成果主義と情報セキュリティ

　世の中の企業では成果主義真っ盛りの観がありました。しかし、そろそろ成果主義一辺倒では経営がうまくいかないという事実に気づきはじめた企業が増え始め、従来型の日本式年功序列の評価システムの良さを見直す動きが出てきています。

　私は経営のコンサルタントではないので、あまり深いレベルでこのあたりのことを語る資格はないかと思いますが、そんな私でもこの十数年間、相次いで企業が成果主義を導入したのは、正当な従業員評価を第一の目的とするのではなく、人件費を抑えることと、リストラを促進するためであったことは理解しているつもりです。

　もちろん、成果主義の本来の利点を引き出して成功している企業の数も少なくないとは思いますが、そのようなまっとうな企業はやはり少数派だと思います。大多数の企業では不況を乗りきるための人件費圧縮の道具に使われていたというのが成果主義というものの実態ではないでしょうか。

　極端な成果主義の結果、ある会社の営業社員の手取り給料がマイナスになってしまったという報道を目にした読者も多いのではないでしょうか。こんな給与体系では従業員は安心して暮らすことはできませんし、会社員のデメリットしか享受することができません。

　自分の生活時間をほとんど会社のために捧げて働いたにもかかわらず、会社に金を払わねばならないとは全くひどい現実です。

　成果主義を導入したために、かつては仲の良かった同僚が競争相手となってしまい、人間関係がぎくしゃくして個人同士が協力し合って産まれる組織としてのシナジー・パワーが減少してしまい、長期的に見て業績が減少傾向に転じてしまった企業は少なくないのではないでしょうか。

　目標通り売上を上げられなければ、来月の給料はマイナスになるかもしれない、そうすれば家のローンも払えない、子どもの学費はどうすればいいのか、などと心配を抱えた営業マンが奮起して好成績をあげて会社に貢献する確率よりも、精神的に疲弊して戦力として働けなくなってしまう可能性の方が高いのではないでしょうか。

　ごく一握りの営業能力にたけた人ならそのような状況でも大きな稼ぎを産み出す可能性が高いですが、世の中で働いている人はごく普通の人々なのです。明日をも知れぬというような状況に追いやってもパワーを発揮するどころか、競争から脱落してしまう確率の方が高いはずです。

　そうなれば、そのような企業は人の入れ替わりが激しくなり社員を大切にしないというレッテルを貼られてしまうことでしょう。社員を使い捨てにしてでも、会社として業績をあげられればそれでいいという経営方針を掲げるのは、経営者の自由ですが、企業コンプライアンスの観点からお世辞にもほめられたものではないはずです。

　そして、情報セキュリティの観点から見れば、このような企業は情報セキュリティ上のリスクを多数抱え込んでいることになります。従業員全体の士気が下がっている上、会社に対する大きな不満を抱えた従業員がいるのではいつ大きな情報セキュリティ上の事故が起こっても不思議はありません。

　大局的にみれば、このような企業と取引することは得策ではありません。情報セキュリティ上の事件、事故に巻き込まれる確率が高くなるからです。大きな不満を持った従業員を多数抱えている企業は、社会全体からみると一種の危険因子です。いくら見かけの業績がよくても、優良企業とは言い難いはずです。

　長かった不況も回復のきざしをみせていますが、従業員を大切にする居心地のいい企業はどれだけ増えているのでしょうか。　まだまだ、大規模なリストラを断行中という企業も少なくないでしょう。成果をあげられないことを理由に退職に追いやられる人々の受け皿を社会としてどのように準備すればいいのか、このような社会的な問題と情報セキュリティの問題が、実は大きく関係していることを頭の隅にとどめておいてください。

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