投資家の目線

投資家の目線932(米国の不動産市場)

 米国の不動産市場に問題が発生している。商業用不動産については、ロサンゼルスのダウンタウンの空室率は過去最高の30%に達した(”Empty offices, vacant storefronts: the buildings of downtown Los Angeles tell a bleak story of the turmoil roiling US commercial real estate.” 2023/5/27 Bloomberg)。ニューヨーク市、サンフランシスコ市、ロサンゼルス市は、2033年までに最もオフィススペースが空いているグローバル都市の上位になるだろうと見られている(”San Francisco, New York Will Have Emptiest Office Space in 2033” 2023/5/31 Bloomberg)。窃盗の多発など、治安の悪化が関連しているのだろうか?オフィスの空室率上昇はオフィスへの出勤を義務付けることで解消できるだろうが、治安の悪化でまともに商売が成り立たなければ店舗の空室率は高水準のままだろう。ツイッター社のオフィス賃料支払い拒否も影響し、ゴールドマン・サックス・グループの商業用不動産ローンの延滞が第1四半期に急増している(「ゴールドマン商業用不動産ローンに難題、マスク氏未払いも影響-報道」 2023/6/11 Bloomberg)。

 

 住宅についてもマイナスの材料が多い。連邦住宅ローン銀行システムは住宅ローンを削減する銀行を提供する(”A $1.5 Trillion Backstop for Homebuyers Props Up Banks Instead” 2023/6/5 Bloomberg)。米保険大手のオールステートはカリフォルニア州で住宅保険の新規引き受けを停止した(「米オールステート、カリフォルニアで住宅保険引き受け停止」 2023/6/6 ダウ・ジョーンズ配信)。同州では山火事が起きやすく、保険金支払いの負担が重くなっていることが理由だが、山火事が起きやすい地域と手頃な価格で住宅を取得できる地域は重なる。そこで保険の引き受けが停止すれば、新たに住宅を購入することができなくなる。米国では、平均的な労働者層が最初に購入できる手頃な価格の住宅が不足している(”US Housing Market Is Missing 320,000 Affordable Homes” 2023/6/10 Bloomberg)。高金利も住宅取得の足かせになっている。「住宅購入を検討している人の約3分の2が足元の住宅ローン金利の高さから購入を踏みとどまっていることが明らかになった。(中略)初めて住宅を購入する人は高金利が市場参入のハードルになっていると感じる一方で、より大きな住宅への買い換えを望む人はすでに組んだ低金利の住宅ローンを手放せずにいる」(「住宅購入希望者の過半数、購入に踏み切れず=米調査」 2023/6/6 ダウ・ジョーンズ配信)。今の賃金水準では、主要都市での住宅取得をあきらめた人が多いせいであろうか?低賃金雇用が主要都市から移動し、オーランド、フェニックス、ラスベガスではコールセンターの増加がみられる(”‘Domestic Offshoring’ Sends Low-Wage Jobs Out of Key US Cities” 2023/5/27 Bloomberg)。家賃上昇の鈍化が賃貸アパートの家主(上場REIT大手)を圧迫し、特に南部サンベルトの都市が影響を受けやすいという(「【市場の声】米家賃の上昇鈍化、アパート家主を圧迫」 2023/6/6 Bloomberg)。人口移動と所得の問題で住宅供給のミスマッチが発生するのではないだろうか?「米国各地の住宅所有者がセカンドモーゲージ(第二抵当)の債権を所有する投資家から大金の支払いを求められ、差し押さえの警告を受けている。問題となっているローンは10年以上前に組まれたものが多い。住宅価格の上昇で投資家の回収意欲が高まっている」(「【焦点】「ゾンビローン」に困惑 米で住宅差し押さえも」 2023/6/7 ダウ・ジョーンズ配信)。景気後退で返済できない人が増えれば、ホームレスの増加も懸念される。

 

 日本でそうだったが、「オセアニア史 新版世界各国史27」(山本真鳥編 山川出版社 p119~p122)によれば19世紀末のオーストラリアの金融恐慌も土地価格の急落がバブル崩壊のきっかけとなった。1890年11月のアルゼンチン革命をきっかけとする英ベアリング商会の破綻は投資家に新興国投資を慎重にさせ、オーストラリアの各植民地政府はロンドン市場での起債に失敗。1891年7月から翌年3月にかけて東部の土地投資会社の多くが倒産し、融資元の銀行にも信用不安が広がった。当時、オーストラリアには中央銀行がなく、1892年3月に発券銀行のひとつマーカンタイル銀行が営業停止すると預金の引き出しが加速、メルボルンの銀行協会が相互支援の合意を発表することで一時的な収束を見た。しかしそれは事態の本質的な改善にはつながらず、1893年には年初には18あった発券銀行のうち12が営業を停止した。5月1日にメルボルンで全銀行営業停止が命じられたが、それを無視してユニオン銀行とオーストラレイジア銀行が営業を継続したことでパニックがおさまったという。シドニーとブリスベンでは銀行券を合法的な通貨とすることで危機を乗り切り、営業を停止した銀行の株式と債権は暴落、預金は一定期間凍結されたり優先株に転換されたりしたという。今年、中堅銀行ファースト・リパブリック・バンク(FRC)の資金繰りを支えるために米大手銀11行が合計300億ドルを預金したが(「米大手銀11行、ファースト・リパブリック支援 300億ドル預け入れ」 2023/3/16 ロイター)、FRCは5月1日に経営破たんした。大手銀行の支援では事態の本質的な改善にはつながらなかったといえる。なお、オーストラリアでは1891年から95年にかけて国民総生産が30%減少。熟練労働者の6人に1人が失業し、非熟練労働者の失業率はもっと高かったようだ。メルボルンではそれ以降住宅建設が激減し、建設業は崩壊したという(「オセアニア史」p121~p122)。

