【解説】 安倍氏の国葬、なぜ賛否が割れるのか
1週間前、世界の「要人」たちは、英女王エリザベス2世の国葬でロンドンに集結した。そして今その多くが、地球の反対側で行われる別の国葬に向かっている。殺害された日本の元首相、安倍晋三氏の国葬だ。
しかし、日本人はこの葬儀を快く思っていないようだ。とりわけ、費用が16億6000万円と見積もられていることが背景にある。
国葬への反対はここ数週間、強まっている。世論調査では、国民の半数以上が国葬の実施に反対している。
今週初めには、首相官邸の近くで男性が自らの体に火をつけた。19日には、約1万人の抗議者が都内をデモ行進し、葬儀の中止を求めた。
一方で、今回の国葬には日本の同盟国が世界中から集まってきている。アメリカのジョー・バイデン大統領は出席しないが、カマラ・ハリス副大統領が参列の予定だ。シンガポールのリー・シェンロン首相も来日する。
オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相も、前任者3人と一緒に参列する。インドのナレンドラ・モディ首相は、英女王の葬儀を欠席したが、東京は訪れ、安倍氏に敬意を表する予定だ。
世界のリーダーたちが葬儀に集っているというのに、多くの日本国民は葬儀に反対している。このことは、安倍氏について何を物語っているのだろうか。
まず、これは通常の式典ではない。日本では通常、国葬は皇室関係者に対してだけ行われる。第2次世界大戦以降に政治家が国葬の栄誉を受けたのは1度だけで、しかも1967年とかなり前だ。つまり、安倍氏に対して国葬が行われるのは、大変なことなのだ。
国葬となった理由の一部に、安倍氏が死亡理由が挙げられる。7月の選挙集会で、銃で撃ち殺されたのだ。日本は喪に服した。世論調査では、安倍氏の人気は決して高くはなかった。だが、同氏が日本に安定と安全をもたらしたことを否定する人は、ほとんどいないだろう。
それだけに、安倍氏を国葬で送るという決定は、彼の地位の反映でもあるのだ。安倍氏は日本の首相を史上最も長くつとめた。戦後の政治家で彼ほど、世界における日本の地位に影響を与えた人はいないという評価もある。
戦後の日本の憲法は、戦争をする権利を放棄すると明記している。それを変えたいのであれば、安倍氏は国民投票をすべきだった。しかし彼は、負けると分かっていた。それで代わりに、彼は法律で憲法の解釈を変更した。
上智大学の中野晃一教授は、安倍氏について、「国民に説明責任を果たさない人物と見られている」と話す。「彼は何をしたにせよ、憲法の原則に反して実行した。民主主義の原則に反して実行した」。
だが、安倍氏の支持者にとっては、これらの指摘はすべて的外れだ。安倍氏は世界のどの指導者よりも先に中国の脅威の高まりを察知し、日本が日米同盟において、コストを完全に支払っている正式メンバーになる必要があると判断した――と支持者らは考えている。
安倍氏はとても未来的なビジョンを持っていたと、鈴木教授は言う。中国が台頭し、アメリカがこの地域から退くと見ていた安倍氏は、この地域でのアメリカの関与継続を確保するには、日本が自衛力をもつ必要があると分かっていたのだと、鈴木氏は話す。
再軍備され、能力を備えた日本を、アメリカが歓迎しているのは確かだ。中国について同様に懸念するアジアの多くの国々も同様だ。
安倍氏は、オーストラリアとインドを意欲的なパートナーにした。同氏が殺害されたとき、インドのモディ首相は国を挙げての追悼の日を宣言した。
しかし、安倍氏が追悼されていない場所が1つある。同氏が主戦論者、修正主義者として繰り返し非難された場所だ。
それはすなわち中国。中国政府が、王岐山副主席をロンドンでの国葬に送り、中国国外では無名の元科学技術相を東京での国葬に送るのは、そのためかもしれない。
安倍元首相の通夜に弔問客の列 在任期間最長の首相が残したもの
(英語記事 Abe's funeral attracts world leaders - and protests)
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