東京都内で2021年、50代の男性が自殺したことについて、労働基準監督署は、長時間労働はないものの、上司からの強い叱責など中程度のストレスが3つ重なり、強いストレスとなったなどとして、労災と認定しました。長時間労働が一切ないケースで労災と認定されるのは極めて珍しいということです。
東京都内に住む当時50代の男性が2021年2月末に自殺しました。弁護士によりますと、男性は建設関連の業界団体の本部に20年ほど勤務し、自殺した当時、事務局長を務めていました。
この団体では、会員企業などから集める年会費を下げるかどうかをめぐって、団体の存続にかかわるような大きな対立があり、会費問題を担当していた上司の突然の辞任をきっかけに、男性は、上司が行っていた予算や経理の仕事を引き継ぎもなく急に担った上、会費問題も担当することになったということです。そして男性は「値下げ」派が大多数を占める全体の会合で、「会費の据え置き」について謝罪、説明をする予定だったということです。
こうした中、弁護士によると、2021年2月には、会費値下げの反対派と賛成派の双方からとがめられ、男性が信頼できる同僚に送ったLINEには「上司から怒鳴り散らされ、挙げ句の果てにはお前はクビになるぞと言われる次第です」と書かれていました。
そして上司や同僚から「代わりは百といる」「左遷」「(会費値上げで組織が)崩壊したらどうすんだ。(男性の名前)辞めるしかない」と叱責されたということです。
精神的に追い詰められた男性は、下痢や嘔吐が続いて、早退と欠勤が続くようになり、妻によると全く眠れない状態となり、2月末に自殺したということです。
遺族が2022年11月に労災を申請、今年12月6日に品川労働基準監督署により労災と認定されました。
弁護士によると、労災認定の根拠としては、死亡直前に「気分(感情)障害」(うつ病など)を発病したことに加えて、厚生労働省が定めるストレス強度「強」があったと認められたということです。以下のような、ストレス強度「中」である3つのことがあり、総合的にストレス強度が「強」と認定されたということです。
1)上司の不在で担当外の業務を行うこととなった
2)上司からの強い叱責など
3)同僚からの非難など
担当弁護士は、「この男性は長時間労働はしていなかった。通常は、長時間労働と激しい叱責などがセットで行われ、労災認定されることが多い中、長時間労働が一切ないケースで労災と認められるのは極めて珍しい、同様の事例で苦しむ多くの人々に救済の幅を広げる画期的な意義を持つ」と話しています。