1981年4月、レッドフォードは初監督作品「普通の人々(1980)」でアカデミー監督賞を受賞する。
二人の息子と両親の一家の話というのは、彼の家族を思い起こさせるが、実際の母親はこの映画のような女性ではなく、いつも息子を信じて励ますような人だったらしい。残念なことに、レッドフォードが18歳のコロラド大学時代に急死し、母親に感謝の言葉をかけていなかったことが、生涯の心残りだと言っていた。
出演した映画は、政治的、社会的なものが多いレッドフォードだが、『初監督作品には、人間の行動や感情を描いたものがイイと思った』
司会のリプトンが、シドニー・ポラックがレッドフォードについて語った言葉を紹介した。
『レッドフォードはアメリカの矛盾の象徴だ。華やかに見えるが、実は複雑で暗さもある』
初めての監督業での苦労話も出てきた。
『演技には妨げになると、撮影用語等を覚えないようにしてきたが、監督をするとなるとコレが一苦労だった。撮影監督はレンズの種類やら、ズームの方法などを聞いてくるが、自分は用語を知らない。それで、終いには全てのシーンの絵コンテを描いて指示をすることになった』
メアリー・タイラー・ムーア(「普通の人々」の主演女優)の話も紹介されたが、役者に対しては細心の注意を払って自然な演技が出来るように配慮する監督だと言っていた。
『あの映画の出演は素晴らしい経験だったわ』
普通の撮影現場では、『よーい。ハイ!』といってカチンコが鳴るものだが、レッドフォード組はそんな雰囲気ではなかったようだ。
『機械的な撮影にはしたくない』
役者出身の監督らしい言葉であった。
「ナチュラル」で共演した、グレン・クローズの感謝の言葉も紹介された。
『マスターショットにとらわれず、全体の感じを掴め。自分で良いと思っても、客観的には評価されない場合もある。そんな時には黙って演技に集中すればいい』
そんなレッドフォードの助言が勉強になったと。
思えば、全体を考えながら演技をするのが彼の元々の姿勢だった。だから、どんなに尊敬する監督の作品に出ていても、いつかは自分で全てを作りたいという思いがあり、それが監督業へ向かわせたようだ。
「明日に向かって撃て!」のギャラで、彼はユタ州に土地を買う。自然を満喫できる環境を求めて買ったわけだが、やがてプロデュースにも手を広げるようになると、インディーズ系の映画人の苦労が分かるようになり、その土地で彼らの為に非営利で何かしたいと思うようになる。これがサンダンス・インスティテュートの始まりだ。
最初は0.8ヘクタールだった土地も、今では2000ヘクタールにまで大きくなった。土地は映画に因んでサンダンスと名付けられ、自身の製作会社もサンダンス・プロとし、今では若手映画人の登竜門として数々の名作をも生み出したサンダンス映画祭も開催するようになる。映画祭にはハリウッドからもバイヤーが沢山集まるそうだ。
因みに、この映画祭から発掘された映画人には、コーエン兄弟、ジム・ジャームッシュ、スティーブン・ソダーバーグ、クエンティン・タランティーノ、ロバート・ロドリゲス、クリストファー・ノーラン、ジョン・キャメロン・ミッチェル、カリン・クサマなどがいる。
去年NHK-BSで観た「セントラル・ステーション」、同じサレス監督の「モーター・サイクル・ダイアリーズ(2003)」もこの映画祭から産まれた秀作のはずだ。勿論、それ以外の著名な作品は数知れない。
サンダンス・インスティテュートでは、役者だけでなく、演出家、脚本家、その他映画製作に関わる様々な仕事を目指す人々の実習を手助けしている。既に名を成した監督や俳優などもボランティアとして指導に当たっていて、シドニー・ポラックの写真も出てきたし、アクターズ・スタジオの教授夫妻も紹介された。
そんな活動が認められたのだろう、2001年には、アカデミー賞で名誉賞を受賞した。
映画作家として個性的でカリスマ性を発揮した人は何人もいるが、レッドフォードのように社会的、経済的な影響を与えた人は極めて珍しいと思う。
