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超<集客力>革命_名著レビュー_美術館には可能性があふれている

2019年02月11日 | 名作レビュー

角川oneテーマ21新書、蓑豊著「超<集客力>革命」を読みました。著者の蓑豊(みのゆたか)は現在の日本の幾多もいる美術館の館長の中で最も著名な人物です。

  • 金沢21世紀美術館を成功させたノウハウで兵庫県立美術館のマーケティングに挑む
  • 美術館の館長職は名誉職では務まらない
  • 美術館が街を元気にする


日米の主要な美術館をいくつも渡り歩いてきた著者は、グローバルに通用する視点でマーケティングを考えています。「どうやったら持続できるか」、どんな事業でも共通の課題に愚直に取り組んでいます。


兵庫県立美術館のカエル

著者の名前を一躍有名にしたのは。何といっても2004年のオープン時に初代館長を務めた金沢21世紀美術館の大成功でしょう。オープン1年目から地方の美術館としては驚異的な150万人の入館者を集め、一躍金沢トップクラスの集客スポットになります。現在は年間250万人ほどに増えており、わが国を代表”すべき”東京国立博物館より多い水準です。

金沢21世紀美術館の努力はもちろんですが、それ以上に東京国立博物館のマーケティングがうまくいっていないことに衝撃を覚えます。著者は安定集客のために「常設展」の大切さを説きます。常設展こそがその美術館にしかない魅力であり、看板商品になるからです。

【金沢21世紀美術館の画像】 レアンドロ・エルリッヒ「スイミング・プール」

金沢21世紀美術館の「スイミング・プール」は館の象徴のような常設展示作品になっており、これを見るために金沢を訪れる観光客の多くが足を運びます。

一方東京国立博物館は、他と比較にならないほど圧倒的多数の国宝・重要文化財を所蔵・寄託しています。「日本画は常設展示できない」と言い訳する必要がないほど、次から次へと傑作を入れ替えることができます。法隆寺宝物館や東洋館との回遊も全くうまくいっていません。


美術館が街を変える

著者は世界中で起きている美術館革命を目の当たりにしています。成功例としてスペインのビルバオの取り組みを挙げています。造船業が衰退した街を文化で蘇らせるべくニューヨークのグッゲンハイム美術館の分館を誘致し、その建設と運営に予算を集中投下します。観光客数は急増し、今やビルバオはスペインを代表する文化都市のイメージが定着しています。

近年の成功した新設美術館は、建物空間の魅力を目玉にしていることも指摘しています。非日常空間を体験してもらうためにはとても大切な要素です。金沢21世紀美術館も巨大な円盤形のガラス張り建築で、宇宙船に乗っているような錯覚を味わえます。

兵庫県立美術館でも、最寄りの阪神電車の岩屋駅に「兵庫県立美術館前」と表示してもらうことから始めます。駅から館までをミュージアムロードと名付けてオブジェやショップを誘致、安藤忠雄による建築の屋上には巨大なカエルのオブジェをのせてしまいます。美術館も人が来てくれないと意味がなく、テーマパークやショッピングモールを成功させるのと同じマーケティングに著者は取り組んでいます。

美術館の館長はえらい大学の先生が務める名誉職ではなく、自らが積極的にマーケティング努力をすべきと考えています。金沢や兵庫での取り組みも、著者自身の努力はもちろん、築き上げてきた人脈の賜でもあります。


美術館が教育を変える

著者は金沢21世紀美術館の館長を引き受けた時「美術館は子供と一緒に成長すべき」という志を持ったと語っています。金沢市内のすべての小中学校の生徒を美術館に案内し、子どもも大人も楽しめる美術館というイメージを定着させ、館の人気に火を付けます。

国際社会で認められるために必要ながら、日本人は否定的にとらえるアイデンティティを育成するためには、美術作品を見て自分の意見を言うことが大切だと考えているのです。

子どもは「絵はわからない」とは決して言いません。「つまらない」「面白い」といった何がしかの形容詞で表現します。そんな子どもに接すると大人も何がしかの意見を言わざるをえません。となると大人が逆に子どもに教えられることになります。著者はこうしたコミュニケーションの循環サイクルを理想としています。

読み進めていくと、著者は過去の経験に安住せず、常に新しいものを求め続けている人物だと感じられます。日経に私の履歴書を執筆すると、きっと大人気になると思います。



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超<集客力>革命
著者:蓑 豊
判型:新書(角川oneテーマ21)
出版:角川書店
初版:2012年4月10日

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