kouzi_2007~

発火村塾 established 2007

カタギ道 (”出所した日”より改題) 第二回

2013-08-27 15:50:57 | カタギ道

俺はミチヨ姐さんの世話でキャバレー『スリースターズ』でバーテンとして雇ってもらった。今では蝶ネクタイもサマになってきたが、仕事は雑用だ。酔っ払いをタクシーに詰め込んだり客同士のもめごとを諌めたり、便所掃除もゲロの始末だってやる。「兄さんのそんな姿見たくないっすよ」相撲崩れのトメが泣きそうな顔で言うが俺は満足している。シャバはいい。俺はもうヤクザの世界には戻らない。

開店前のモップがけをしている時だった。相撲崩れのトメが駆け込んで来た。「兄貴!電卓のザキが!ザキを助けてください!」

組の事務所に行くと血だらけのザキが床に転がっていた。木刀を担いだ若い衆が囲んでいる。その奥で紋入りの両袖デスクに座っていた軍用コルトのコバが俺を見てフーッと煙草の煙を吐いた。
「ザキの野郎、組の金もって逃げたんでさあ。お鈴飯店のオカミに熱をあげてね・・・」
「自分が取立てで追い込んでる店のオンナに惚れるなんて馬鹿なヤツさ!」
そう吐き捨ててパシリのマツが思い切り足蹴にする。ザキは体を折って「グッ」と呻くことしか出来ない。
「やめてください!死んじまいます!」
相撲崩れのトメが半泣きで訴えるが誰も表情を変えない。
「お願いします兄貴!ザキをザキを助けてください!」
トメは俺にすがり付いて懇願する。

コバが深く腰掛けていた上半身を起こし、灰皿で煙草をもみ消しながら言った。
「ザキの命、兄さん次第ですぜ」

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