<スポーツもの、政治もの、記者ものは当たらない>という、“ヒットを狙う連中の偏見”とも戦ってきたし、「リバー・ランズ・スルー・イット(1992)」では、原作者マクリーンから映画化権を得るために彼の元に3回も通った。「白銀のレーサー」の時には、題材に合わないからと華やかな宣伝を嫌い、結局地道に自分で売り込みに回ったりもした。それもこれも、自分の感性を大事にし、それが正しいと信じていたからだろう。
この番組恒例の10の質問から。
『大好きな音は?』
-『コオロギの鳴き声』
車で長距離の旅をする。夜になると道から外れた所で、昔の西部劇のように地べたで休む。夜空には星。聞こえるのはコオロギの鳴き声。そして、時にはアスファルト道路を走り去るトラックの音も聞こえる。そんな風景が懐かしいのだと言う。
『天国に着いた時に、なんと言って貰いたい?』
-『まだ、早いよ』
最新作は「大いなる陰謀」。レッドフォードは監督と主演。共演者はメリル・ストリープとトム・クルーズ。2008年春に公開だそうである。
二人の息子と両親の一家の話というのは、彼の家族を思い起こさせるが、実際の母親はこの映画のような女性ではなく、いつも息子を信じて励ますような人だったらしい。残念なことに、レッドフォードが18歳のコロラド大学時代に急死し、母親に感謝の言葉をかけていなかったことが、生涯の心残りだと言っていた。
出演した映画は、政治的、社会的なものが多いレッドフォードだが、『初監督作品には、人間の行動や感情を描いたものがイイと思った』
司会のリプトンが、シドニー・ポラックがレッドフォードについて語った言葉を紹介した。
『レッドフォードはアメリカの矛盾の象徴だ。華やかに見えるが、実は複雑で暗さもある』
初めての監督業での苦労話も出てきた。
『演技には妨げになると、撮影用語等を覚えないようにしてきたが、監督をするとなるとコレが一苦労だった。撮影監督はレンズの種類やら、ズームの方法などを聞いてくるが、自分は用語を知らない。それで、終いには全てのシーンの絵コンテを描いて指示をすることになった』
メアリー・タイラー・ムーア(「普通の人々」の主演女優)の話も紹介されたが、役者に対しては細心の注意を払って自然な演技が出来るように配慮する監督だと言っていた。
『あの映画の出演は素晴らしい経験だったわ』
普通の撮影現場では、『よーい。ハイ!』といってカチンコが鳴るものだが、レッドフォード組はそんな雰囲気ではなかったようだ。
『機械的な撮影にはしたくない』
役者出身の監督らしい言葉であった。
「ナチュラル」で共演した、グレン・クローズの感謝の言葉も紹介された。
『マスターショットにとらわれず、全体の感じを掴め。自分で良いと思っても、客観的には評価されない場合もある。そんな時には黙って演技に集中すればいい』
そんなレッドフォードの助言が勉強になったと。
思えば、全体を考えながら演技をするのが彼の元々の姿勢だった。だから、どんなに尊敬する監督の作品に出ていても、いつかは自分で全てを作りたいという思いがあり、それが監督業へ向かわせたようだ。
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「明日に向かって撃て!」のギャラで、彼はユタ州に土地を買う。自然を満喫できる環境を求めて買ったわけだが、やがてプロデュースにも手を広げるようになると、インディーズ系の映画人の苦労が分かるようになり、その土地で彼らの為に非営利で何かしたいと思うようになる。これがサンダンス・インスティテュートの始まりだ。
最初は0.8ヘクタールだった土地も、今では2000ヘクタールにまで大きくなった。土地は映画に因んでサンダンスと名付けられ、自身の製作会社もサンダンス・プロとし、今では若手映画人の登竜門として数々の名作をも生み出したサンダンス映画祭も開催するようになる。映画祭にはハリウッドからもバイヤーが沢山集まるそうだ。
因みに、この映画祭から発掘された映画人には、コーエン兄弟、ジム・ジャームッシュ、スティーブン・ソダーバーグ、クエンティン・タランティーノ、ロバート・ロドリゲス、クリストファー・ノーラン、ジョン・キャメロン・ミッチェル、カリン・クサマなどがいる。
去年NHK-BSで観た「セントラル・ステーション」、同じサレス監督の「モーター・サイクル・ダイアリーズ(2003)」もこの映画祭から産まれた秀作のはずだ。勿論、それ以外の著名な作品は数知れない。
