hitorigoto 2

  笑顔までの距離

風の色 10

2011-06-14 21:46:51 | 風の色
扉を開けてオレ達の横をすり抜けて最初に入ったのは潮風。

ゴールドコーストの風がカーテンを揺らした。

ホテルの中で作戦会議。

この選挙までひと月は続く。この間待ってるほど暇じゃあない。



「また引っ張り出すか。」

ハイライトがなくなって、オージーのタバコを選んでる牧野。

「佐藤を引き出したみたいにか?。」

オレは風が気になってる、窓の外のウインドサーファーを眺めながら。


「そんな上手くはいかない。」

「ゲリラ戦がいいだろ、なんとかメッセージを伝えりゃいいんだ。」
ニヤニヤしながら牧野が言う。

「良い手があるんだよ。」
サリーを眺めながら・・・



ラインのグッとでる 胸元の深く開いたノースリーブに、指1本ほどのウルトラミニ。

サリーのダイナマイトが炸裂している。

「ふ~んなるほどね~でもね高くつくわよ。」

「これだったら良い感じで入り込めるぞ。」

「まあ男は単純だし隙はできるわ。」とサリー。

「牧野みたいなヤツばっかじゃないぞ。」
オレはオムライスに辛いカレーをぶっかけて腹ごしらえ。

「単純と言うな、純粋と言え。」
隙だらけの牧野。



「ちょっと失礼」
サリーが門番に声をかけた。

ガタイのいい グラサンが振り向く。

目の動きは分からないが、足の先から頭の先まで顔を動かしてるのは分かる。

「ふん、かかったな早い、単純。牧野と良い勝負。秒殺だ。」
オレは道を挟んだバーの角で様子を見守る。


脚を強調するように立ち振る舞うサリー。演技派だ。

「選挙事務所のお手伝いさせてほしいんだけど。」

グラサンの口元が少し緩む。

「Jrは居るのかしら。会わせてもらえないかな。」

もうチョッとだな、意外とすんなりいきそうだ。


グラサンがサリーの腕をつかんだ。

招いた感じではなく、明らかに掴んだ。

「ヤバいか?」

サリーがグラサンのグラサンを外し、微笑む。

やけに尻下がりの目が見えた。少々おぼこさが見える。

掴んだ手は緩み、サリーから離れた。

「体つきのわりには、優しい顔をしてるわね。」

髪をかき上げながら、ベンチに座る。

グラサンを見上げながら、ヒールの脚を組み替える。


またグラサンのないグランの体温はグッと上がってるようだ。

グラサンはサリーを中に招いた。

背中越しにピースサインのサリー。

とりあえず第一関門突破だ。



























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風の色 9

2011-04-13 09:35:26 | 風の色
「なんとかならんのか。」
佐藤が言った。

「クソが~ 石頭ばっかかよ。」
霊柩車にもたれかかって牧野。

「なんだか話が噛み合ってないぞ」
へたり込んでオレ。

「なにか勘違いしてるみたいね」
タイトなデニムで脚を隠してもったいないサリー。


今タイミングが悪く 選挙戦前のピリピリした空気からか。
しかし何か違う。いくらなんでも ぶん殴られそうな勢い。

