三鹿の渡し 2
先発した平八郎と与七郎らは池鯉鮒で野盗らが盤踞している様を北の八橋から様子を伺う。
やがて野盗共は、池鯉鮒大明神へ押し入り物色を始め出した。
池鯉鮒大明神はほんの前日まで今川義元本隊が大挙休息した地で、池鯉鮒大明神の宮司を務めていた 永見貞英が義元を饗していた。
〜平八郎、先を急ぐぞ〜
与七郎が平八郎を急かすが、平八郎は野盗らの動きを追っている。
〜与七郎殿…〜
〜如何した〜
〜道案内は、若殿の伯父、水野殿の遣わした者が刈谷まで務まりましょうが、その先は如何なりましょうや〜
〜それを確かめるのが、我らが主命ではないか〜
〜あの野盗共、池鯉鮒大明神の次は若殿を獲物とみて襲うつもりでしょう。〜
〜野盗共には分別などあるものか、日頃から欲しいと胸に秘めているものは勿論、米から銭まで殺してでも奪うだろう。〜
〜与七郎殿、露払いを兼ねて、あやつらを蹴散らしましょう〜
〜何を申す?、我らは一刻もはやく若殿の退路を…〜
〜城を出た若殿は、まずは刈谷を水野の案内人の手引きで通過出来ましょうが、次は池鯉鮒大明神を目指すはず。その池鯉鮒が野盗共の巣窟となっていては、一大事でござる。〜
与七郎は、これが元服を済ませたばかりの者が思いつくものかと頼もしくもあり、末恐ろしくなって平八郎を見た。
〜平八郎の申すこと、もっともである〜
平八郎の眼が光り、ニヤリと笑みを浮かべた。
平八郎、与七郎ら先発隊は、池鯉鮒大明神へ駆け出した。
そして物色に夢中になっている野盗共は、残らず斬り伏せられた。
盗みに執心している最中の10人程度の野盗など、物の数ではなかった。
息を潜めて隠れていた家族を伴い大明神の宮司、永見貞英が礼を述べた。
与七郎は、間もなく松平元康殿一行が休息に寄るので、饗して欲しいと懇願すると、貞英は心尽くすと約束した。
続いて与七郎は、平岩元重、基親、服部久左衛門の三名に、大高城の元康君に池鯉鮒大明神への休息を促す口上を託し、更に東を目指した。
3に続く
なお、
本多平八郎忠勝、石川与七郎数正らが危急を救う格好となった宮司の永見貞英と家族。
その娘、於古茶は後に元康君に気に入られ、次男 於義丸を生むが、それはまだ先のこと。