サンダンス・インスティテュートでは、役者だけでなく、演出家、脚本家、その他映画製作に関わる様々な仕事を目指す人々の実習を手助けしている。既に名を成した監督や俳優などもボランティアとして指導に当たっていて、シドニー・ポラックの写真も出てきたし、アクターズ・スタジオの教授夫妻も紹介された。
そんな活動が認められたのだろう、2001年には、アカデミー賞で名誉賞を受賞した。
映画作家として個性的でカリスマ性を発揮した人は何人もいるが、レッドフォードのように社会的、経済的な影響を与えた人は極めて珍しいと思う。
<スポーツもの、政治もの、記者ものは当たらない>という、“ヒットを狙う連中の偏見”とも戦ってきたし、「リバー・ランズ・スルー・イット(1992)」では、原作者マクリーンから映画化権を得るために彼の元に3回も通った。「白銀のレーサー」の時には、題材に合わないからと華やかな宣伝を嫌い、結局地道に自分で売り込みに回ったりもした。それもこれも、自分の感性を大事にし、それが正しいと信じていたからだろう。
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この番組恒例の10の質問から。
『大好きな音は?』
-『コオロギの鳴き声』
車で長距離の旅をする。夜になると道から外れた所で、昔の西部劇のように地べたで休む。夜空には星。聞こえるのはコオロギの鳴き声。そして、時にはアスファルト道路を走り去るトラックの音も聞こえる。そんな風景が懐かしいのだと言う。
『天国に着いた時に、なんと言って貰いたい?』
-『まだ、早いよ』
最新作は「大いなる陰謀」。レッドフォードは監督と主演。共演者はメリル・ストリープとトム・クルーズ。2008年春に公開だそうである。
堪能しました、レッドフォード大特集。
私は監督やサンダンスの主催者としてのレッドフォードが大好きなので、こちらにコメントさせていただきます。
以前に、サンダンスにボランティアとして参加された方のレポートを読んだことがあるのですが、映画祭を支える活気と助け合いの精神は、レッドフォード御大の人柄そのままだなあと思ったものです。十瑠さんの記事を拝読して、改めて感慨を深くしました。
最後のアルトマン監督&グレン・クロースとの3ショットも実にいいですね。素敵。
拙宅に「普通の人々」「ミラグロ/奇跡の地」「リバー・ランズ・スルー・イット」の記事があるんですが…。どれかTBさせていただいてもいいでしょうか?
一応おうかがいを立ててから…と思いまして。
>最後のアルトマン監督&グレン・クロースとの3ショットも実にいいですね。
おバカなことに、指摘されるまでアルトマンをサザーランドだと勘違いしてました。「普通の人々」の関連だったでしょうか、彼の話も出てきてましたからね。
>どれかTBさせていただいてもいいでしょうか?
何を躊躇いなさる? 豆酢さんからなら、Whateverですぞ。
因みに、レッドフォードの「嫌いな言葉」が「Whatever」でした。この場合は「勝手にすれば~」みたいなニュアンスでしょうか。
メアリー・タイラー・ムーアのコメントが出てきましたので、うれしくて「普通の人々」をTBさせていただきました。
ポラック監督の指摘どおり、レッドフォードって良くも悪くも“アメリカ”なんだと思います。どうしようもなくアメリカ。それが彼の個性でもあるのですが。そんな彼が、処女作に「普通の人々」を選んだのも象徴的です。
しからば・・・(↓ 豆酢館の「普通の人々」レビュー)
・http://blog.goo.ne.jp/mamesumaldini/e/7e4dbd69d2d7fb7532ef7dab38b94542
・http://blog.goo.ne.jp/mamesumaldini/e/3929c9a912017d085664c9d1773050d7
封切時に観たんですが、正直、レッドフォードにしちゃあ暗い話だなぁ、という印象が一番強く、また母親の描き方が辛辣だったのも意外でした。
二十数年前のことですから、もう一度観ると全然違う受取方になると思いますね。