(2012/ベン・アフレック監督/ベン・アフレック、ブライアン・クランストン、アラン・アーキン、ジョン・グッドマン/120分)
2012年度のアカデミー賞で作品賞を獲った映画でありますな。
1979年にイランで発生したアメリカ大使館人質事件に題材をとった作品で、殆どの大使館員がイラン側の人質にされる中、一時避難的に大使館を脱出した6名の職員のその後の救出劇であります。
実話と謳ってる割には事実と違う所が一杯あるじゃないかと文句を垂れてる鑑賞者もいらっしゃるようですが、事実通りに作って面白い映画ができるなら誰も苦労しないわけで、同じようなシチュエーションの中で発生したかもしれないフィクションを色々と肉付けし、サスペンスフルに組み合わせるのがプロの力なんですね。
監督は主演(CIAのトニー・メンデス役)も兼ねたベン・アフレック。親友マット・デイモンと共同で書いた「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち (1997)」の脚本でオスカーを受賞した才人ですが、名前が先に上がっているデイモンの方がメインで作ったのかなぁと思っていたら、その後の仕事っぷりを見ていると、どうやらクリエイティヴな才能はアフレックの方が豊かなようです。「ゴーン・ベイビー・ゴーン (2007)」、「ザ・タウン (2010)」に続く監督第三作とのこと。
因みに、作品賞以外にオスカー像を獲ったのは、脚色賞(クリス・テリオ)と編集賞(ウィリアム・ゴールデンバーグ)。そして助演男優賞(アーキン)や作曲賞(アレクサンドル・デスプラ)、音響賞にもノミネートされたそうです。
“事実通りではない”「アルゴ」のストーリーは、まずはイラストとナレーション、そして当時のニュース映像も混ぜて語られる今回の事件の要因となった歴史から。
1950年に国民の圧倒的な支持を集めて首相に就任したモサデグは、欧米が実権を握っている石油関連事業の国有化を断行しようとしたが、怒った英米は陰で操って1953年にクーデターを起こしモサデグ政権を転覆させ親西欧派のパーレビを国王に据えた。パーレビはイランの近代化に努めたが大変な浪費家であり、市民生活の西欧化もイスラム教シーア派教徒たちの反撥を招いた。パーレビは権力が強大になるにつれて秘密警察による反体制派の拷問を含めた弾圧を行ったが、ついに1979年に反対派の革命防衛隊が蜂起、パーレビは国外に脱出した。同年11月、パーレビは末期癌の治療の為にアメリカに亡命申請し、許可された。これに反撥したイラン市民はテヘランのアメリカ大使館に大挙押し寄せ、パーレビの引き渡しを求めた。そして11月4日、ついにデモ隊は大使館の中に乱入したのである。
ここからがいよいよ本筋。冒頭のデモの群集からイラン人の描写は完璧に客観的に終始していて、所謂ドキュメンタリー・タッチは一貫して成功していますね。
大使館にいたアメリカ人は総勢60人程度。重要書類の破棄くらいしか為す術も無く人質になってしまうが、この時裏口から脱出した大使館員が6名いた。6人は若い夫婦が二組と男性が二人。彼らは今回の騒動が明日には解決するだろうが、とりあえずは館の中に居ては危険が大きいので近くの外国の大使館に避難しようとしたのである。
本国アメリカも大騒ぎ。6名の脱出も把握したが、とりあえずは極秘扱いとなった。イラン側はパーレビの引き渡しを要求、アメリカ側は「人道的見地」から引き渡しを拒否、併せて人質全員の即時解放を要求。6人の思惑は外れてその後も膠着状態は続くことになったのです。
「69日後」。
外国の大使館を占拠するという前代未聞の事態は収まるどころか、米国内では市民レベルでも諍いが起こるようになってくる。そんな中、米国国務省の一番の気がかりはカナダ大使館の私邸に匿われた例の6人の事だった。大使館内に残っていた50数名についても『彼らが外交官である証拠は何処にも無い。むしろスパイである証拠ばかりだ』と言い張るイラン側にとってみれば、隠れていた6人は明らかにスパイであると判断して抹殺するに値する存在に違いないからだ。大使館員の名簿や写真はシュレッダーにかけたが、イラン側は子供たちを使って書類の復元を行っており、早晩6人の不在と顔写真が明らかになるだろう。急がねば。
