京都と奈良の中間にある南山城エリアは、仏像を中心に国宝・重要文化財が多数の古刹に伝わります。近年注目を浴びていることもあり、少しずつご紹介していきたいと思います。トップバッターは蟹満寺(かにまんじ)です。
- 白鳳時代の国宝・釈迦如来坐像は黒光りしたボディが美しく、やや強面に見えるお顔が印象的
- 今昔物語集「蟹の恩返し」伝承が伝わり、全国のカニ料理関係者の聖地になっている
里山風景の中、心和む境内で個性的な仏様にお会いできます。ピクニックのように散策を楽しむことができます。
蟹満寺のピカピカの本堂
南山城ってどこ? どう読む?
京都と奈良の間、宇治よりも南側のエリアは、旧国名にちなんで南山城(みなみやましろ)と呼ばれます。行政上の区分ではなく観光で用いられる概念です。自治体では京田辺市/城陽市/綴喜郡の二町/木津川市/相楽郡の三町一村が該当します。
京都市よりも奈良市の方が近いため、奈良県と思われがちですが、大阪湾に流れ込む木津川の流域はすべて山城国で現在の京都府です。奈良からすぐのJRの木津駅や加茂駅も京都府です。大阪には奈良経由で向かう方が便利なこともあり、このエリアのバス路線は主に近鉄グループの”奈良交通”が運行しています。かなりトリビアなエリアです。
京都市の南側でも、宇治氏は平等院、八幡市は石清水八幡宮と、全国的に著名な観光スポットがあるのに比べ、南山城地域はそうしたスポットには恵まれません。京都と奈良の間に位置することから古刹は多く、仏像を中心に国宝や重要文化財がまさにゴロゴロあります。
近年は京都や奈良市内の観光案内所でも「南山城」と題した観光パンフレットをよく見かけるようになっています。京都や奈良から電車で30分ほどのところに里山の原風景が拡がり、古刹が点在しています。まだまだ観光客は少ないため、国宝の仏像を独り占めするようにお会いすることもできます。まさに京都・奈良の隠れ家的スポットです。
カニだらけの境内に釈迦如来がでんと鎮座
蟹満寺は、発掘調査から飛鳥時代には創建されていたと推定されている古刹です。寺の歴史はよくわかっていませんが、江戸時代半ばに再興されています。この再興時の本堂は老朽化のため2010年に建て替えられました。白木の香りが漂うがごとくピカピカです。境内は扁額/灯篭/寺紋とまさに境内はカニだらけです。
むか~しむかし、村人に捕まった蟹を魚と交換して逃がしてやった娘がいました。娘の父は蛇に飲み込まれようとしているカエルを不憫に思い「娘を嫁にやるから」と思わず言ってしまい蛇を立ち去らせます。
怖がった娘が厨子に隠れて観音様に祈っていると、再び現れた蛇は娘を奪おうと厨子を壊し始めます。そこに蟹が現れてハサミで蛇と戦い、娘を助けます。父娘は観音様に感謝し、蛇と蟹の霊を弔うためにお堂を立て観音様を祀りました、とさ。
毎年4月18日には全国から飲食店や旅館などカニ料理関係者が集まる「蟹供養放生会(ほうじょうえ)」が行われます。カニに感謝しサワガニを放流しています。カニをキャラクターとするアニメ/ゲーム/映画、何が登場するかはわかりませんが、ブレイクすれば蟹満寺はカニの聖地として一躍脚光を浴びる可能性があります。
本尊の国宝・釈迦如来坐像は、ピカピカの本堂にでんと鎮座していますが、なぜか違和感がありません。金銅が黒光りしていることから、時代を経たものに見えにくいためと思われます。ピカピカの薬師寺金堂に鎮座する薬師三尊と同じ原理でしょう。
像高は2.5mもあり、目線が鋭くお顔が強面に見えることからかなり迫力があります。お顔のイメージとは逆に細い指の優美さは際立っており、ひだの紋様のラインは薬師寺の薬師三尊に似て、とても美しく感じます。全体として不思議な印象を受けますが、個性的で記憶に残る仏様です。
この本尊・釈迦如来坐像は創建時期と制作時期は矛盾しませんが、創建当初から蟹満寺にあったものかはわかっていません。「蟹の恩返し」伝承に基づくと本尊は観音になりますが、寺内に観音はありません。
創建にしろ仏像にしろ、謎が多い寺ですが、国宝の釈迦如来の個性は際立っています。あちこちにあるカニの意匠を見ると、どこか心が和みます。ぜひ訪れてみてください。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
木津川沿いの文化遺産をたっぷり吸収
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<京都府木津川市>
蟹満寺
【京都府観光連盟サイト】 蟹満寺
原則休館日:4/18
入館(拝観)受付時間:8:00~16:00
※この寺は観光目的で常時公開されています。
※法要の都合で拝観できない日があります。
◆おすすめ交通機関◆
JR奈良線「棚倉」駅下車、徒歩20分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間10分~20分
京都駅→JR奈良線→棚倉駅
※平日のみ木津川市コミュニティバスが棚倉駅から出ています。本数が少ないため事前にダイヤをご確認ください。
※この施設には無料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約を強くおすすめします。
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