K-1みたいなゴツイのがSP
まるで寺にある金剛力士像のようだ
一発殴られると首が取れそうな腕だ

おそらく対立候補とのいざこざの中に飛び込んだようだ
選挙くらいでこんなこと起こるのが考えくいのだが・・・


「ジュニアにさえ説明できればすんなり事は進むのに・・・」

「誰も寄せ付けない、問答無用な状態だよな。」

「何か近づく方法ないかな。」

「・・・」

「何かに化けるか。」

「でも面割れてしまったしなあ、すぐばれるだろ。」

「金剛力士さえなんとかできればなあ。」

「あれ何? なんだかやばい雰囲気。」

「あれは対立候補のメンバーだな。」


かなり荒れてる、怒号と手荒い挨拶、ガラスの割れる音、何の事務所だか分らない。

こんなことになる選挙って一体何なんだ。

だけどこんなファイトは日常茶飯事、海外では結構あるらしい。

時期をずらした方が良さそうだ。
















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風の色 8

2011-03-24 16:26:28 | 風の色
風の色  8


空港からタクシー。
ストレートなシーサイドロードを走る。
長い時間走っても、ビーチは途切れない。

ゴールドコーストのホテル 
ザ ショア アパートメンツ。
ビーチがぶり寄り。
サーファーズ・パラダイスにも近くて快適。


キンと差し込む光が、スカッと抜ける青の空が、途切れることのない波音が、ワクワクを引きずり出す。
男の子は子供の頃から変わらない。
フロントからガーデンを横切って、男三人はいそいそと海へ。

サリーはこのあたりの観光関係には顔が利くところもあるし、友人もいるらしい。
まあその間、オレ達はビーチへ行ってそれなりに楽しんでたというわけだ。


シドニーかメルボルンあたりに本拠地が有りそうなものだが、
元彼Jr政治家は、地元ゴールドコーストに籍を置いて活動してるらしい。

決して首都のキャンベラではない。キャンベラは小さい。
シドニーかメルボルンどちらを首都にするか迷った挙句、両都市の間にあるキャンベラに決まったらしい。
なんとケッタイなというか、人間ぽいというか大陸的なんだろうか、おおらかな決め方だ。


ビーチサイドのカフェバーでフォーエックスを傾ける。
苦味がきつめだが、後味は結構サッパリとしているオーストラリアではポピュラーなビール。


ヒールの冷たい音が近づく、このロケーションには似合わない。
スーツを着たサリーが戻ってきた。かなり仕事のできるキャリアウーマンのよう。
井出達に似合わない、フローズンマルガリータをオーダー。


「見つけたわ。」ホッとした顔でサリー。

「だけどそう簡単に会えるのかしら。将来、大統領を担うであろう人材だし。」

「それにJrも意味わかんないだろうしな。」

「ネックレスに秘められた想いの意味はねえ・・・母親じゃない相手とのlove romanceだからな。」


偉大な父親の母親以外の女性暦を聞かされるんだから、あまりいい気分はしないだろう。
だが息子だし、結婚前の話しだし無いわけがないのは分ってるはず。
きちんと話せば分ってもらえるだろう。


