こういうのも、マスゴミは
殆ど報道しません。
その背景にあるのは…知れば知るほど闇が深い。
(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)
国際政治学者の三浦瑠麗氏の夫(三浦清志氏)が経営する再エネファンド「トライベイキャピタル」が、詐欺の容疑で東京地検特捜部の家宅捜索を受けた。マスコミはこの事件をほとんど報じなかったが、ネット上では大きな話題となり、ツイッターのトレンドのトップを1週間にわたって独占した。
民主党政権のつくった再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)は、巨額の利益を再エネ業者に保証する制度だが、制度設計がずさんだったため、多くのあやしげな業者が参入し、政治家を巻き込んだ詐欺の温床になっている。今回の事件は、その氷山の一角に過ぎない。
民主党政権が「火事場泥棒」でつくった再エネFIT
再エネFITの閣議決定が行われたのは、2011年3月11日の午前だったが、その日の午後に起こった東日本大震災で脚光を浴びた。支持率の落ちた菅直人内閣が福島第一原発事故を政治的に利用し、「原発の代わりに再エネでエネルギーをまかなう」という方針を打ち出したからだ。
当初の買取価格は、平地に設置するメガソーラー(大型太陽光発電所)でキロワット時あたり40円になった。当時すでにドイツでは、平地に設置する事業用太陽光の価格は約20円(18ユーロセント)に下がり、全量買取は廃止されていたが、調達委員会は「最初の3年は例外的に利潤を高める」として、火事場泥棒的に国際価格の2倍の価格を決めた。
その効果は予想以上に大きかった。再エネ特措法では運転開始の期限を定めないで土地さえ手当てすれば認定したため、海外の投資ファンドが大規模な投資を行い、土地を取得して駆け込みで申請して買取価格を確定し、その権利を転売する業者がたくさん出た。
初年度の2012年度には2500億円だった買取価格が、図のように2021年度には3.8兆円と15倍になった。このうち2.7兆円が、賦課金として電気代に上乗せされた。
ところがメガソーラーは環境を破壊するため、地元の反対が強く、用地買収しただけでは施工できない。2020年に運転開始したメガソーラーのうち、58%が2014年度以前に(32円以上で)認定を取得したまま運転できない休眠物件だった。今の原価は10円以下なので、32円以上で買い取ってもらえば莫大な利益が上がる。
トライベイの場合は、兵庫県福崎町に約9万坪のメガソーラー用地を買収するために投資家に出資を募ったが、地元との話し合いがつかず、着工できなかった。これに対して投資家が2019年に民事訴訟を起こし、さらに東京地検に10億円の詐欺罪で告訴したのだ。
成長戦略会議で自分の事業に利益誘導
これについて三浦瑠麗氏は「まったく夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ない」というコメントを出したが、これは事実ではない。2018年3月の「朝まで生テレビ」で彼女は「うちは事業者ですから現場を見てるので、いくらかかるのかも、何にかかるのかもわかってんですよ」と力説した。彼女はトライベイの経営に関与していることをみずから認めたのだ。
さらに彼女は菅政権の成長戦略会議で、有識者委員として規制の総点検に関する具体的な業界の要望として、3ページにわたって太陽光業界の要求を列挙した。
ここで彼女は「一定まで開発が進んだ案件に対する改正FIT法施行に伴う認定失効に対する猶予措置」を求めている。認定失効というのは前述の休眠物件で、その予定地が更地のまま転売されるケースが多かったため、認定から一定期間たっても運転開始できない物件は失効するように改正されたFIT法の規定である。
これはまさにトライベイの抱えていた物件で、その認定失効に猶予を与えろという要望を政府の有識者会議で三浦氏が出したことは重大である。有識者会議の委員はみなし公務員なので、これは自分の事業との利益相反になる疑いが強い。
問題はそれだけでは終わらない。三浦清志氏は、2022年2月に東京地検特捜部の家宅捜索を受けた再エネ関連業者「大樹総研」との関係が取り沙汰されている。トライベイ社は大樹総研の関連会社「JCサービス」から約7億円の融資を受けたが、JCサービスは破産。このころ福崎町の物件をめぐる民事訴訟が起こされた。
再エネFITは、穴だらけの制度設計で太陽光転がしが多発したため、反社会的勢力の食い物にされた。初期に認定を受けると32円以上で20年間、巨額の利益を政府が保証する物件は、かつての不動産バブルと同じく反社の巨大な収入源になったのだ。
再エネ賦課金の一時停止を
これ以外に、検察が関心をもっているのは洋上風力である。これは合計4500万キロワット時の大プロジェクトで、2021年12月に最初の3件の入札結果が発表された。事前の予想では早くから参入を表明していたレノバや日本風力開発などが落札するとみられていたが、結果は三菱商事グループが買取価格で他社に5円以上の差をつけ、3件すべてを落札した。
これでレノバの株価は6000円台から1200円台に暴落したが、レノバは政治家を使って巻き返し、再エネ議連(再生可能エネルギー普及拡大議員連盟)が毎週、役所を呼びつけて圧力をかけた。その結果、5月に入札ルールが変更され、レノバなどの業者に有利になった。エネ庁は入札のゲームが始まってからルールを変えたのだ。
再エネ議連の事務局長である自民党の秋本真利議員には、風力発電業者などから1800万円の政治資金が提供された事実も判明した。彼はレノバの株式も保有しており、入札ルール変更後に売却した。これも利益相反の疑いが強い。
このように再エネFITが詐欺と腐敗の温床になるのは、再エネが悪いからではない。脱炭素化のために再エネの開発を進めることは必要だが、民主党政権がFITを政治的に利用し、破格の超過利潤を保証したことが反社に利用され、政治家の利益誘導の絶好の材料になったのだ。
おりから電気代は最大3割も上がり、そのうち1割以上を占める再エネ賦課金に対する怒りが強まっている。国民民主党は「再エネ賦課金の徴収停止」を提言している。これによって電気代は(標準世帯で)年間約1万円下がる。
政府は再エネ賦課金の徴収を一時停止し、これまで不正に転売された太陽光プラントを徹底的に調査して、違法な物件の認可を取り消すべきだ。それとともに再エネ事業への政治家の介入を禁止し、腐敗の根を断ち切る必要がある。