こうして映画は時限サスペンスの色合いを濃くしていくのです。チラチラと挿入されるイランの子供達がシュレッダーで刻まれた顔写真の細い断片を繋ぎ合せていくシーンが怖いですね。
事件を担当する国務省はCIAに意見を求めながら6人の救出方法を模索する。CIAからは人質奪還の専門家トニー・メンデスとその上司オドネル(クランストン)が顧問として出席した。政府の案は6人を外国人教師に見立てたり、農業支援のNGOに見立てたり、はたまた自転車によってトルコ国境を超えるというどれも実現不可能なものばかり。さりとてトニーにもそれ以上のアイディアはなかった。『あえて言えば救出は堕胎と同じもの。嫌な手術だし、素人には出来ない仕事だ』
トニーの奇想天外なアイディアは偶然の産物だった。
自宅に帰ったトニーは別居中の妻と暮らす小学生の息子に電話をした。イランの6人の救出方法が見つからないので気分転換にかけた電話だ。
『宿題は済んだのか?』
『簡単さ』
『(今、TVは)何見てる?』
『「最後の猿の惑星」』
『何チャンネル?』
『5だよ』
何気なく息子と話をしながらその映画を見ていたトニーは、はたと思い付く。これだ・・・、SF映画だ・・・。
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タイトルの「アルゴ」はトニーが思いついた偽装用のSF映画のタイトルですね。
ロケ地に中東の砂漠を使うことが多いSF映画を作ろうとしているカナダのクルーがイランでロケハンを行うという設定を作り、6人をそのクルーに偽装させてテヘラン空港から民間航空機で堂々と脱出させようというわけです。
まさに事実は小説より奇なり。映画なら思いつきそうな話ながら、まさか現実にそういうことを実行する人間がいるとは思わないでしょうね。
偽装がばれれば6人はもとよりトニーの命も危ない。
隠れていた6人もスパイの訓練を受けたこともなく、あまりに難しい試練に成功を危ぶむ声もあがる。
最終的には計画は実行され、全員無事に脱出するわけですが、映画の後半はトニー及び6人にとっての一難去って一難の事態が続いてハラハラしっぱなし。中には実話としてみるにはあまりにスリル満点に出来上がったエピソードも確かにあるけれども、映画として疑問がつくものはなく、終盤で彼らが乗ったスイス機がイラン領空を出た時にはこちらも胸が熱くなりました。特にトニーの計画に反対を唱えていた男性職員とトニーの握手シーンに。だって、空港での最後のシーンでこの職員の機転が功を奏したのですから。
イラン側の情報が少ないというご指摘もあるようですが、これは政治映画ではなくサスペンス・ドラマ。イランの民兵等は主人公達にとって極めて危険な存在であるという表現で充分であり、これ以上の情報が入るのはサスペンスが緩むだけと思われます。
アラン・アーキンはトニーに協力するハリウッドのプロデューサー、レスター・シーゲル役。
同じくトニーに協力したハリウッドの映画人ジョン・チェンバースを演じたのがジョン・グッドマン。チェンバースは「猿の惑星」の特殊メイクアップなどで有名な実在の人物ですが、シーゲルは架空の存在のようです。
2012年度のアカデミー賞で作品賞を獲った映画でありますな。
1979年にイランで発生したアメリカ大使館人質事件に題材をとった作品で、殆どの大使館員がイラン側の人質にされる中、一時避難的に大使館を脱出した6名の職員のその後の救出劇であります。
