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太海旅行で泊った宿は、海辺だった。波打ち際のすぐそばだった。
なので、部屋の窓からは渚が続いている風景が見え、窓を開ければ潮風が部屋に入って来た。
そして、何よりも良かったのは、絶えず波音が聞こえることだった。
絶えず聞こえる波音の、なんと心地よいことか。
海は時に大津波などで大きな災害を人に与えることがある。その一方で、優しい時は、本当に優しい。
優しい海を見てると、災害をもたらす時の海は別の人格・・・ならぬ海格(?)に憑依されているようにも思える。
窓から見える景色は同じでも、夜と朝と昼ではかなり雰囲気は違う。
しかも、海の場合、波音は絶えず変化している。
だから、飽きない。
宿の窓から見えた浜の向うには岬がのびていた。そして、その岬の手前には、ポコッと盛り上がった小さな山が見えていた。
宿に泊った翌日、チェックアウトをすました私は宿の主人に勧められた展望台を目指して歩いていくことにした。
多分、窓から見えた岬の手前にある小さな山に展望台があるのではないか・・と思い。歩いて行った。
途中では、内房線が鉄橋をちょうど渡る瞬間を見ることもできた。
どんどん歩いた。
ところが、道は、私が思っていた「岬の手前の小さな山」方面とは少し離れていった。
てっきり山の裏側に道があるのだろう、そしてそこに行くには、いったん下がって少し遠回りして、裏側からルートが進んでいるのかと思い、少しづつ小山が遠のくのを我慢して歩いていた。
やがて車がよく通る道から右側への分岐道が現れた。そこを右に曲がって歩いていけば、きっとあの小山に続くのだろう・・・そう思った。
だが…途中までは確かにその小山に少し近づくかに見えたのに、展望台への案内板は、逆の方角に矢印を描いていた。
あれ?あの小山方面に向かうんじゃないの?このままじゃ・・その矢印通りに歩いていったら、あの小山からどんどん離れていってしまうぞ。
そう思うと、疲れが出てきたし、このまま矢印方面に歩いていっていいのだろうか?とも思い、ペースがだれてきた。
だが、宿の主人の話によれば、展望台は太海を一望のもとに見おろすことができ、テレビなどで太海を紹介する時は、いつもその展望台からだという。
だとしたら、矢印通りに進んでいくしかないのかもしれない。
私はどこか狐につままれたような疑心暗鬼な気分で、道を歩き続けた。道は舗装されてはいるものの、ずっと登り坂だ。地形的に、山を登っているのだ。
舗装されているぐらいだから車でも行けるだろう。
というか、これは後から思ったことだが、本来その道は歩きではなく、車で行ったほうがいい道なのではないか。目的地の傍には、ちゃんと駐車場があったし。
看板は「魚見塚展望台」という場所へ、私を誘導していた。
見れば、私が向かうとばかり思っていた小さな山はもうはるかに通り過ぎてきている。
だんだん息が切れてきた時、階段が現れ、そこから更に一気に「もっと高い場所」へ続くようだった。
一体私はどこに連れていかれるのだ?とも思ったが、これまでの苦労を考えると、引き返すのもシャク(笑)。
そこで、おとなしく階段を登り始めた。
すると、塔みたいな建物が現れ、さらにその塔に登っていく急階段が現れた。
その様は、一瞬まるで・・・小さな宮殿にでも入ってゆくような錯覚を覚えたのは、私の感じ方が妙だからだろうか。
ともあれきっと、あの塔が終点なのだろう。だとしたら、その急階段は最後の階段かもしれない。
見れば、そこには大きな銅像が建っているのがわかった。
なにやら大層な塔にも思えた。只者ではないものを感じ、私は塔に向かった。すると、なにやら看板が掲げられていた。
なかば意地もあって、よく分からないまま、ここまできた。
もう、ゴールだ。そう思い、その塔の階段を登って、上まで登りきったら・・。
わっ!!
なんだ、これは。
これは・・すごい。絶景。強力。
一瞬、言葉を失った。
これが魚見塚展望台か・・。素晴らしいし、圧巻。
展望台の先端に立ち、右側を見れば、そこにはさっきまでいた太海が遥かに見下ろせた。
見れば、私が向かうとばかり思っていた「小さな山」は、この展望台よりも下に見えた。ということは、あの小さな山よりも、この展望台は更に高いのだ。
来て・・・よかった。矢印の誘導に素直に従ってよかった。
まずは、展望台から見る、太海の海と、地区。
そして、展望台の正面には、こんな海が。
さらに、視点を、展望台の左側に向けてみると・・。そこは、はるか眼下に鴨川の街と海が広がっていた。
ついでに、展望台の後ろ方面も見てみた。
テレビなどで太海を紹介する時、いつも使われるのが、ここからの眺めである・・・というのはうなづけた。
これを見せられちゃね・・。
しばし絶景に見とれた後、我に返った私は、この展望台に建っている銅像の写真も撮ってみた。銅像は、この展望台から、太平洋を見つめていた。
これは後姿。銅像の全景でもある。
できれば銅像を正面からも撮りたかったが、位置的に銅像の真下に私はいるので、銅像を下から見上げる構図でしか写真は撮れなかった。
銅像を真正面から撮るためには、宙に浮いた状態で展望台から離れて撮るしかないが、空を飛べない私にはそれは無理(笑)。
どうしても銅像を正面から撮ろうとするなら、船にでも乗って、超ズームで撮るしかないだろう。
ともかく、最後にこの魚見塚展望台に圧倒された私は、そろそろ駅に向かうために下山を始めた。
この展望台は、太海と鴨川の中間あたりにある。
この後私は東京に帰るために、鴨川駅で特急に乗らなければならない。
だとしたら、太海に戻らず、このまま鴨川駅まで歩いたほうがいいのかもしれない。
だが、初めて来た場所なので、少し不安もあった。
安全策で、さっき来た道をそのまま戻り始めた。すると、太海駅には近付くが、鴨川駅からは遠ざかることになる。
そう思っていたら、山を降りたところにバス停があった。次のバスはいつくるのかな・・と思ったら、時刻表によれば1分くらい前に鴨川行きのバスは出てしまったようだった。
仕方なく、太海駅まで歩き始めたのだが、数歩歩いたところで、なんと!バスが来た!
バスは1分遅れで来たのだ。
おかげで、時間のロスが無い状態で、私は鴨川駅行きのバスに乗れた・・というわけだ。
太海の駅に戻る手間が省けた。
なんという幸運、最高のタイミング。
もしかしたら、魚見塚の銅像の加護か?それとも、昨日行った沓指神社の御利益?
あるいは・・・ねじ式小僧の不思議な「見えざる力」によるものか?
だとしたら・・・
ありがとう、魚見塚の銅像。
ありがとう、沓指神社。
そして・・なにより・・
ありがとう、ねじ式小僧君。
つげ先生。
「ねじ式」のおかげで、いい場所に来ることができました。
短い旅行ではあったけれど、充実した気持ちで、私は外房を後にした。
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