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「蛸がバイバイしてたね」
90歳をを超えた母が私に語りかける。
「覚えているよ」
そう応えると、とてもとてもうれしそう。
何度も何度も、その話を繰り返した。
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50年前、4歳ぐらいの思い出。
父が釣りが好きで、子供の頃、
夏休みの旅行は海の近くの旅館に、
数日間泊まって過ごしていた。
早朝の海、まだ、光の弱い世界、
海は透明で、深く深く、透き通っていた。
大きな蛸が現れ、悠々と、大きな動きで、
沖へ、沖へと泳いで行った。
一瞬、動きを、止めて、
こちらを見たような気がした。
そして、手を振るような動きをした。
「蛸が バイバイ してるね」
50年前も、今も、
母はこのセリフを繰り返す。
美しい思い出を共有できる幸せを、
50年前より強く感じる。
とてもとても有難い。
思いが続き、経験を重ね、
深くて重い、今がある。
母の誕生日にこの絵を贈った。
「一番の宝物だ」
私の絵を今までで一番褒めてくれた。
そして、これ以上なくよろこんでくれた。
母の思いが有難い。
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実はこの時、
私にはとてもとても気になっていることがあった。
父が蛸を釣ろうとしていることだった。
「止めて!!」
と思っていた。
蛸はお風呂に入り過ぎた人。
この時、私はそう思っていた。
だから、バイバイする蛸は、
蛸になったばかりの人。
人、だと思っていたので、
釣らないで!!
と思っていた。
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「ゆで蛸になるわよ」
お風呂に入り過ぎないように、
度々、母は私に忠告していた。
それを、
お風呂に入りすぎて、
赤くなると、蛸になって、
排水溝から、流れ出てしまう。
そう勝手に本気で思い込み、
いつも、排水溝が怖かった。
(今でも、少し、怖い)
あの頃は現実と、夢想の世界が曖昧で、
全てのチューリップの花の中には、
親指姫がいると思い、
隠れては、覗き、を繰り返し、
どうにかして親指姫を見ようとしていた。
本気だった。
あの頃の本気が懐かしい。
50年過ぎて思う。
思うことは自由だ。
自由に思って、描いて行こう。
50年前の私が、
心を自由にしてくれる。
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