大学は私は自宅から通っていた。
片道50分くらいだったから、無理に大学近くに部屋を借りる必要はなかったからだ。
本当は家を出て、1人暮らしがしたかったが、片道50分で通えてしまうのでは、1人暮らししたいとは親に言えなかった。
当時私の部屋は、親が暮らす部屋から少し「離れ」みたいになっており、親が家に入る出入り口とは別の出入り口が私の部屋にはあった。
なので、友人も来やすかっただろう。
大学の頃は、家の近くに中学時代の友人たちがまだたくさん住んでいた。
大学時代にできた友人は、住んでる場所はバラバラだった。決して我が家の近くに住んでるわけじゃなかった。
そりゃそうだろう、大学には日本の各地から都心に出てきた友人がいっぱいいたし。
地方から出てきて大学の近くに安アパートで1人暮らしをしてる友もいたし、実家暮らしを続けていた友人も、電車を乗り継いで行かなきゃいけない場所に家があったりした。
だが、中学時代の友人たちは、私の家の近くに住んでいた。
なので、中学時代の友人たちは、何のまえぶれもなくいきなり私の部屋にひょっこり遊びにくる奴は多かった。
ある日、H君が遊びに来た時のこと。
それはもう夜中だったと思う。
彼の家は私の家から歩いて10分くらいのところだったから、夜中でも気軽に遊びに来れたのだ。
しばらく私の部屋でおしゃべりをしてたが、やがて何がきっかけだったか、2人で外に出た。夜風にあたりたくなったのかもしれない。
互いに貧乏学生だったから、夜の街で遊ぶようなお金はなかった。
で、ふたりが行き着いたのは、近所の公園だった。
それは私の家から歩いて数分のところにある公園。
その公園にはいくつか遊具もあったと思うが、中にはミニサイズのアスレチックコースみたいな遊具もあった。
そこには、2~3人が乗れるような、ロープを縦横に張りめぐらされたハンモックみたいな遊具もあった。
私とH君は、いつしかそのハンモックみたいなものに乗り、とりとめもなくおしゃべりをし始めた。
何を話したのだろう・・。
全く覚えていない。
でも、夜になじんだのだろう、かなり長い時間、2人はそこにいた。
げらげら笑うおしゃべりではなく、なんか・・しみじみとした話だったと思う。
H君は、決してハイテンションな奴じゃなかったしね。
時には沈黙もあったと思う。
でも、私たちの関係は、その沈黙は苦にならなかった。
屋外にいて、外の空気に包まれながら、友人としみじみとした時を過ごす・・・という状況が心地よかったのだと思う。
気付けば、夜が明けようとしていた。
東側の空の地上付近が、少し明るくなる気配があった。
「あれ、もう夜が明けるよ」
「そうだね、そろそろ帰ろうか」
といったたぐいの会話があり、2人はそれぞれの家に帰った。
H君の家は、我が家に泊るほどは離れていなかったから。
当時、私は大学の友人と夜会う時はたいがい酒が入った。
だが、中学時代の友人とは、夜会う時でも、あまり酒は入らなかった。
今思うと、H君とは、特にその時酒を飲んでたわけでもないのに、なぜあんなに夜の公園の一角で夜明けまで過ごせたんだろう。シラフで。
今なら、そういう時は確実に酒が入っていると思う。
で、公園で過ごす場合、酔いざましを兼ねていたと思う。
だが、その時の私とH君は、全く酒は飲んでなかった。
その出来事は、記憶に残るほど盛り上がったというわけではないし、めちゃくちゃ楽しかったというほどでもない。
でも、なんとなくしみじみとして、屋外の夜の公園の空気に癒されていたと思う。
だから、記憶に強く残っているのだと思う。
今では・・あまり考えられないかもしれない。そういう状況は。
都心の夜の公園での出来事で、まわりには民家や低いビルが立ち並び、公園の脇には普通に舗装された道が走っていた。
なので、自然風景に癒されてたわけではない。
都心にあって、シラフのままで夜の静かな雰囲気に癒されていた・・という、なぜか忘れられない時間ではあった。
そういや、H君はどちらかというと癒し系の人物だった。穏やかで、にこやかで、若い頃のケメ(佐藤公彦さん)みたいなかわいい雰囲気もあった。
もしかしたら、H君に癒されていたのかもしれない・・なんて、思ったりする。
H君は、皆に好かれていた奴だった。
というか、かわいがられていた奴だった。
そんなH君とは、互いに大学を卒業した後は、私は会う機会はなくなった。