「ところであんた達、へんな遊びしてないでしょうね。」

「妙なことしてるんだったら熱湯消毒よ。」サリーのいつもの調子。

「今日は必要ないみたい。残念ながら。」ビキニを見送りながら無念そうに牧野。


突き抜けていく青空の下、四人は潮風の方向へ。

8m前後の良い風が吹いてる。

ビーチパラソルがなんとか頑張って砂を串刺してる。


オンショアの風がサリーの髪をすり抜け

カフェバーのエントランス横のハイビスカスを揺らしている。













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風の色 7

2011-03-10 16:10:26 | 風の色
風の色  7



空港の近く土産物やら取り扱うショップ。

クリスばあちゃんは、ここで暮らしている。

古い室内 何もかもが年代もの。決して裕福ではないのはよくわかる。

佐藤が成り行きの説明をして、オレ達を紹介する。


ソファーに沈めていた体を起こしてニッコリ笑う。
笑顔は上品で、若いころは確実にモテてたんだと思われる。

「あんた達もの好きなんだね。」クリスばあちゃん。

「佐藤が世話になったそうだしね。」オレはばあちゃんの端正な横顔を眺めながら話した。


暫く目を閉じた後、クリスばあちゃんが話した。

「彼はねロングバケーションには必ずゴールドコーストに来てたのよ。」

「私はシーサイドのバーで働いてたんだけど、彼はその店によく通ってきた。」

「なるほど。それでばあちゃんとできちゃったわけだ。」にやけながらオレ。


チョッと照れ笑いしながら、
「まあ そういうこと。ホントにいい男でね、すぐにそこからStoryが始まったの。」

なんだかばあちゃんに、柔らかいスポットライトがあってるようた。

「わずかな時間を繋ぎながら、五年ほど付き合いは続いたわね。」ゆっくりと話し出した。

「会えない時間のほうが多いのだけど、会える時間は、それはそれは楽しい時間だった。」


「なんで終わったの?。」サリーが不思議そうに言った。


「彼は将来有望な政治家でね、誰かが記者にリークしてね、政治生命の危機に至った。」

「若い政治家が、バーの若い女とできてるなんて知れば、格好のネタになるわね。」

「彼は私と生きようとしてくれてたけど、私からその場所から消えることにしたのよ。」

「なんで消えなきゃならないの?。付き合ってたっていいんじゃないの?。」納得いかないサリー。


「彼はね上り詰めることを望んでたし、ある大物政治家の娘に気にいられてねえ・・・私よりその彼女のほうが夢をかなえてあげられるんじゃないかなっと思ってね・・・。」

「ただ最後に私を選んでくれたことを、喜びや誇りにかえてね。消えることにしたのさ。」

「・・・・・」

「私の最後のバースディにネックレスをプレゼントしてくれてねえ。これはペアになってんのよ。」

「いつの時代も変わらないものだな。男と女なんて・・・」
「どこにも似た話は転がってる。そんなもんだよな。」と牧野。



「でも彼は病気が悪化して10年前に亡くなってね。」

「彼が亡くなった時、彼の息子が父を偉大な先輩政治家と尊敬しててね。いろいろ残されたもの映され、彼が大事にしてた物の一つにあのネックレスがあるのを、テレビでを見て知ったのよ。」


部屋の片隅にある棚の上、古いフォトスタンド。モノクロの写真。
浜辺で二人の男女が笑ってる。
細面のオージーらしい顔立ちのイケメンと、モデル並みにスラッとした女の子。
これがばあちゃんなら結構成長してしまったようだ。
二人はお揃いのネックレスをしている。間違いなく本人らしい。

他の家具はうっすら埃がかぶってるけど、それだけは綺麗に掃除されている。




「私は心が震えた。二人の想いの詰まったネックレスがまだあったんだと。知ると想いが走り出して止められないものね。」

「あの頃の二人の約束、果たせなかったけどねえ・・・ハートリーフへ二人で行きたいってね。」


「だから二つのネックレスを、ハートリーフに沈めて約束を果たせたらなあ・・・といつも思ってたのよ。」


「それを佐藤が何とかしてやりたいと思ったわけだ。」牧野がいった。


「こんなおばあちゃんになって、今さらそんなこと私じゃどうしようもないんだけど、夢だと思ってたんだけど、何とかしてもらえるならな・・・」
嬉しそうに笑った。諦めていた約束は走り始めたようだ。
今でも着けているネックレスにそっと触れた。
約束を確かめるように。


「彼は私といる時がすべてだと話してくれた。短い時間だったけど人生で一番キラキラした時間だったよ。大事な大事な宝物よ。」

「今までこんな話をしたことはないのに、遠い日本からきた人に話すなんてね・・・。」

クリスばあちゃんは遠い目をしてゆっくりと深呼吸。
お気に入りのモカベースのコーヒーを傾ける。


窓から見える青の海を眺めている。

顔の皺と白髪が安心した柔らかい顔になっていた。

甘ずっぱい頃、20代の頃のばあちゃんの姿がオーバーラップして見えた気がした。






















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風の色 6

2011-02-27 22:53:34 | 風の色
風の色 6


ハミルトンに夕焼けが差し込んできた。

「何作るかな。」 包丁片手にオレ。

帰りに寄ったスーパーで手当たりしだい食材を買ってきた。
どうも買いすぎてまとまらない。
男の買い物というか、計画性がないというか・・・。

「ごった煮するかあ~?、ヤミ鍋、シークレット鍋、何でも良いぞ。」
少々やけくそだ。

「じゃ シークレット鍋で。」 と牧野。

「オレはヤミ鍋が良いな。」 庭にテーブルをセットする佐藤。

「何言ってんだか、どれも同じでしょ。」サリーが鶏肉をさばきながら笑ってる。

タンクトップに、デニムのミニ。指1本でとどきそう。
白くて細い指先で裁かれる鶏肉が羨ましかったりする。


シャンパンを開ける。鍋には苦しいがまあいいか。

BGMにForeignerの「That Was Yesterday 」「 I Want To Know What Love Is 」流れのいいロックが
テンションを一層上げにかかる。



