京都・細見美術館で、館蔵コレクションの名品を選りすぐった展覧会「美の饗宴 若冲と祈りの美」が行われています。館のコレクションの二大潮流を成す伊藤若冲と仏教美術という、かなり色合いの異なるコレクションが並んで展示されますが、いずれも館のコレクションの原点となる思い入れの深いジャンルです。
- 若冲「糸瓜群虫図」ほか細見コレクションを代表する名品が勢揃い
- 仏教美術と若冲は、細見コレクションを形成した初代と二代がそれぞれ注力した蒐集ジャンル
- 細見美術館の原点に立ち返るような構成で、令和の幕開けを飾る
色合いの異なるジャンルが並列されますが、展示順やフロアの違いが充分に配慮されており、違和感はゼロです。いつも感心しますが、展示構成が上手な美術館です。
ミュージアムショップ「ARTCUBE SHOP」
細見美術館は京都・岡崎に1997年にオープンしていますが、コレクションの蒐集は戦後にさかのぼります。大阪・泉大津の毛織物事業で財を成した初代・細見良は、仏教美術を手始めに中世絵画や茶の湯美術を主に収集しました。良の子の二代・實は、主に江戸絵画を蒐集します。實の子で現館長・良行は、祖父と父の蒐集方針の反りは全く合わなかったものの、伊藤若冲だけは唯一好みが合ったと語っています。
1950年代に若冲は、現在では考えられませんが、ほとんど忘れられていた画家でした。細見良やジョー・プライスら、ごく限られたコレクターが若冲作品を収集していた程度でした。若冲だけでなく江戸絵画全般に注目度は高くなく、美術と言えば圧倒的に西洋絵画の方が人気があったのが、昭和の高度経済成長の時代でした。
細見良・實二代が若冲と江戸絵画に早くから注目していたことは、今となっては「先見の明があった」と称賛することはできますが、典型的な結果論でもあります。細見美術館の素晴らしい江戸絵画のコレクションはひとえに、良・實二代が若冲と江戸絵画をとても愛していたことにほかなりません。
先見の明だけではこれだけの質と量の蒐集はできません。注目度が低かったゆえに作品が流通し、蒐集がしやすかったという時代環境も幸いしたことでしょう。
細見美術館の展示室は、入口の1FからB2Fまでおりる3フロア構成です。展覧会は若冲の六曲一双(ろっきょくいっそう)屏風3作品から始まります。
「花鳥図押絵貼(かちょうずおしえばり)屏風」は、隣り合う2面をペアにして同じ動植物を描いた屏風です。「押絵貼」とは、屏風の各曲毎に淵を描き、独立した絵が”貼られて”いるように見せる手法です。曲をつなげて連続して描くわけではないため、モチーフや構図の変化と表現の統一感のバランスが求められます。
第一印象として表現にバラバラ感がないのは、さすがに若冲です。得意な鶏を含め六種類の動植物を、墨だけで描いて圧倒的な生命感を表現しています。画業初期の作品と見られており、若冲の才能を見事に感じさせる名品です。
【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
一つ下のフロアも若冲作品です。このフロアも細見美術館が誇る著名な若冲作品が多く展示されています。見た記憶がある作品も多いことでしょう。
「雪中雄鶏(せっちゅうゆうけい)図」は、現在知られる若冲の画業最初期、三十代半ばの作品です。雪や鶏の羽のタッチに若さが感じられますが、最高傑作「動植綵絵」の流れるような表現を彷彿とさせます。若冲ワールドの原点となる記念碑的作品です。
「糸瓜群虫(へちまぐんちゅう)図」は、ヘチマの周囲に多種の虫が群がる様子を描いており、ヘチマの緑色の美しさが際立ちます。虫はまるで動き出すかのように本物そっくりに細い手足が表現されており、若冲の表現技術の高さを象徴するような作品です。ヘチマは実物以上に長く強調されて描かれていますが、それが構図の絶妙なバランスを演出しています。
若冲の繊細な表現技術を説明するために、この作品からは「若冲はこの中に何匹の虫を描いたでしょう」とよく問題が出ます。ほとんどの人は答えられません。正解は11匹です。
「海老図」「仔犬に箒図」「伏見人形図」といったおなじみの”ほっこり”作品も登場しています。何回見ても決して飽きることはありません。六曲一双の「遊鶏(ゆうけい)図押絵貼屏風」も目を引きます。こちらは弟子・若演(じゃくえん)の作品です。12面とも鶏を描いていますが、それぞれ鶏の動きがダイナミックで滑稽です。師の若冲との個性の違いをとても楽しく鑑賞できます。
茶室・古香庵は2F、東山の眺めが美しい
最後のB2Fが仏教美術と茶の湯美術の展示です。若冲の華やかで卓越した作品を見た後に、心が洗われて引き締まるような気分になります。しゃきっとした心で、最後に設けられたミュージアムショップ「ARTCUBE SHOP」で様々なオリジナルの雑貨を楽しむことができます。
「刺繍大日如来像」は、鎌倉時代の作品ですが、保存状態が極めてよいことが特筆されます。発色や金具が制作当初からそのまま残されていると考えられています。背景の青い刺繍は、イスラム寺院の吸い込まれるようなブルーのモザイクのように、見事な輝きを放っています。昨年2018年夏の奈良国立博物館の展覧会「糸のみほとけ」に出展され、輝いていたことをはっきりと記憶しています。重要文化財です。
重要文化財「線刻十二尊鏡像」のきわめて繊細な彫刻も目を引きます。一流の職人がが本当に心を込めて造っていた様子が今にも伝わってくるようです。
平安神宮、令和が始まった
細見美術館での若冲作品の本格的な登場は、昨年2018年初の「はじまりは、伊藤若冲」展以来となります。新緑が美しい京都・岡崎の風景とあわせてお楽しみください。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
細見美術館の江戸絵画を余すところなく紹介(日本語の本です)
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<京都市左京区>
細見美術館
美の饗宴 若冲と祈りの美
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:細見美術館 京都新聞
会期:2019年4月27日(土)~6月16日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
地下鉄東西線「東山」駅下車、2番出口から徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設に駐車場はありません。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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