同書p118に『川路は、日露関係をカードとして、対米交渉をのらりくらりと引き延ばすことが賢明であるとの立場を採っていた。結論の「先延ばし」というと、現代政治においてはネガティブなイメージしかないが、ペリーとの交渉における引き延ばし策は極めて有効であったはずである』としている。しかし、その対米交渉のやり方は本当に有効であろうか?
「沖縄県の歴史」(山川出版社 安里進、高良倉吉、田名真之、豊見山和行、西里喜行著)には、琉球が同時期に米国の威圧的な要求に即答をさけ、のらりくらりと返答を先延ばしにする対応をとったことが書かれている。『これに業を煮やしたアメリカ側は、「東洋的かくれんぼう外交」と琉球側を批判した。(中略)ペリーはついに「武力に訴える」と、琉球王府の摂政尚宏勲(与那城親方朝紀)をおどし、条約の承認をせまった。』(p220)とされている。ペリー艦隊はヤマト訪問前に琉球を訪れており、ペリーが、のらりくらりの交渉手段に悩まされていたことが分かる。
昨年から始まった日米経済対話について『日本にとって同対話は「結論を先送りする仕組み」(政府関係者)だった』(『対日圧力再び、輸入制限発動、トランプ氏「もうだまされない」、FTA交渉にらむ。』 2018/3/24 日本経済新聞 朝刊)と「引き延ばし作戦」であることが報じられた。それに対しトランプ米大統領は、『「日本の安倍首相らは『こんなに長い間、米国をうまくだませたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」。トランプ氏は22日、こう強調した』(同記事)と「引き延ばし作戦」を非難する発言しており、日本側の「のらりくらりと引き延ばす作戦」は対米交渉に有効ではないことが分かる。トランプ米国大統領の支援者であるカジノ経営者にも関係する、統合型リゾート実施法案(通称 カジノ法案)可決も、本丸の自動車輸出制限交渉を避けるための「引き延ばし」作戦に見える。米国に通用しない交渉手段をとるのは相変わらずだ。
江戸時代には、米国との交流がほとんどないため、川路の「のらりくらりの引き延ばし」手法が通用すると考えても仕方がないのかもしれない。しかし、米国との交流が進んだはずの現在でも、「のらりくらりの引き延ばし」手法が通用すると考えるのは、米国人のものの考え方を理解していないのではないかと思う。米国人のものの考え方を理解せず、米国人民に実利がなくても「日米同盟」を空念仏のように唱えるだけで日米関係が良好になるという見方をとることは恐ろしいことである。
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