美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

琵琶湖疎水の脇にたたずむ安祥寺、驚きの国宝美仏が伝わる

2019年05月13日 | お寺・神社・特別公開

安祥寺(あんしょうじ)という寺の名前を聞いても、京都人でもあまり知られていません。その安祥寺所蔵の五智如来(ごちにょらい)が2019年3月に国宝になることが発表され、一気に注目されることになった寺が、初めて境内を公開しました。春の京都非公開文化財特別公開です。

  • 醍醐寺のように山の上下に巨大な伽藍が拡がっていた平安時代の栄華を境内に感じることができる
  • 本尊の十一面観音は奈良時代の美仏、国宝になる五智如来など仏像は見事に今に伝わっている


現在まで一般向けの拝観を一切行っていなかったこともあり、境内には特別な雰囲気、いわゆるパワースポット感があふれています。京都でも稀有な空間を体験できたと強く感じました。


土に一輪の花、安祥寺の栄華を物語っているよう

安祥寺は山科駅の北へ歩いて10分ほどのところにひっそりとたたずんでいます。毘沙門堂からも歩いて20分ほどのところにあります。琵琶湖疎水沿いに位置しており、桜や新緑の季節は美しさを特に輝かせます。背後に迫る東山の向こう側には南禅寺があり、毘沙門堂を経由して歩いて山を越えることもできます。

安祥寺は平安時代初めの848(嘉祥元)年、仁明天皇女御で文徳天皇の母・藤原順子(のぶこ)を開基(かいき)として創建されました。藤原順子は応天門の変で他氏を排斥し、藤原摂関家隆盛の礎を築いた藤原良房(ふじわらのよしふさ)の妹であり、東寺の最高権力者の一人です。安祥寺の伽藍は都の中でも目を見張るくらいに壮麗であったことが想像できます。

平安時代半ばになると寺勢は衰え、応仁の乱で廃寺となります。江戸時代に往時と比べわずかな規模で再建されたのが現在の伽藍です。本堂/地蔵堂/大師堂とも江戸時代後期の再建です。



安祥寺の建物や境内には、往時の姿を伝えるものが一切のこっていませんが、仏像には目を見張るものがのこされています。

【京都新聞の画像】 2019/3/18 京都・安祥寺の五智如来坐像を国宝答

新たに国宝になる五智如来坐像は、寺の創建時の造立です。平安初期に流行した密教彫刻の趣の中にかなり特徴的な造形が見られます。目がかなり細く小さく造られており、あえて仏様の感情や生命感を感じさせないように表現しています。あたかも埴輪が並んで坐っているように、神秘的な印象を受けます。

五智如来とは、密教の金剛界において五つの知恵を一体ずつ表現した仏様です。観音菩薩のように苦しみから逃れようと祈る仏様ではなく、密教が教える知恵を伝える仏です。究極の”先生”のような存在であり、お顔もとても”おすまし”しているのです。

中世以前に造られた五智如来が五体揃って現存している例は、他に高野山・金剛三昧院くらいしかなく、こちらは重文です。東寺の講堂にも揃っていますが、立体曼荼羅としては後の補作で室町時代と江戸時代の制作です。

五智如来は安祥寺の多宝塔に安置されていましたが、明治初めに京都国立博物館ができた当初から寄託されていました。この多宝塔は1906(明治39)年に焼失しており、五智如来は強運の持ち主です。2019年5月現在は、特別展開催中も含め、平成知新館1Fの仏像展示室で二体だけが展示されています。

【東寺公式サイトの画像】 観智院「智慧の仏、五大虚空蔵菩薩

安祥寺にはもう一つ、住まいを移した美仏がありました。東寺の塔頭・観智院の重要文化財、五大虚空蔵菩薩(ごだいこくうぞうぼさつ)です。空海の孫弟子で安祥寺開山となった恵運(えうん)が唐から招来した仏です。日本の白鳳仏のようなで大陸風のお顔が印象的です。

恵運は、平安時代初めに唐に渡り日本に密教を伝えた8人の高僧の一人で、最澄や空海と共に「入唐八家(にっとうはっけ)」と呼ばれてあがめられています。五大虚空蔵菩薩は五智如来の化身とも考えられ、密教の知恵を表現する仏です。こちらも五体揃っている例はほとんどなく、他には神護寺の国宝くらいしかありません。

観智院は古くから、真言密教の最高学府でした。その権威を表すのにふさわしい本尊として、南北朝時代に安祥寺から移されています。


本堂

こうした歴史を見ると、創建時の安祥寺のブランド力はいかにすごかったかがわかります。開基や開山、伝わる仏像、どれも格式や権威は最高級です。安祥寺の本堂に安置されている重文の本尊・十一面観音も、五智如来や五大虚空蔵菩薩に匹敵するような格式の高い由縁を持っている可能性がささやかれています。

近年の調査で奈良時代後期の作とわかり、一木造ではかなり像高が大きい半丈六(約2.5m)像です。かなりの有力な人物の発願で制作され、かなりの大寺にあったと考えられます。安祥寺に移された時期は不明ですが、ロマンが膨らむ魅力をこの仏は持っています。

薬師寺の薬師三尊のように黒光りしていることが強い存在感を示しています。体のくびれがないところに奈良時代後期の様式を感じさせ、八頭身のポロポーションのよさが実にスタイリッシュです。


多宝塔跡は立入禁止

特別公開時には本堂の他に、大師堂と地蔵堂も公開されました。

境内はまさに大寺の跡という独特の風格が漂っています。「兵どもが夢の跡」、平泉の毛越寺のようです。こうした趣が残る空間は京都でもおそらくここだけでしょう。廃寺はたくさんありますが、宅地化しており、面影は100%ないためです。


新緑の琵琶湖疎水

近くを流れる琵琶湖疎水のレトロな美しさが、境内の趣とも妙にマッチしています。

近年は永らく拝観謝絶だったお寺も公開するところが増えています。安祥寺も次回の公開を楽しみにしたいと思います。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


ワンランク上の美仏に京都でお会いする

________________

奉祝 天皇陛下御即位
2019(平成31/令和元)年
春期京都非公開文化財特別公開
<京都市山科区>
安祥寺
【主催者による特別公開公式サイト】 チラシ
【主催者による特別公開公式サイト】 開催要項

主催:安祥寺、(公財)京都古文化保存協会
会場:安祥寺
会期:2019年4月26日(金)~5月10日(金)
   (注)公開が5月6日(月)までの寺院もあります
原則休館日:会期中なし
入館(拝観)受付時間:9:00~16:00

※この特別公開は定期的に行われるものではありません。
※この寺・堂宇は観光目的では常時公開されていません。次の公開時期は未定です。



◆おすすめ交通機関◆

JR琵琶湖線/湖西線「山科」駅・京阪京津線「京阪山科」駅下車、南口から徒歩10分
地下鉄東西線「山科」駅下車、3番出口から徒歩10分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
京都駅→JR琵琶湖線/湖西線→山科駅

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 美の偉人ものがたり「藤田傳... | トップ | 京都 承天閣美術館のコレクシ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

お寺・神社・特別公開」カテゴリの最新記事