最初に切り出したのは、サリー。

「今までなしてたの。」

「親ってのはいくつになっても心配してるんだよ。」

「生きてるか死んでるか連絡くらいしなきゃ。」

「私に子供ができたら、そんな子にはしたくないなあ。」とたたみ込む。
初対面のはずだったが・・・。

以前からオレ等の話を聞いている。
堪忍袋が満タンで、はち切れたようだ。

「さすがに3年も音沙汰なしじゃな。」
「何かあったのか。」ヤシガニと格闘しながらオレ。

「まあ、実はチョッとなあ・・・。」
何やらありそうな切り出しの佐藤。

「スカッと、言ってしまえ。」イラチの牧野。

「オレが初めてここにきて仕事を見つけた時、クリスっておばあちゃんがやたらと世話してくれたんだ・・・」

「まさかお前・・・そのばあちゃんと・・・。」
テキーラ3杯目 チョッときてる。

牧野がハイライト片手に、にやけながらむせ返す。

「あり得るわね。」なんと冷静にサリー。


セーラムライトを燻らせ、佐藤が続ける。
「クリスばあちゃあんの昔の彼氏との想い出の手助けってとこかな。」

「最終的には、思い出のネックレスを・・・それはペアらしいんだけど、一緒にして約束のハートリーフに沈めたいらしいんだ。」
「だけど 元彼はとうに亡くなってて、家族からネックレスを入手するのが難しいよな。」

「なるほど純愛を押し通したクリスばあちゃんが、想いだけでも成就させたいんだな。」

「今の世の中そんな 殊勝な女いないよな。」牧野がまくしたてた。

間髪入れず、
「ここにいるわよ。少なくても一人はね。間違いなく。」
サリーのなんとなく嬉しそうな横顔は、いつもと違う穏やかな横顔。
夜風にロングストレートの髪が揺れて、月の光が映る。

あまりの切り返しに黙り込む牧野。

依然感じたサリーに対する違和感ってのは、ヒョッとしたら日本人気質の凛としたところだったのかもしれない。


「でもよ クリスばあちゃんのこと心配する前に親に連絡くらいしたらどうだ。」オレが切り出す。

「お前の連絡だけ待ってる。」牧野は窓口だし、とにかく任務の遂行。

「なかなかし難くてな、日本からただ逃げて来ただけだからな。」
「わかってる。連絡するよ。」


佐藤はテレフォン。コレクトコール。
久しぶりの家族の会話。ひとまず一件落着。

「クリスばあちゃんの想いは、オレ等が成就させてやろう。
takamineを弾きながら、スローバラード調のメロディに乗せるオレ。

かぶせる牧野。学生時代の透明感がそのままよみがえる。
右手にBUD、左手にマイクのつもりらしい。
みんな気分上々だ。

Hotel Beach Clubの照明がちりばめられた海面に、月の光に照らされたウィッツサンデーの島々が波間に揺れている。
























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風の色 5

2011-02-19 22:41:43 | 風の色
風の色 5


「まいったなあ。小さい島なのにな。」
牧野が言った。捜索始めて5軒目のガイド事務所。

「あいつ、ガイドじゃないのかな。」
二人とも黙り込んだ。昨日は浮かれてたのもあるが・・・
小さな島だすぐに見つかると思ってた。
その後のバカンス気分が崩れ落ちそうだ。