 

 ウクライナでは6日にカホフカ水力発電所のダムが破壊された。同ダムから冷却水を取水するザポロジエ原発には、米国政府が管理しロシアには触らせたくない原子力技術がある(投資家の目線928(追い込まれるG7))。トルコのエルドアン大統領は、「ロシアとウクライナ、トルコと国連などの専門家による国際調査委員会の設置を提案した」(「ウクライナのダム決壊、トルコ大統領が国際調査委を提案」 2023/6/7 日本経済新聞電子版)。今年3月、ロシアが国連安全保障理事会に提出した「ノルドストリーム」爆破事件を調査する国際委員会の設置を求める決議案はロシア、中国、ブラジル以外の棄権で否決された(投資家の目線922(サウジアラビア上海協力機構加盟へ))。このダム破壊事件でも同じことが繰り返されるのだろうか?米国の投資企業が、行方不明となった穀物を巡る法廷闘争で、ウクライナ企業と対立している(「米企業、ウクライナの汚職に懸念 穀物取引巡り法廷闘争」 2023/6/5 ダウ・ジョーンズ配信)。腐敗国家ウクライナは、日米を含む西側諸国が支援する価値があるのだろうか?「ワシントン・ポスト紙が入手した機密文書によると、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子は、数十年にわたる米国とサウジアラビアの関係を根本的に変え、石油削減に報復した場合、米国に多大な経済的コストを課すと脅迫した」(“Saudi crown prince threatened ‘major’ economic pain on U.S. amid oil feud” 2023/6/8 ワシントン・ポスト)。サウジアラビアとの関係が険悪になる中、米国はウクライナになぞかまけている暇はないだろうと思うが…。またノルドストリームの破壊については、ドイツが、破壊工作グル-プがドイツに戦時賠償金を要求しているポーランドを拠点としていた可能性について捜査している(「ノルドストリーム爆発、ポーランド拠点に破壊工作か 独が捜査=WSJ」 2023/6/10 ロイター)。

 

 フィリピンのマルコス大統領は、同国は中国から離れることはなく、関係を育むだろうと述べている(“Philippines Isn’t Shifting Away From China, Marcos Says” 2023/6/8 Bloomberg)。同国のテオドロ新国防相はアロヨ政権でも国防相を務めた(「フィリピン、国防相に元経験者 歴代政権と関係深く」  2023/6/5 日本経済新聞電子版)。ファリード・ザカリア著「アメリカ後の世界」(楡井浩一訳 徳間書店p164)には、『グロリア・アロヨ大統領は、「中国という兄貴がいるわれわれは幸せです」と公の場で語っている』と書かれている。合同軍事演習を行ったからといって、フィリピンが日米寄りとは考えない方がよいだろう。

 

 第20回アジア安全保障会議(シャングリラ会合)全体会合で、「フィジーのティコドゥアドゥア内務移民相が放射能汚染水の海洋放出を弁解した日本の浜田靖一防衛相に対し、汚染水が安全と言うなら、なぜ日本は自国内にとどめておかないのかと指摘した」(「日本は汚染水海洋放出計画の即時中止を」 2023/6/10 新華社通信)。オーストラリアの外交シンクタンクでディレクターを務めるメグ・キーン氏も「島しょ国は福島の核廃棄物処理問題を懸念しています」(【オーストラリア】【特別インタビュー】島しょ国とどう関わるべきか ローウィー研究所 キーン・太平洋島しょディレクター 2023/6/5 NNA)と語る。「日本による放射性廃棄物や混合酸化物(MOX)の太平洋をルートとした海上輸送問題のように、核問題はいぜんとしてフォーラムにとって懸念事項となっている」(「オゼアニア史」p377、フィーラム=太平洋島嶼フォーラム)。シンガポールのウン・エンヘン国防相はシャングリラ会合で、『日本は歴史問題で近隣諸国との間で「未解決の敵意」を抱えていると指摘』(『「日本は未解決の敵意」抱える/シンガポール国防相 歴史問題で指摘/アジア安保会議』 2023/6/6 しんぶん赤旗)した。日本が好き勝手をやっていると、アジア太平洋地域から爪弾きにあうだろう。

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