というか、私だけでなく、同じ中学出身の他の友たちも、H君とは会う機会はなくなっていったと思う。
ある時、私とH君の共通の友人だったN君の家に私が泊まりがけで遊びに行った時、夜中にふと思い立ち、H君の家にいってみよう・・・という話になった。いきなり。
その時はH君はすでに社会人になり、実家はとうに出ており、かなり離れた場所で暮らしていた。郊外に住んでたと思う。
車でH君の家に、アポもないまま夜中に訪ねていった私とN君。そして、一緒にいたM君も。M君は車を持っていたので、M君の車に乗って、3人で行ったのだった。
もう時間は真夜中だった。
深夜2時は過ぎていたかもしれない。
いきなり夜中の2時過ぎにやってきた私とN君とM君を見て、快く家に家にいれてくれたH君。
仕事でけっこう疲れているようで、学生時代に比べたらやつれていたように思えた。
げっそり痩せていたからだ。
でも、嫌な顔ひとつせず、応対してくれた。
そして旧交をあたためるように話しあった。
私もN君もM君もH君を懐かしく思ったが、H君にとっても私たちに会うのは懐かしかったんだと思う。
ただ・・H君は翌日朝7時から仕事だった。
本当は深夜2時過ぎにいきなり私とN君が訪ねていったのは、少し困った感もあったんじゃないかなあ。しかも学生時代よりやつれていたし。
でも、最後までH君は、迷惑そうな顔はしなかった。あいかわらず、しみじみとした感じで。
しばしおしゃべりが続いた後、私とN君とM君はH君の家を出た。
「Hの奴、やつれていたな。」
「げっそり痩せていたもんな。仕事、かなりきついのかもね」
「こんな時間に訪ねていって、悪かったんじゃないか」
「でも、迷惑そうな顔は一切しなかったよね」
「あいつらしいなあ・・あいつは、そういう奴じゃなかったからね。昔から。」
「やはり、いい奴だよなあ」
「俺たち、Hに会いたい気持ちが盛り上がって、いきなり行ってしまったけど、あいつ今日の仕事大丈夫かな・・。睡眠不足になるはず。」
「本当は、Hとも普段もっと会いたいんだが、これでは中々誘えないなあ・・申し訳なくて」
「あまり休みもないみたいだしね」
「やはり、悪かったと思うよ,俺たち。」
H君の家を出た私とN君とM君は、そんな会話をしながら、車で家に帰った。
それ以来・・・H君と会うことは・・ないままだ。
その出来事が、H君と会った最後になってしまっている。今のところ。
会いたい気持ちが盛り上がって、いきなり訪ねていけば、H君も喜んでくれるのではないかと思って、いきなりH君を深夜に訪ねた私たち。
H君は嫌がりはしなかったし、ちゃんと付き合ってくれたが、そのやつれ具合を見て、H君が嫌がらなかったことで、私とN君とM君はかえってH君に対して申し訳なくなってしまった。
その日のH君の仕事を考えると。
もう、学生時代とは違うのだ。学生時代と同じノリを、社会人になってからも続けるのは、相手に迷惑をかけることもある。
それ以来・・
なんとなく、遠慮があって、付き合いは・・・途絶えてしまった。
おそらく、H君は、中学時代の誰とももう会ってないのだと思う。
そんなこともあったから、私もH君も互いに学生だった大学時代に、私の家の近くの公園で深夜から明け方まで私とH君のふたりでシラフでしみじみ過ごしたことが、私としては忘れられないのかもしれない。
何気ない出来事が、時にいつまでも忘れられない記憶になり、それが宝物のような記憶に思えてくることが・・・ある。
ちなみに・・皆に好かれていたH君だったが、同窓会には一度もきたことが・・ない。
単に、その後のH君の連絡先が誰もわからなくなっているから・・・だと思いたいのだが。
心も大人になってこそ、こういう話の好さが判るんですよね(笑)
Hさんに真夜中アポ無しで会いに行った話、Hさんも少しも嫌な顔をせず歓迎してくれた話、どちらも泣けてきます。
だんぞうさんの今回のお話に、ぴったりふさわしい歌謡曲があります。
石原裕次郎「昭和の尋ね人」
男と男の付き合いは 学生時代のままで行く~♪
H君とは、結局この時以来会えていません。
今は連絡先もわからないので。
今も元気でいることを願うばかりです。
でも、またいつか会える日は来るとは思ってます。
できれば、互いに元気なうちに、そんな機会があるといいなあとも思ってます。
「昭和の尋ね人」?
すみません、不勉強ながら知らない曲です。
時間がある時に検索して探してみますね。