「まあ、ゆっくり行こうや、始めたばっかりだしな。」
オレも少々当て外れ気味に言った。


気分が逸れてきたオレ達はビーチサイドのバーでBUDを開ける。

「まあ、そのうち見つかる。一日目で焦ることもないな。」
水着の女の子の歩調に合わせて視線が流れていきながら、牧野は続けた。

「いっその事、路上ライブでもするか。」
なるほど、いい考えだな。いるならきっと出てくるな、あの頃のナンバーにつられて。

「いいよな、そうするか。見つかるな、間違いなく。」
オレもワクワクしだしてる。見つけることより牧野とのセッションが楽しみになってる。

「どうせなら ホワイトヘブンあたりでどうだ?」

「バリバリの観光地より空港なんかがいいぞ。ガイドの本拠地だろう。」

「そうだな、その日のうちに現れそうだな。」

「帰ってスコアの打ち合わせしようか。」オレは少し楽しんでる。

「それよりせっかくだし、冷えてるビールは冷えてるうちに。目の保養は見えてる間にってね。」

ビーチでハシャぐビキニの小さい三角に釘づけになってる。視線の行く先は同じもののようだ。

フィンの擦れそうな波打ち際でレイダウンジャイブを決めて、また沖へ出ていくウインドサーファーのセイルがハミルトンの太陽を反射しながらスピードを増してゆく。



次の日 リゾート内にある空港でTakamineを出す。

一本のアコギとブルースハープだとできる曲も絞られる。

ナンバーはとりあえず Randy VanWarmer の「Just When I Needed You Most」。
邦題でアメリカンモーニング。

Ray Parker, Jr 「A Woman Needs Love 」など耳覚えのあるナンバーを7,8曲チョイス。
オリジナルも3曲ほど混ぜ込んだ。

観光客目当てにやってるような感じで、どうも気になってきたが人は集まってくる。

日本の路上ライブのように、聞かすためにやってるんじゃない。
傍らには Cinzano。曲の合間や、間奏の間にグラスに注ぐ。気が付けば気分はヘブン。

こんな調子で3日目になる。もう捜索ってな感じではない。

顔見知りもできて、毎日見る顔もいる。
なんだか受けも狙って、レゲエバージョンにアレンジ。
アロハのシャツのポケットからハイライトをくわえる牧野。それに火をつけるギャラリー。
BUDを煽るオレ。なんだかパーティ気分。

そんな時、ボーカル合わせる奴が。
オリジナルナンバーだ。知る奴なんていないはず。
懐かしいセーラムライトの香り。

「次はオレがギターだ。」

佐藤だ。見つけた。





















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風の色 4

2011-02-13 22:24:50 | 風の色
風の色 4


マットブラックの古いダッチバン。荷室が広くてまるで日本の霊柩車のようだ。
彼女は日本人観光客相手のダイビングインストラクターをしている。
ボンベ、ウエットスーツなどの機材を積み込むにはこんな車になる。

この島は観光客と、その対応する関係者だけが住んでるような島だ。

約10分 ハミルトン島のシーサイドから高台にある少し古ぼけた彼女の家。
一人暮らしには十分すぎる広さの3LDK。

建物と同じ広さのほどある庭には2本のParmTree。
ヤシガニも登っていそう。

すでにPM5:00。夕日がベイに差込み、キラキラ光り彩っている。
こんな場所なら、日本には帰りたくはなくなるな。

「夕食作るから手伝って。」包丁片手にサリー。

「OK」料理は下手でも好きな方だ。

「明日は食料も調達しなくちゃ、あんた達食べそうだしね。ここにいるのはかまわないから食費はお願いね。」

「スーパーはさっきのストリートに2軒あるから。車は仕事があるときは使うけど、なければ使ってもいいわよ。」
包丁を裁く手つきが軽快だ。

「分ってる、何ができる分らないけど行ってくるよ。」
部屋の隅にあったギターを爪弾きながら牧野がメロディにして返答。
Takamineのアコースティック。好きなブランドのアコギ。


