投資家の目線

投資家の目線755(『モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」』 など)

 エフライム・ハレヴィ元モサド長官の著書『モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」 中東現代史を変えた驚愕のインテリジェンス戦争』(河野純治訳 光文社)を読んだ。

 湾岸戦争当時のヨルダン国王が、イラクのサダム・フセイン大統領は多数の犠牲者を出し、アラブ諸国から多額の債務を負いながらシーア派主導のイランからスンニ派諸国を守った英雄で、それにもかかわらず、スンニ派諸国は感謝も債務免除も行わなかったことや、その中でも特に恩知らずだったのはクウェートだと指摘している。イラン・イラク戦争ではイラクを支援した米国がその方針をひっくり返したことに大変驚いたことが紹介されている。

 またサウジアラビアは、王国の繁栄は「金で買える」ということを前提にした政策で、自国の安寧のためには他国が損害を被っても意に介さない国と指摘されている。

 今、注目を集めるイランについては、1990年代のユーゴ内戦のとき優秀なイランの諜報機関がユーゴのイスラム勢力を支援していたが、ミロシェビッチ政権下のセルビア人指導部には敵わなかったことも書かれている。

 自国のイスラエルについては、「なんといってもイスラエルは、経済および軍事の両面で、アメリカからの援助・支援に大きく依存していたため、アメリカの国際的利益にかかわる事柄についてイスラエルが単独行動をとることはありえなかったのである。」(p101)、あるいは、「アメリカ側に加わる決断を下したダビッド・ベングリオン首相は、国防関係者のなかの、公然・非公然にかかわらず親ソ連派であった個人および集団を追放した。この初期の決定は、今日に至るまで、イスラエルの戦略政策を決定するうえで重要な要素となっている。」(p109)と書いている。戦後初期の米国との関係が今日に至るまで尾を引いている日本は、イスラエルと似ているように感じた。米国ではイスラエル・ロビーの影響が強く、イスラエルが米国の外交政策に影響を与えているような言説も見られるが、影響を与えているのは現実の国家イスラエルよりもイスラエル・ロビーの脳内にあるイスラエルであろう。現に湾岸戦争時にはブッシュ米国大統領の説得により、攻撃を受けてもイスラエルはイラクに報復攻撃しなかった。

 「指導者に求められるこのような特質は、砂漠の民、部族の長の心に訴えるものがある。尊敬されるだけでなく、畏浮ウれる存在でなければならない。栄光、犠牲、成功という夢の体現者でなければならない。多くのアラブ人にとって、サダムはこうした条件をすべて備えた指導者だ。西洋の都会人には冷酷で無慈悲に見えることが、アラブの人々には勇気、力、誇りの証なのである。誇りという要素を決して忘れてはいけない、と国王は何度も繰り返した。」(p54)。この中東における英雄像から見ると、先ごろ殺害されたイラン革命防衛隊精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が、多くの反対者を虐殺したことと「英雄」であることは矛盾しないのだろう。

 サウジアラビアの公開処刑も、『あなたが死ぬのを見るために大勢の人が集まってくる。イギリスの作家ジョン・R・ブラッドリーによれば、公開処刑はサウジアラビアで、サッカーを除けば「唯一の大衆的娯楽」だ』(『穏健サウジの「ぶった切り広場」』 2014年12月25日 Newsweek日本版 ジャニーン・ディジョバンニ)と書かれており、政府が畏浮ウれる存在であることに民衆が必ずしも反発していないように見える。

 イラン国内でのウクライナ機誤射撃墜事件で当初誤った情報が伝達されたことに関連して、反政府デモが発生した。トランプ米国大統領は反政府デモを支持しているが、この動きはイラン国内に広まるのだろうか?日本でも都市と田舎の政治状況は異なるが、イスラム革命直前のイランでも、王族に近い政府エリート層と、中小企業や労働者、農村社会では貧富の差などの大きな違いがあった。石油国有化運動を進めていたモサッデグ政権を唐オたクーデターに米国が関与していたことも忘れてはいないだろうし(「このクーデターが53年6月までに米国CIAとチャーチル政権下の英国秘密情報部(SIS)で練り上げられた陰謀に拠ったことは知られている。ちょうどクーデター実施1カ月前に密かに入国したCIA工作員K.ローズヴェルトによれば、1,300万リヤール(10万ドル相当)近くが計画実施に費やされたという。雇われた暴徒とシャー支持派のザーヘディー率いる軍部が中心となった政変により、首相モサッデグは逮捕された」:「イラン現代史 従属と抵抗の100年」 有志舎 吉村慎太郎著p141)。
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