―夜というこの母岩の下で、金の鉱脈のような音波は消え消えになる。夜の数々の障害物に向かって盲滅法に放たれた矢のような、郵便機から聞こえてくる電波の小声の歌に、なんという切ない寂しさが含まれていることか。(「夜間飛行」より)
思い出は
岸辺のない夜だった
思い出は
飛びさすらった
果てしない夜の空を
ブエノスアイレスの
ダカールの
サハラ砂漠の上を
飛び続けた
いつまでも
地上に
戻れない飛行士のように
ひとつの灯りを
見つけるまでは
山とも海ともつかぬ
混沌とした暗闇の中に
かすかな信号を読み取るまでは
誰かが
声をかぎりに呼んでいる
誰かが
最後の灯を消さずにいる
空をさすらう
もののために
こころは
一枚の海
いつだって
とりとめもなく
広がってしまう
わたしという
うつわから
はみだそうとする
柔軟だけど
荒々しい
水の獣
写真はフランス・ボルドーの近くのピラ砂丘から見た大西洋です。真ん中に中州があり、その向こうにまた海が広がっていました。