「今日は私のおごりよ。」

「アルコールはあるかな?。」心配気なオレ。

「う~ん ビールと赤ワインくらいかなあ~。」

「十分だ。明日補給しとくよ。」

「カクテルがいいね。」レゲエ調メロディで牧野。


彼女は一人暮らしが長いからか、料理は上手い。ホワイトソースとパインソースの2種類のオムライスに、ナッツを和えたヨーグルトサラダ、オージービーフのレアステーキ。

彼女は結構張込んだに違いない。この頃には、あの時オレにあった違和感は消えてしまっていた。



「早速、明日から捜索開始だな。」ハイライトに火をつけながら牧野。

ロッカーはハイライトが定番と思ってるらしい。

「日本人が仕事を持つには限られてる。観光中心の小さい島だし、ここにいるならすぐに見つかるだろ。」 意外に柔らかいビーフをかじりながらオレは赤ワインのグラスを傾ける。

「日本人ガイドだったら絞られるわね。」

「去年ゴールドコーストから一人日本人男性のガイドが来たのは、聞いたことがあるけど・・・。」

「よ~し すでにビンゴ気分だー。ひと月くらいバカンスしようぜ。」ワイン片手に陽気に出来上がった牧野。

「いいねえ、暮らしたっていいよな。」オレも酔ってきた。

オレ達には日本にとりたてて引き止めるものもない。自由はグレートバリアリーフのように果てなく持て余している。


夏の夕暮れ、ベイに沿って立ち並ぶリゾートホテルのライティングが海面を彩り、ビーズを敷き詰めたようなイメージ。

夕闇が深まり一層それを引き立てている。

空には負けないくらいの降ってきそうな星空が広がって、心を浄化してくれる。

そんな星空をグラスの中に浮かべて 冷えたキールを飲み干す。

Takamineはスローバラードを奏でてる。

The Beatles 「Hey Jude」。

三人のガーデンパーティは夜更けまで続いた。






























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風の色 3

2011-02-09 15:39:11 | 風の色
風の色 3


近づくとクルッと向きを変えていってしまう熱帯魚の群れ。

透明度の高い海。



オーストラリア ハミルトン島。

400種の珊瑚、真のグレートバリアリーフと言われている、ウィットサンディ諸島の一つがハミルトンアイランド。


カンタスが約15分遅れでケアンズ着。
そのあと国内線でハミルトン島、約1時間のフライト。

日本より湿気のある重めの空気が気になるが、同じ地球かと思うほどドリーム。本来の目的を忘れてしまうようなロケーション。




「あんたたちかな?」 

ハスキーボイス。ヴォーカリストにいい感じ。

振り向くと胸元がザックリ深いVのシャツに、キレのいい細い足が目立つホットパンツ。目は確実にまずそのパーツを捕らえる。
彼女はオレ達が世話になるLocalGirl。ベイサイドのカフェバー「Penny Lane」のオーナーの計らいで世話をしてもらえるようなった。

特殊な二人でもない限り、男二人でこの島に来るなんてありえない。
分り易いキャスティングだ。

「あんたがサリーかい?」とオレ。

「そうよ、これから部屋に案内するわ。」
サリーは腰まであるストレートロングの髪を揺らしながら歩いてく。

あまりこの島のLocalぽくない気がするのは先入観からなのか、第一印象は気の強そうなイメージが際立つ。見た目は南の島という、ありがちな貧困なイメージにはピッタリ合ってはいる。

