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驚くべきは、ネットで作り上げたKAHORUに夢中になってデートを申し込む男性が二人出てきた事である。
そして、その男性は何者かに殺されるてしまった。
犯人はKAHORUと名乗る。
薫はバーチャルな世界で男性を手玉に取る女性を演じただけだ。
殺しには、全く心当たりがない。
その謎解きは意外な形に展開した。
青春の延長を送る世代の心の闇を描くと一口に言ったらそれまでだ。
寧ろ若者全体に、現実を突き放して客観視する傾向があり過ぎるのが問題だと作者は考える。
自分は何者か、何がしたいのかという基本的な問題から逃避してる若者は多い。
この作品は、バーチャルな世界がリアルな世界を食い尽くす未来への警告ではないか。
魅惑的なバーチャルな世界を一歩離れ、自分自身を取り巻く現実と対話すると、見えてくるものがあると思う。
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さて、ネット上のハッキングとはかなり以前からあったようだ。
私などハッキングばかりされても、自分は夢にもハッキング出来ないと思い込んでた。
ところが、この物語を読んで、かなり簡単に出来ると言う事が分かった。
つまり誰もが可能なハッキングされる世界より、確かな現実を確保しておきたい。
この物語のエピローグに記された現実のささやかな幸せは、確かなものだ。
地味な一歩一歩は、魔法で壊れはしない。
たとえ、どれほどバーチャルの世界で遊んでも、今ここで地面に足を着けた自分がいる事、自分の周りの現実を忘れずにいたい。