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世界一の”記憶”の表現_大阪 国際美術館「ボルタンスキー」5/6まで

2019年02月16日 | 美術館・展覧会

失われたものの記憶をインスタレーションで表現するフランス現代アートの巨匠、クリスチャン・ボルタンスキー(Christian Boltanski)の大回顧展が大阪の国立国際美術館で始まりました。

  • ボルタンスキーはまだ現役、本人が会場に合わせたインスタレーションを手掛けた
  • 歴史や記憶を表現するために、写真や過去にあったモノ、光を巧みに組み合わせて利用
  • ホロコーストへの叫びを感じさせるような、深い精神性のある作品が特徴的


大阪展を皮切りに、東京・国立新美術館と長崎県美術館に巡回します。ボルタンスキーによる世界最先端の”記憶”の表現が日本を駆け巡ります。



クリスチャン・ボルタンスキーは1944年にパリに生まれ、1970年代には写真を、1980年代には光を用いたインスタレーションで注目を集めるようになります。歴史や自己と他人の記憶を、写真や昔の製品など、今は失われた姿を表現できる素材を用いて、一貫して創作を続けてきました。彼の作品が投げかける問いの深さは、その精度を増していきます。

1985年に製作が始まった「モニュメント」シリーズは、写真や光を用いて、宗教や死についての彼の精神性を表現した作品です。「プーリム祭」はナチス時代に撮影されたユダヤ人の顔写真を用いて、ホロコーストへの恐怖を表現しています。しかし歴史博物館で見られるような”記録”の展示ではなく、写真の主を尊重するような、芸術的な意匠が施されています。この芸術性の付加が彼の最大の魅力です。


保存室(カナダ)(右の壁の作品)、コート(左の奥の壁の作品)

ボルタンスキーは展示会場に合わせたインスタレーションを創作することでも知られています。「保存室(カナダ)」は1990年の水戸芸術館で開かれた個展の際に製作されたものです。おびただしい数の古着が壁一面に吊り下げられたこの作品からは、おびただしい数の人間の営みの”記憶”が伝わってくるようです。

「コート」は、青色電球が背後から後光のように差しており、キリストの磔刑のように見えます。このコートを着ていた人に祈りをささげることを暗示するようにも見え、その人への”記憶”を呼び起こすことを問いかけているような作品です。


アニミタス(右:白、左:チリ)

「アニミタス」は大自然の中に”あった”人工物をひたすら記録した動画作品です。「白」「チリ」ともに、先端に風鈴を取り付けたおびただしい数の細い棒がモチーフです。「白」は極北カナダ、「チリ」はチリの砂漠という真逆の環境で、それぞれ棒が風になびく様子を撮影しています。いずれの作品も人工物は撮影後も放置され、現在は消滅していると考えられます。ボルタンスキーならではの、今は失われた”記憶”の表現です。

ボルタンスキーは自身の”記憶”も作品にのこしています。「自画像」は7歳から60歳までの27枚、いわゆる証明写真のようなポートレイトをひたすら並べた作品です。ただし年齢順ではなく無秩序に配列されています。ごちゃまぜにすることによって、自らの”記憶”をブレンドして一つに表現しようとしたのでしょうか。

「合間に」は吊り下げられた紐のカーテンに、7歳から60歳までのポートレイトが一枚ずつ投影されていきます。観覧者はこの紐のカーテンをかき分けないと次の展示室には進めないようになっています。自らの世界観の中に観覧者を導くような仕掛けに感じられます。

現代アートはとにかく表現やテーマが多様であり、実に多様な印象も受けます。ボルタンスキーは、そんな中でも”記憶”という一貫性を感じるアーティストです。いずれも深い精神性を感じる作品ばかりで、”記憶”の大切さを実に巧みにモノを通じて表現しています。

フランスを代表する現代アーティストと呼ばれ、世界中で高い評価を受けるボルタンスキーの表現力に深い感銘を受ける展覧会です。大阪展に行けない方は、東京か長崎で観覧予定されることを強くおすすめします。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



2016年に旧朝香宮邸で行われた個展の図録

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国立国際美術館
クリスチャン・ボルタンスキー − Lifetime
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:国立国際美術館、朝日新聞社
会場:B3F
会期:2019年2月9日(土)~5月6日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。ただしフラッシュ/三脚/自撮り棒は禁止です。
※この展覧会は、2019年6月から国立新美術館、2019年01月から長崎県美術館、に巡回します。
※この会場で展示されない作品があります。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

京阪中之島線「渡辺橋駅」下車徒歩5分、大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車徒歩10分、
JR環状線・阪神本線「福島駅」・JR東西線「新福島駅」下車徒歩10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
JR大阪駅→大阪メトロ四つ橋線→肥後橋駅

公式サイトのアクセス案内

※この施設に駐車場はありません。


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