投資家の目線

投資家の目線603(ユーラシアニズム)

 チャールズ・クローヴァー著「ユーラシアニズム ロシア新ナショナリズムの台頭」(NHK出版 越智道雄訳)を読んだ。ロシア強硬派を後ろ盾にして、ロシアの参謀幕僚学校の支援を受けて刊行されたアレクサンドル・ドゥーギンの「地政学の基礎」にまつわる本である。クローヴァーによれば、「地政学の基礎」の意図は、「ソ連を再び糾合して、世界支配の帝国へと盛り返す点にあるようだった」と書いている。
 ドゥーギンは、モスクワ=東京枢軸の創出、そのために千島列島を日本に返還し、その代わりに日本は日米安保を破棄するというプランをもっているようだ。昨年、北方領土の一部が返還されるのではないかという観測が報道されたが、この「地政学の基礎」が元ネタであろうと思われる。なお、2011年3月11日にプーチン大統領はユーラシア連合構想を発表している。

 しかし、I・I・ロストーノフ編「ソ連から見た日露戦争」(原書房 大江志乃夫監訳 及川朝雄訳)によれば、日露戦争のサハリン侵攻の時、「ダイールスキー二等大尉とその他の民兵は、降伏した後、日本兵の銃剣でさし殺されたとの報告がある」とされる(1905年5月24日の特別評議会の戦争即時停止の支持を受けて、翌日、ニコライ二世はアメリカ大使にロシアが日本と会談を始める用意があることを通報している。その後6月24日にサハリン侵攻は始まった)。
 幣原喜重郎著「外交五十年」(中公文庫)によれば、幣原はシベリアから撤兵しやすくするために米国政府から日本の行動の自由を認める公文を取り付けたが、陸軍は悪用して兵力を増援した。
 保阪正康著「昭和陸軍の研究 上」(朝日新聞社)によれば、ノモンハン事件の処理のとき決裂した理由を、主任参謀辻政信が殺しまで言及してソ連代表団を脅したためだという満州国代表亀山一二氏の証言が掲載されている。

 これらの日ロ(ソ連)間の歴史を見ると、ロシアの日本に対する不信感はかなりのものがあると思われる。北方領土返還はそう簡単に実現することではないだろうと思う。


追記:「地政学の基礎」は軍・警察・外交のエリートに大きな影響を与えた本とされ、その提唱する枢軸には、ベルリン=モスクワ=東京枢軸とモスクワ=テヘラン枢軸がある。
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