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京都 因幡堂平等寺の美仏が今だけ勢揃い_龍谷ミュージアム 6/9まで

2019年04月29日 | 美術館・展覧会

京都の龍谷ミュージアムで「因幡堂平等寺(いなばどうびょうどうじ)」展が始まっています。嵯峨の清凉寺と並んで京都の町衆から篤い信仰を受けた薬師如来を始め、通常非公開の美仏や絵巻が一堂に揃います。

  • 本堂の改修工事に際して寺の文化財が一斉にミュージアムに”仮住まい”、またとない機会
  • 町衆の信仰を集めた本尊・薬師如来の柔和なお顔は、日本三如来と呼ばれるにふさわしい
  • 東京国立博物館所蔵の重文「因幡堂縁起」のほか、ゆかりの寺から出展される仏像も美仏揃い


龍谷ミュージアムは、仏教美術の常設展はもとより、企画展の構成の上手さにいつも感心します。京都駅から歩いて行けます。ぜひおすすめします。



因幡堂平等寺の正式名称は平等寺です。有名な薬師如来の縁起に因んで京都人の間では、通称の因幡堂もしくは因幡薬師と呼ばれることが多くなっています。京都の中心繁華街のすぐ近く、烏丸高辻にあります。平安時代から続く町衆が集まる中心市街地・下京(しもぎょう)のど真ん中に位置します。

平等寺本尊の薬師如来が、嵯峨・清凉寺の釈迦如来、長野・善光寺の阿弥陀如来と並んで日本三如来と呼ばれるのは、いずれもインドから中国を経て日本に伝来したと信じられてきたためです。


薬師如来を海から引き揚げている絵巻で記念撮影

展覧会に出展されている東京国立博物館蔵「因幡堂縁起」に、薬師如来の由縁が美しい絵で表現されています。鎌倉時代の作品で写実的に描かれており、ストーリーがとてもわかりやすい描写です。

【東京国立博物館公式サイトの画像】 「因幡堂縁起」

平安時代半ば、赴任先の因幡国(現在の鳥取県西部)にいた都の貴族・橘行平(たちばなのゆきひら)の夢枕で「インドから仏像が海岸に流れついているので引き上げよ」と声が囁きます。まもなく京に帰任した行平は薬師如来をいずれ京に迎えるつもりでしたが、その前に薬師如来自身が京の行平の屋敷まで飛んできました。

行平の屋敷があったのは現在の平等寺で、薬師如来をまつったのが平等寺の起源という、中世の人に霊験をアピールするにはとてもわかりやすいストーリーになっています。

平安時代は洛中で、官寺の東寺/西寺以外の寺院建立は禁止されていました。貴族の私的な持仏堂や町衆の集会所を兼ねた町堂(ちょうどう)はわずかに認められていました。平等寺もそうした寺の一つで、六角堂頂法寺や革堂行願寺と並んで、市街地の中核的な町堂として永く町衆から信奉を集めてきました。古くは天台宗でしたが、現在は真言宗智山派です。



展示の最初は「因幡堂縁起」から始まります。因幡堂が町衆から愛されてきた理由がよくわかります。なお重文の鎌倉時代の原本は前期のみ展示で、後期は東博蔵の江戸時代の狩野派による摸本が展示されます。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

本尊の薬師如来立像はほぼ等身大で、定朝様式ほどには目立ちませんが、ふくよかなお顔立ちです。平安時代半ばの作品でしょう。どんな病気も治してくれるような包容力を感じさせます。町衆からの信仰が、お顔をさらにふくよかに見せているようです。

本尊を安置する厨子も並んで展示されています。背面には木製の車と紐が付けられており、火事に際して速やかに避難させるためのものです。町衆の知恵がさりげなくいかされているのでしょう。

因幡堂には美仏が揃っていることに驚きます。重文の「阿弥陀如来坐像」は鎌倉時代の慶派仏師によるイケメン仏です。端正さの中に柔和さも兼ね備えたマスクが何とも言えません。重文の「如意輪観音坐像」は鎌倉時代の作で、密教的な怪しさをあまり感じさせないお顔立ちが逆に魅力です。

三頭身ほどの巨大な顔の「大黒天立像」は迫力があります。室町時代の作品で、大黒天の作例が憤怒相から柔和相に変化していく過渡期のような印象を受けます。時代劇の悪徳代官のような表情に、何ともユーモアがあります。

安土桃山時代から江戸初期を代表する仏師・康正(こうしょう)による「弘法大師坐像」も名品です。数ある弘法大師像の中でもかなりのイケメンです。康正は東寺金堂の薬師三尊の作者としても知られています。


本堂向拝軒下の薬師如来懸仏(撮影OK)

因幡堂の近く、高倉五条にある浄土宗寺院・西念寺(さいねんじ)から、「阿弥陀如来坐像」が出展されています。因幡堂のイケメン「阿弥陀如来坐像」に表情がとてもよく似ており、同じ仏師か工房で造られた可能性が高いと感じられます。西念寺像は運慶の嫡男・湛慶(たんけい)作という説もあります。胸の前に両手を突き出し指で輪を作る印相はとても珍しく、神秘的でもあります。

江戸時代に境内が賑わった様子をうかがわせる史料も見応えがあります。旅行ガイドである都名所図会や、境内で行われた狂言の人気番付など、町衆が集まっていた当時の活気がひしひしと伝わってきます。

5/11からは岐阜市の延算寺(えんさんじ)蔵の重文「薬師如来」が出展されます。この像も因幡堂本尊と同じく、因幡から美濃まで飛んできたという縁起があります。海中から引き揚げたものではなく、最澄の作とされています。こちらも庶民の人気を集めたようで、楽しみです。


ミュージアム周辺は京都一の仏具店街、仏具店には見えないデザインが斬新

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



100m歩けば何かの石碑がある、そんな京都の下京をたどる一冊

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<京都市下京区>
龍谷ミュージアム
企画展
因幡堂平等寺
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:龍谷ミュージアム、京都新聞、毎日新聞社
会場:3階展示室
会期:2019年4月20日(土)~6月9日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※5/19までの前期展示、5/21以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。




◆おすすめ交通機関◆

JR/近鉄/地下鉄・京都駅から徒歩15分
地下鉄烏丸線・五条駅から徒歩15分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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