―夜というこの母岩の下で、金の鉱脈のような音波は消え消えになる。夜の数々の障害物に向かって盲滅法に放たれた矢のような、郵便機から聞こえてくる電波の小声の歌に、なんという切ない寂しさが含まれていることか。(「夜間飛行」より)
思い出は
岸辺のない夜だった
思い出は
飛びさすらった
果てしない夜の空を
ブエノスアイレスの
ダカールの
サハラ砂漠の上を
飛び続けた
いつまでも
地上に
戻れない飛行士のように
ひとつの灯りを
見つけるまでは
山とも海ともつかぬ
混沌とした暗闇の中に
かすかな信号を読み取るまでは
誰かが
声をかぎりに呼んでいる
誰かが
最後の灯を消さずにいる
空をさすらう
もののために