音信

小池純代の手帖から

雑談54

2023-05-03 | 雑談
耳菜草(ミミナグサ)といえば蒼耳。蒼耳といえばこんな逸話。

  ある日、李白は道を失して、蒼耳の中に落ちた。蒼耳は、
  ミミナグサである。採つて題とする。
            (玉城徹『蒼耳』「巻末記」より)



ミミナグサの葉群のなかだろうか。
それともオナモミの実のなかだろうか。
いずれにしても李白らしくてすばらしい。

歌集の中をさがしたけれど蒼耳の歌はみつからず。
こんな歌があった。「モナド」の一連から二首引く。

  くだものの梨のしら玉とあかき玉と影さし交し夜ぞふけにける
                     *交:かは 

  一ふさの甲州葡萄あはあはと翳を盛りたり硝子器の中


色のある影のようなくだもの。こういう何も言っていない
歌の味わいは上善の水。

「静物」の連から一首引く。

  恋ひ恋ひてつひに見に来つ汁重くうちに湛ふるシャルダンの桃


絵に寄せる恋。画中の桃が生々しい。








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