でもこの妙な違和感がなんとなく気になった。


















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風の色 2

2011-02-05 23:26:41 | 風の色
風の色 2


「コウォーン」  「バシャン」

一発アクセルをあおって、多少荒めにドアを閉める 閉まりの悪いドアの音。
 
それもそのはずオレの車は、1975年モデルの TOYOTA CELICA LB2000GT

最近の車のそれの様にはいかない。

18RG DOHC ソレックスダブルキャブ 吸気音も存在感を感じさせるし、

今の車じゃあない昭和のいい時代の名車だ。



「荒い登場だな」

オレの背中越し大きな声で、少々にやけ気味に声を掛けてくる。

肩を少し越えた長さに若干、天パーの髪がトレードマーク、牧野だ。

学生のころのバンド仲間で、いい感じにしゃがれた声で、オレの透明感のある声と合わせると、いい感じにボーカルの幅ができる、いいデュオだった。

白のTシャツに、色の薄いブルーのデニム。いつものスタイル、学生時代から変わらない。


「どうもこうもあるかよ。」

CELICA LB2000GTの鍵を掛けながら目も向けず言った。

「マジな話かよ さっきの電話の件。」

「どうも本当らしい。」と牧野が髪をかき上げながら話す。

「まあ とにかく入れよ。」


ここはよく集まるベイサイドのカフェバー「Penny Lane」

サーマルが上がってきて店の中を南南西の潮風が吹きぬけていく。

牧野はすでにハイネケンを飲んでいた。

オレもいつもどおりジントニックをオーダー。

ギリで水平線に見える夕日がグラスをオレンジ色に色づける。


「行ってみるしかないよな。あの場所へ。」オレが切り出す。

「オレもそう思う。」


バンド時代の仲間で佐藤というソロでメジャーデビューした仲間がいた。解散後もヤツだけは社会に染まらず自我を押し通し掴んだ栄光だ。羨ましくもあったが、みんな喜んでた。

だが結局こいつが、日の目を見ることなく会社から契約解除になってしまい、何年も実家ににも帰らず音信不通になってるという。

親にとっては、いい歳ブッコいても子供は子供。行方不明の理由が理由だけに、何年も連絡一つないということになると、やはり当然親は心配してる。そうなると親の体調の方が心配にもなるよな。

その捜索願いの連絡を牧野が受け、オレに電話してきたという流れだ。

でも行き先はオレ等にはうすうす分ってる。あの頃よく話してた場所。十中八九間違いない。いつか成功したら最初に行こうと決めてた。


「考えることもないな、他の連中は?」

「自由に動けるヤツなんて他に居るかよ。」

まあそれもそうだ、みんな家庭があって会社の歯車になってしまってる。

会社には、代わりの歯車なんていくらでもあるが、自分という歯車は他に合う場所を探すにはかなり難しい時代だ。仕方ない。


「存在確認と現状報告だけでいいだろ?」ジントニックを飲みながらオレ。

「だよな、まあ気楽にスコッと行って、チョイと楽しもうや。」ハイライトに火を点けながら牧野は言った。

ZYPPOのオイルの匂いがサーマルに乗って広がる。

「Penny Lane」のBGMにハードロック。JOURNYEのレイズド・オン・レイディオが流れてる。

夕日は水平線に沈んで、昼と夜の間の色。

藍の空が広がってきた。

































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風の色 1

2011-02-02 15:40:44 | 風の色
風の色 1


朝 目覚まし時計を鳴らさなくなって、

どのくらいの時間が過ぎたろう。

カーテンの隙間からの光は、以前よりコントラストがきつめに感じる。


慌てて起きなくても、

咎められる事もなく、迷惑掛けることもない。

もう暫く暖かいスペースで目を閉じてようか。


でも結構な時間になってる。

甘い蜜のような暖かさは置き忘れることにして、

PCを立ち上げておく。



体を強制的に起動させるため、

グラスに一杯のスポーツドリンクを注ぐ。

水は飲まない、朝の硬い喉には水は不向きな気がしているし、

胃がギシギシ軋む気がするから。



カーテンを開けて深呼吸。

緊張しない時間ばかりを過ごすことを、拒み始めてる自分に気が付いたのはいつからだろう。

どうしてもというわけではないけど、

少し気が落ち着かない気もする。

窓の外、切り取った世界を見ていると

籠の鳥のような気もしていた。

要するに退屈がオレを押しつぶそうとしていた。


テーブルの上で携帯電話がうなってる。

朝からの電話なんてろくな事がないのは定説。

それはやはり 少々厄介な話ではあったが、この真綿に包まったような時間を脱出できることを期待させてくれるものだった。



















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