建築家ル・コルビュジエの名は、2016年に彼の設計作品である東京・上野の国立西洋美術館・本館が世界遺産登録されたことで、日本でもかなり著名になりました。しかし彼が画家としての側面を持つことはほとんど知られていません。国立西洋美術館で、建築の巨匠と呼ばれるようになった原点を、彼の画家としての活動から探る展覧会が行われています。
- 装飾がなく床や柱の自由な組み合わせで空間を造るル・コルビュジェ建築の原点は、ピュリスム絵画
- 第一次大戦終結直後の同時代に流行したキュビズム絵画やアールデコ建築との対比が興味深い
- 通常は常設展会場の本館をあえて会場にしていることで、ル・コルビュジェの魅力を一層味わえる
コルビュジェによる自由で芸術的な本館の展示空間で、画家としての彼の側面を鑑賞できます。通常のB2F企画展示室ではなく、本館で特別展を鑑賞できること自体も、めったにない体験になります。
ル・コルビュジエ Le Corbusier というのは実はペンネームで、本名はシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ Charles-Édouard Jeanneret です。1887年にスイスで生まれ、建築を学ぶためにパリに出てきます。1918年にアメデエ・オザンファン Amédée Ozenfant と共に「キュビズム以後」を出版し、理論に基づく構成で機械的な絵画表現を行うピュリスム(純粋主義)を提唱します。
1920年には芸術雑誌「レスプリ・ヌーヴォー」をオザンファンと共に創刊し、芸術と生活のあらゆる面での機械的な表現を主張するようになります。ジャンヌレがこの雑誌に寄稿する際に使い始めたペンネームがル・コルビュジエです。以降建築家としての知名度が上がるにつれ、ル・コルビュジエの名だけが知られるようになります。
展覧会公式YouTube
通常の常設展と同じく、本館1Fの19世紀ホールがこの特別展の入口です。2Fまで吹き抜けの空間には、柱・階段・バルコニーが自由に組み合わされていますが、壁やパーツに装飾は一切ありません。まさにコルビュジェによる芸術的で自由な空間から展覧会が始まることに、ワクワク感を覚えます。本館を会場にしたことは、大正解の演出です。
展覧会入口の19世紀ホール(この部屋の展示のみ私的利用の写真撮影OK)
特別展の順路は常設展と同じです。19世紀ホールのゆったりした階段で本館2Fへあがります。一周して鑑賞する本館2Fがメイン会場で、一周後に新館へ入ると常設展になります。特別展のミュージアムショップは、いつもの特別展と同じく、1F正面入口前に設けられています。
出展作品は、主催者でもあるル・コルビュジエ財団所蔵品を中心に、世界中の美術館から集められています。西洋美術館や主催者は作品を借りる交渉にとても苦労したでしょう。コルビュジエ作品・史料を多く所蔵している大成建設からの出展も、普段は公開していないため注目です。
【大成建設】ギャルリー・タイセイ ル・コルビュジエ コレクションについて
ジャンヌレとオザンファンによるピュリスム絵画は、一見キュビズムに似ているように見えますが、キュビズムのように何をモチーフにしているのかわからないようなことはありません。平面に描いた静物を幾層にも重ねて表現しており、一定の規則に基づき機械的に描いたコンピュータ・グラフィックスのように見えます。ジャンヌレ「多数のオブジェのある静物」、オザンファン「和音」はその典型的な作品です。
一定の規則に基づくことがピュリスム表現の根幹です。そのため作者の個性が作品に現れにくいという解説がなされていたことに、妙に納得しました。
【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
ピカソやブラックらのキュビズム作品も多く展示されており、ピュリスム作品との魅力の違いをより考えやすいような構成になっています。個人的にはピュリスム的表現は、建築のような3Dでより大きな表現ができる作品の方が、魅力的に映ると感じました。ピュリスムは高度なテクニックを駆使した緻密な表現は行いません。絵画のように2Dで小さい表現しかできないと、作者の個性が伝わりにくいのです。
ル・コルビュジエは「近代建築の五原則」として5つの要素をあげ、これらを組み合わせることで芸術的な空間を造ろうとします。ピロティ/屋上庭園/自由な設計図/水平連続窓/自由なファサードです。ファサードは「自由」と定義していますが、建物の外壁から室内の壁に至るまで。装飾を全く行わないことに特徴があります。現代でも通用するモダニズム・デザインです。
【サヴォワ邸公式サイトの画像】
最高傑作とされるパリ郊外のサヴォワ邸はこの5つの要素が最も美しく表現されています。国立西洋美術館でも、屋上は公開されていないため庭園の様子はわかりませんが、装飾のない正面ファサードの下にピロティが設けられています。展示室空間も変化に富んだ柱や壁の配置が印象的ですが、美術館なので大きな窓がないのはやむをえません。
ル・コルビュジエ建築作品の模型やデザインスケッチも多く展示されていますが、展覧会の会場空間そのものを見ることで、ピュリスムを原点とした彼の空間表現思想がより理解しやすくなります。
建築家としての足跡がわかる展示ではなく、画家としての活動に重きを置いた構成にしたことも、かえってル・コルビュジエ建築の奥深さと美しさを味わいやすくなっています。本館を会場にしたこともなおさらです。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
建築ムックと言えば Casa BRUTUS
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国立西洋美術館
開館60周年記念
ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】
主催:国立西洋美術館、ル・コルビュジエ財団、東京新聞、NHK
会場:本館
会期:2019年2月19日(火)~2019年5月19日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:30(金土曜~19:30)
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています(本展会期中は新館展示室のみ)。
◆おすすめ交通機関◆
JR「上野駅」下車、公園口から徒歩2分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩8分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩8分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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