席から見る庭は、東塔の建つ裏山との距離が近く、迫力のある季節ごとの木々の色使いを楽しめます。
写仏道場の格(ごう)天井に描かれた、前田青邨(まえだせいそん)ら近代日本画家による天井画も見事です。明治・大正の頃の高級料亭のような落ち着きのある趣です。
【寺公式サイトの案内】 霊宝殿 新春秘宝展
霊宝殿では中の坊所蔵の美術品が公開されています。2019年2月28日までは新春秘宝展が行われており、「布袋尊屏風」など仏画を中心とした名品を味わうことができます。
【寺公式サイトの案内】 導き観音さま
中の坊には「導き観音さま」と呼ばれる平安時代の美仏が伝えられています。中将姫を護ったとされる仏様で、女性の願い事を聞いてくれる守り本尊として人気があります。常時参拝できますが、毎月16日のみ間近でお姿を配することができます。
子院はいわゆる塔頭と同義と解釈しても差し支えありません。京都の塔頭でよく見られるような、コンパクトな空間の魅力が、奈良の當麻寺・中の坊にあります。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
さだまさしが見た當麻寺の魅力を中之坊住職が丁寧に解説
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當麻寺
【公式サイト】 http://www.taimadera.org
中之坊
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~17:00
※公開されていない仏像や建物・美術品があります。
※導き観音さまは、毎月16日に間近で参拝することができます。
◆おすすめ交通機関◆
近鉄・南大阪線「当麻寺」駅下車、西口から徒歩15分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間30分
大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ・御堂筋線→天王寺駅(大阪阿部野橋駅)→近鉄・南大阪線→当麻寺駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には有料の駐車場があります。
※道路の狭さ、駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。
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