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三重で「浮世絵モダーン」展|美の五色 ~パラミタmuseum

2018年12月14日 | 美術館・展覧会

前から行きたかった三重県の菰野(こもの)にあるパラミタミュージアムをようやく訪れることができました。新版画の多様な作家を紹介する「浮世絵モダーン展」も、とても内容が充実していました。

  • 三重県の名峰・御在所岳の麓にある緑豊かな高原の美術館
  • 常設展示では池田満寿夫や長快作・十一面観音が必見
  • 浮世絵モダーン展は五葉・巴水ら著名作家以外も多数紹介
  • 新版画では見慣れない役者絵や花鳥画も注目


事前の期待を裏切らない美術館であり、展覧会でした。近くには湯の山温泉もあります。リゾート地によく見られる個性的な美術館です。


美術館への入口

パラミタミュージアムは2003年、現在のイオングループの基礎・ジャスコを築き上げた岡田卓也の姉・小嶋千鶴子が開館しました。開館のきっかけは、現在も館の目玉収蔵品になっている池田満寿夫の彫刻「般若心経シリーズ」を入手する際に、展示施設の建設を約束したためです。一風変わった館名の「パラミタ」とは、般若心経の一説「波羅蜜多(はらみった)」に因んだものです。

現在は岡田文化財団が運営しており、美術館では音楽コンサートもよく行われています。館の裏にあるパラミタガーデンでは、高原の森のような庭園を、点在する彫刻作品を見ながら散策することができます。美術・音楽・自然と多様なコンテンツが用意された美術館です。


玄関横の庭

2階建ての美術館は、1Fが常設展示、2Fが企画展示の部屋です。玄関からガーデンや2Fへ向かう通路にあるギャラリーでは、2008年に三重県内の旧家で発見され、館が購入した十一面観音が荘厳な姿を見せています。作者の長快は快慶の高弟で、それまでは六波羅蜜寺の弘法大師像しか作品が確認されていなかった謎の仏師です。

師匠の快慶が制作した奈良・長谷寺本尊の余材を用いた長谷寺本尊の縮尺像です。快慶一門らしい静けさのある表情が印象的です。明治に廃絶した興福寺の子院の本尊で永らく行方不明でしたが、三重県の旧家で大切に保存されていました。地肌や光背に痛みは見られず、金箔の輝きをとてもよく残しています。保存状態が良いことがわかります。重要文化財にふさわしい美仏です。

【パラミタミュージアムの画像】 池田満寿夫「般若心経シリーズ」

池田満寿夫の「般若心経シリーズ」は、とてもエネルギッシュに輪廻転生の世界観を表現した彫刻です。まるで庭に座って自己と向き合うように、時間をかけて鑑賞してしまいます。



パラミタガーデンをのぞむサロン

2Fへは1Fから緩やかに上るスロープを歩くのがおすすめです。美しいガーデンを一望できます。2Fの浮世絵モダーン展は「女性」「風景」「役者」「花鳥」「自由なる創作」の全5章で構成されています。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

最初の美人画から、私にとっての新しい発見が相次ぎました。オーストリア人のフリッツ・カペラリによる「黒猫を抱く女」は、繊細さは見られないものの、青い目を通じて見えたのであろう日本女性のヌードの印象の素朴な表現が目を引きます。欧米人にも新版画を制作していた画家がいたことには驚きです。

【町田市立国際版画美術館の画像】 橋口五葉「髪梳ける女」

橋口五葉の代表作「髪梳ける女」もやってきていました。新版画の美人画を代表する傑作であることは昔も今も変わりません。橋口五葉では珍しい風景画、「耶馬渓」は興味深い作品でした。美人画の画風と同じく風景をとても明るく描いています。

同様に風景画をあまり見かけない伊東深水の「セレベス マカッサル郊外」も斬新でした。インドネシアの人々の生活をまさに赤道直下と思わせる明るい陽光の下に描いています。

巴水・深水らと共に鏑木清方の門人だった小早川清(こばやかわきよし)による、芸者や女給を描いた美人画も目に留まります。芸者や女給は現代でいう風俗嬢です。自らの職業に向き合い、客を誘惑するようで挑戦的でもある目線の表現に、戦前という時代の日本社会の実情を見て取れます。一生賢明生きていた女性の表情を、美しく怪しく、実にリアルに表すテクニックには感服します。

山村耕花(やまむらこうか)・名取春仙(なとりしゅんせん)らによる役者絵は、写楽らによる江戸時代の役者絵より格段に写実性が増しています。現代の劇場の舞台を宣伝する看板のようなリアルな趣を感じます。戦前は、写真はあったものの、まだまだ高価で看板には使いにくかった時代でした。マスへの宣伝が写真に移行する直前の時代を学べる、稀有な作品をのこしてくれました。
小原古邨(おはらこそん)の花鳥画が出展されていることにも驚きました。日本国内に比べ欧米での人気が圧倒する古邨の魅力は、欧米にも中国にもない、風景と重ね合わせたリアルながらも平面的な花鳥の表現にあります。立体感を出さない伝統的な日本画の手法と写実性のバランスを絶妙に調和した表現は、小原古邨そのものです。

橋口五葉・伊東深水・川瀬巴水・吉田博といった、早くに有名になった作家が多く手掛けていたため、風景画と美人画の印象が強い新版画です。これほど多様なモチーフや表現がなされていることは驚きでした。作家の多さにも同じく驚きました。古き良き戦前のカルチャーを色濃く伝える新版画を、私はますます好きになりました。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



近年人気上昇中の「新版画」を確立した画商の生涯

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パラミタミュージアム
浮世絵モダーン 深水の美人! 巴水の風景! そして・・・
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:岡田文化財団パラミタミュージアム、中日新聞社
会期:2018年12月6日(木)~2019年1月14日(月)
原則休館日:12/24-1/1
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2018年6月まで町田市立国際版画美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、他の巡回先と展示作品が一部異なります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄四日市駅から近鉄湯の山線「大羽根園」駅下車、徒歩5分
東名阪道「四日市」ICから車で15分

近鉄四日市駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
近鉄四日市駅→近鉄湯の山線→大羽根園駅
近鉄四日市駅まで近鉄特急で 大阪難波から2時間、近鉄名古屋から30分

【公式サイト】 アクセス案内

※鉄道は本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


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