実話と謳ってる割には事実と違う所が一杯あるじゃないかと文句を垂れてる鑑賞者もいらっしゃるようですが、事実通りに作って面白い映画ができるなら誰も苦労しないわけで、同じようなシチュエーションの中で発生したかもしれないフィクションを色々と肉付けし、サスペンスフルに組み合わせるのがプロの力なんですね。
監督は主演(CIAのトニー・メンデス役)も兼ねたベン・アフレック。親友マット・デイモンと共同で書いた「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち (1997)」の脚本でオスカーを受賞した才人ですが、名前が先に上がっているデイモンの方がメインで作ったのかなぁと思っていたら、その後の仕事っぷりを見ていると、どうやらクリエイティヴな才能はアフレックの方が豊かなようです。「ゴーン・ベイビー・ゴーン (2007)」、「ザ・タウン (2010)」に続く監督第三作とのこと。
因みに、作品賞以外にオスカー像を獲ったのは、脚色賞(クリス・テリオ)と編集賞(ウィリアム・ゴールデンバーグ)。そして助演男優賞(アーキン)や作曲賞(アレクサンドル・デスプラ)、音響賞にもノミネートされたそうです。
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1950年に国民の圧倒的な支持を集めて首相に就任したモサデグは、欧米が実権を握っている石油関連事業の国有化を断行しようとしたが、怒った英米は陰で操って1953年にクーデターを起こしモサデグ政権を転覆させ親西欧派のパーレビを国王に据えた。パーレビはイランの近代化に努めたが大変な浪費家であり、市民生活の西欧化もイスラム教シーア派教徒たちの反撥を招いた。パーレビは権力が強大になるにつれて秘密警察による反体制派の拷問を含めた弾圧を行ったが、ついに1979年に反対派の革命防衛隊が蜂起、パーレビは国外に脱出した。同年11月、パーレビは末期癌の治療の為にアメリカに亡命申請し、許可された。これに反撥したイラン市民はテヘランのアメリカ大使館に大挙押し寄せ、パーレビの引き渡しを求めた。そして11月4日、ついにデモ隊は大使館の中に乱入したのである。
ここからがいよいよ本筋。冒頭のデモの群集からイラン人の描写は完璧に客観的に終始していて、所謂ドキュメンタリー・タッチは一貫して成功していますね。
大使館にいたアメリカ人は総勢60人程度。重要書類の破棄くらいしか為す術も無く人質になってしまうが、この時裏口から脱出した大使館員が6名いた。6人は若い夫婦が二組と男性が二人。彼らは今回の騒動が明日には解決するだろうが、とりあえずは館の中に居ては危険が大きいので近くの外国の大使館に避難しようとしたのである。
本国アメリカも大騒ぎ。6名の脱出も把握したが、とりあえずは極秘扱いとなった。イラン側はパーレビの引き渡しを要求、アメリカ側は「人道的見地」から引き渡しを拒否、併せて人質全員の即時解放を要求。6人の思惑は外れてその後も膠着状態は続くことになったのです。
「69日後」。
外国の大使館を占拠するという前代未聞の事態は収まるどころか、米国内では市民レベルでも諍いが起こるようになってくる。そんな中、米国国務省の一番の気がかりはカナダ大使館の私邸に匿われた例の6人の事だった。大使館内に残っていた50数名についても『彼らが外交官である証拠は何処にも無い。むしろスパイである証拠ばかりだ』と言い張るイラン側にとってみれば、隠れていた6人は明らかにスパイであると判断して抹殺するに値する存在に違いないからだ。大使館員の名簿や写真はシュレッダーにかけたが、イラン側は子供たちを使って書類の復元を行っており、早晩6人の不在と顔写真が明らかになるだろう。急がねば。
こうして映画は時限サスペンスの色合いを濃くしていくのです。チラチラと挿入されるイランの子供達がシュレッダーで刻まれた顔写真の細い断片を繋ぎ合せていくシーンが怖いですね。
