投資家の目線

投資家の目線666(ザ・コールデスト・ウインター)

 「ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争」(デイヴィッド・ハルバースタム著、山田耕介・山田侑平訳 文藝春秋)は、朝鮮戦争を描いたもので、当時の米国政府と東京のマッカーサー司令部の関係、米軍の内部の様子がふんだんに記述されている。問題点は以下のようなものである。

・マッカーサー元帥の虚栄心が初期に国連軍の苦戦を招き、仁川上陸の成功が傲慢を生み、夏装備のまま冬に向かう朝鮮半島北部への進軍を続ける原因となった。
・ウィロビーをはじめとするマッカーサー司令部は、中国軍参戦の可能性を様々な情報から指摘されていたにもかかわらず、そのような彼らに都合の悪い情報は無視するか、過小評価した。アーモンド第十軍団長は中国軍を「洗濯屋」と呼ぶなど、人種差別主義の要素が相手を過小評価する原因となっているとの指摘もある。
・「東京の命令に戦場の現実をあわせる」という章があるように、アーモンドなどほとんど戦場に出ることはないマッカーサー側の将官の栄達のため、下からの要請はほとんど顧みられなかった。東京の司令部はこれから進軍するコースの地形も把握していなかったようだ。
・マッカーサー司令官は政府の意向を無視したり逆らったりする傾向にあったが、神格化された彼を米国政府も参謀本部も解任することに躊躇した。彼を謔゚る部下もいなかった。

追記:防衛ラインに朝鮮半島を入れなかったアチソン発言のほか、党派を問わず軍の動員解除を急がせたため兵員数が少なく、極東軍司令部管轄下の下士官の能力も陸軍の一般分類テストで最低部類の比率が高かった。第2次世界大戦の兵器も近代化されずに旧式化した。特にマッカーサーは日本占領に必要な兵員数を予定の50万人弱よりはるかに少ない20万人でよいとし、復員や退役の要請に抵抗していたトルーマン政権の足を引っ張った。朝鮮戦争の初期に投入されたのは日本にいた部隊である。


 最終的には空輸によって改善されるが、貧弱な道路網は兵站や進軍に負の影響を及ぼした。それもあり、朝鮮国連軍は、空軍の掩護はないながらも人海戦術を駆使する中国軍に鴨緑江から押し戻された(兵站の問題は南下するに従い中国軍にも影響した)。当時と比べると半島内の道路網は格段に整備されているだろうが、地形そのものはそれほど変わるわけではない。本書に書かれている米兵の戦場体験はひどいもので、再び地上戦となった場合、おなじようなことが繰り返されるのではないだろうか。この記憶がある限り、できれば米朝全面戦争などしたくないだろう。

 金正恩氏の訪中について、中国は韓国に事前通知(「金正恩氏の訪中 中国が事前通知=韓国大統領府」 2018年3月28日 聯合ニュース)、同氏の訪中と時を同じくして米国連邦議会の代表団が訪中している(「李克強総理、米議員訪中団と会談」 中国網日本語版(チャイナネット)2018年3月28日)。またロシアは訪中直前に代表団が訪朝し、3月21日に朝露政府間で貿易、経済・科学技術協力委員会第8回会議の議定書を調印している(「朝露政府間貿易、経済・科学技術協力委員会第8回会議の議定書を調印」 2018年3月22日 朝鮮中央通信 (Naenaraより))。一方、日本の安倍首相は訪中をテレビで知ったというから6か国会議参加国の中で日本だけが知らされていないのだろう。中国政府としては、日本に伝えてせっかくの訪中をぶち壊しにされても困るのだろう。

 今年1月、既に中国の王毅外相が朝鮮半島の緊張緩和の動きを歓迎していた(『中国外相、朝鮮半島の緊張緩和を歓迎も「破壊者」出現に警戒―米華字メディア』 2018年1月17日 Record china)。3月初めにはロシアのプーチン大統領が『ロシアまたはその同盟国に核兵器が使用されれば、「速やかな反応」に直面することになるだろうとけん制した』(「プーチン大統領が米国を強く警告、年次教書演説で最新鋭核兵器を紹介」 2018年3月2日 bloomberg)と、同盟国へ核の傘を提供する可能性を表明していた。朝鮮半島で、「力の均衡」による緊張緩和が起こりつつあるのではないだろうかと思う。
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