投資家の目線

投資家の目線733(元KCIA部長の書いた「権力と陰謀」)

 「権力と陰謀―元KCIA部長金炯旭の手記」(金炯旭著 合同出版 1980年)は、元KCIA部長で後に米国に亡命し、パリで失踪した金炯旭氏の著書である。そこには日韓条約交渉をはじめ、日韓関係についても記されている。

 まず、日韓条約交渉における独島(日本名竹島)領有権問題については、「独島問題においては、結局日本が領土権を主張することのできる体面を生かす方法、即ちこれを国際司法裁判所に提訴することができる方法をつけ加えることによって、日本側が受諾できる道を開いてやった。ただ双方の立場を考慮して、韓日協定条約文書では韓国の領土だと明文化することができなかったのは残念だった」(p149~150)と記されている。韓国側は駐⊥竭閧ノついて、日本側が国際司法裁判所への提訴っすることは想定済みなので、同裁判所への提訴は効果がないと分かる。

 朴正熙大統領については、米国に目をかけてもらえるように反共になった人物と見做している。米国は反共親米の態度を維持する限り朴大統領を支持した。韓国は極東アジアにおける米国の前哨基地としての戦略的価値があるが、デタントや米国内経済の問題から韓国への支援が難しくなったので、韓国への援助の一部は米国の政治的コントロールの下にある日本に任せた、また1963年以降の朴正熙は日本の自民党勢力の政治資金で支援された人物と結論付けている。

 韓日経済協力の名のもとに行われた取引すべてで政治資金の授受が行われたことも指摘している。三菱商事は横断鉄道電化工事受注のため、朴正熙大統領と親しい岸信介元首相を引っ張り出したようだ。その受注には失敗したが、日本が紐付き円借款を供与したソウル地下鉄工事において、岸元首相を押し立て、車両186両の売買契約を結んだ三菱、三井、日商岩井、丸紅などの日本商社四社連合は、1両当たりの価格を日本国内価格の約2倍に水増しして総売上高の9.2%に達する19.27億円もの暴利をむさぼったという。同記述によれば、そのうち7.5億円は長く韓国民主共和党の政治資金を動かしていた金成坤にリベートとして提供され、2.22億円がコミッション名目でニューヨークの幽霊会社傘下の銀行口座に振り込まれ、残り9.5億円を四社連合が分け合ったという(『<トピックス>切手に描かれたソウル 第14回 「地下鉄ソウル駅」 郵便学者 内藤陽介氏 2011/8/26 東洋経済日報』には、「総額272億円の地下鉄車両(186両)の導入をめぐっては、73年、三菱商事・丸紅・三井物産・日商岩井の日本商社連合が、岸信介をはじめ日韓両国の実力者にリベートを支払うため、輸出価格を1両につき3000万円以上も水増しして納入したとのスキャンダルも起こっている。」と書かれている)。なお、安倍晋三首相の兄、安倍寛信氏は三菱商事パッケージング社長である。

 なお、こじれた済州島周辺の漁業問題では、河野太郎外相の祖父、河野一郎氏らに接触している。河野外相も日韓条約交渉に縁がある。

 金炯旭氏は、日韓経済協力についても肯定的に見てはいない。先のソウル地下鉄は政治資金のせいで利用者にとって高くつくものになった。韓国に移動してくるのは、日本国内で問題視されている公害産業だと倫理的問題も指摘している。「韓日間の経済協力とは、結果的に韓国民衆を搾取する韓日両国執権層の共謀劇にすぎない。この点に関する限り、朴正熙はもちろん日本の指導層と多国籍企業は、後日責任を取らねばならないだろう。」(p308)と記す。戦前から存在する大手企業が関係する「徴用工問題」は、韓国執権層と癒着し、韓国民衆に寄り添わなかった企業活動の結果ともいえる。

 また、「純経済的側面から見ても、“韓日協力”とはていの良い口実で、韓日間のひどい貿易不均衡のために、事実上韓国経済は日本の関西経済圏の一部に転落しているのが、今日の現実である。(中略)経済的に韓国を植民地化しようと企図していると言えよう。一九七八年七月末現在、韓国の総収入は、七六億七千万ドルに達している。このうち四一%、三一億二千万ドルが日本から導入されたものである。全収入の四〇%以上を、それもそのうちの九〇%以上の輸入品目が重化学原資材の輸入だとすれば、それは韓国がいかに日本経済の庶子に仕立てられつつあるかを端的に示している。」(p308~309)と記している。先日、日本政府が韓国に輸出管理強化したフッ化水素の製造企業、森田化学工業、ステラケミファは関西の企業である。現在の韓国は、約40年前に指摘された問題を未だ克服できていなかったと言えよう。

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