事件を担当する国務省はCIAに意見を求めながら6人の救出方法を模索する。CIAからは人質奪還の専門家トニー・メンデスとその上司オドネル(クランストン)が顧問として出席した。政府の案は6人を外国人教師に見立てたり、農業支援のNGOに見立てたり、はたまた自転車によってトルコ国境を超えるというどれも実現不可能なものばかり。さりとてトニーにもそれ以上のアイディアはなかった。『あえて言えば救出は堕胎と同じもの。嫌な手術だし、素人には出来ない仕事だ』
トニーの奇想天外なアイディアは偶然の産物だった。
自宅に帰ったトニーは別居中の妻と暮らす小学生の息子に電話をした。イランの6人の救出方法が見つからないので気分転換にかけた電話だ。
『宿題は済んだのか?』
『簡単さ』
『(今、TVは)何見てる?』
『「最後の猿の惑星」』
『何チャンネル?』
『5だよ』
何気なく息子と話をしながらその映画を見ていたトニーは、はたと思い付く。これだ・・・、SF映画だ・・・。
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タイトルの「アルゴ」はトニーが思いついた偽装用のSF映画のタイトルですね。
ロケ地に中東の砂漠を使うことが多いSF映画を作ろうとしているカナダのクルーがイランでロケハンを行うという設定を作り、6人をそのクルーに偽装させてテヘラン空港から民間航空機で堂々と脱出させようというわけです。
まさに事実は小説より奇なり。映画なら思いつきそうな話ながら、まさか現実にそういうことを実行する人間がいるとは思わないでしょうね。
偽装がばれれば6人はもとよりトニーの命も危ない。
隠れていた6人もスパイの訓練を受けたこともなく、あまりに難しい試練に成功を危ぶむ声もあがる。
最終的には計画は実行され、全員無事に脱出するわけですが、映画の後半はトニー及び6人にとっての一難去って一難の事態が続いてハラハラしっぱなし。中には実話としてみるにはあまりにスリル満点に出来上がったエピソードも確かにあるけれども、映画として疑問がつくものはなく、終盤で彼らが乗ったスイス機がイラン領空を出た時にはこちらも胸が熱くなりました。特にトニーの計画に反対を唱えていた男性職員とトニーの握手シーンに。だって、空港での最後のシーンでこの職員の機転が功を奏したのですから。
イラン側の情報が少ないというご指摘もあるようですが、これは政治映画ではなくサスペンス・ドラマ。イランの民兵等は主人公達にとって極めて危険な存在であるという表現で充分であり、これ以上の情報が入るのはサスペンスが緩むだけと思われます。
アラン・アーキンはトニーに協力するハリウッドのプロデューサー、レスター・シーゲル役。
同じくトニーに協力したハリウッドの映画人ジョン・チェンバースを演じたのがジョン・グッドマン。チェンバースは「猿の惑星」の特殊メイクアップなどで有名な実在の人物ですが、シーゲルは架空の存在のようです。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 
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次から気をつけます!
そのつもりでコメントさせていただきます。
>大使館では夫婦で働いていることが多い
エリートさん達でしょうけど、所謂職場結婚が多いという事なんですかね。
夫婦の方が確かに結束は固いでしょうね。
>「悪の独裁者を倒して平和を勝ち取る作品だ」
パーレビ=独裁者。
あぁ、そんなセリフがあったなぁと思い出しました。
>アフレックさんには・・
まだまだ若いですから、楽しみですね。
政府による救出案と比べると、トニーの発想の柔軟さが際立ちます。ヒトラーも言ってたけど、ありそうもない大嘘の方が、案外バレないんですね~。
空港で「悪の独裁者を倒して平和を勝ち取る作品だ」というような説明をする職員さんもグッジョブでした。
アフレックさんには、これからも素晴らしい映画を作っていってほしいです♪