音信

小池純代の手帖から

雑談30

2021-10-23 | 雑談
本日は萵苣とゲーテの引用祭り。


  萵苣  長歌一首ならびに反歌
               玉城徹

 みんなみの シチリアの野の
 玉ぢさを
 ゲーテぞ噉ふ

 讃ふらく その玉ぢさの
 やはらかに
 乳のごとしと

 シチリアの
 野に照るひかり
 恋ひざるに われはあらねど

 大いなる
 ゲーテのまなこ
 恋ひざるに われはあらねど

 わが恋は
 もとなかかれり
   その玉ぢさに
   その玉ぢさに

  反歌
 北国の旅人ゲーテ玉ぢさを食ひをはりけりその玉ぢさを

  †

 
  ゲーテ『イタリア紀行』 
    
 シチリアなしのイタリアというものは、われわれの心中に
 何らの表象をも作らない。シチリアにこそすべてに対する
 鍵があるのだ。
       ───
 気候のいいことは、いくら褒めても足りないほどである。
 今は雨の季節だが、それでも晴れ間がある。今日は雷が鳴
 稲妻がひらめいた。すべてのものは勢よく緑を深めてゆく。
       ───
 この土地の飲食物について、私はまだ何も言わなかったが、
 どうして馬鹿にならない項目である。野菜は上等で、特に
 サラダは柔らかくかつ美味しくまるで牛乳のようであり、
 昔の人がこれをラクトゥカと呼んでいたわけもうなずき得
 る。 
    (「シチリア(一七八七年三月から五月まで」より)
          ゲーテ『イタリア紀行』相良守峯訳

 †

「柔らかく美味しくまるで牛乳」のような上等な
「ラクトゥカ」と呼ばれていた野菜が「萵苣」。
Lactucaは「Lac」(牛乳)から生じたラテン語。
レタスのことだが、サラダ菜やサンチュなども仲間に
含まれるようだ。

ゲーテのシチリア恋を萵苣に集中させて、
その萵苣を恋ひ、ゲーテを恋ふというのが、この
「萵苣 長歌一首ならびに反歌」の組み方であろうか。

意識的かどうか、韻、とくに脚韻の脚捌きのよさも
見どころ。




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