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この本は、昭和30年代・40年代に人気があったマンガで、著者の泉さんが好きだった作品を取りあげて綴られているエッセイである。
作品のセレクトは、当時の漫画界を代表する作品や、当時勢いがあった作品が選ばれてはいるが、中には今となっては埋もれてしまっている名作もある。
そのセレクトぶりが私の心の琴線に触れ、思わず衝動買いしてしまった。
「ハレンチ学園」「男おいどん」「男一匹ガキ大将」などは、マンガ史に残る名作として今でも語られることはあるが、例えば「黒い秘密兵器」みたいな作品は、今では中々触れられることはない。これなどは今では埋もれてしまっている作品といえるだろう。
そういう作品にもスポットを当てている・・という点は、非常に私の好みだし、この本ならではの良い点だと思った。
読んでいて、私にとって馴染みの深い作品もあれば、当時読んでいなかった作品もあった。
だが全体的には私にとって馴染み深い作品は多かった。
まあ、だからこそこの本を衝動買いしたわけだけど。
この本で特徴的なのは、泉さんがこのエッセイでとりあげた作品をリアルタイムで愛読していた頃に、当時の泉さんが作っていた「マンガベスト10」を、このエッセイの文中でよく引き合いにだしている点。
その「マンガベスト10」というのは、例えば雑誌やテレビやラジオや新聞などに掲載されていたデータではなく、当時の泉さんの周りの友人たちの間での評判や、彼自身の印象などを参考にして、独自に泉さんが個人的に作っていたデータらしい。
よく、洋楽ベスト10とか、歌謡曲ベスト10みたいな番組がラジオやテレビであったが、そういうベスト10のマンガ版・・・そういうものを目指して、泉さんが個人的に作っていたデータらしい。
なるほど、面白い企画だ、私も当時やっておけばよかったかもしれない。
そのベスト10の作成の調査範囲は、かなり個人的なものだったかもしれないが、後の時代にこういうエッセイを書く時には、中々の資料になると思う。それを作ったことによって覚えている作品や感想や、身の回りにおこった出来事などを思い出せたりもするだろうから。
このエッセイで取りあげている作品は、セレクトされたマンガを、それぞれ評論家やマニアのような本格的な調べ方をして述べられているわけではない。
あくまでも、当時リアルタイムで読んでいたファンが、今それらの作品に対してどう思うか、今の尺度でどう捉えるかを綴っている感じの内容だ。時代性の記述も含めて。
今、マンガ・・というより、コミックを読んでいる若いファンに、この本がどう受けとめられるかは分からない。というか、若い人にとっては、馴染みのない作品が多いと思われる。なので、若い人はあまり手に取らないかもしれない。
私自身、この本で取りあげられてる作品の多くを面白く読めたが、名前は知ってても未読だった作品についての記述は、馴染みのある作品に比べると淡白な読み方をしてしまった。
この本は、取りあげられた作品1作1作について、どれだけ思い入れがあるかどうかが、この本をより楽しく読めるかどうかの分かれ目になるだろうと思う。
馴染みのある作品についての記述には、けっこう共感してしまったし。
作品のセレクトぶりには、けっこう少年時代の私と趣味がかぶる部分があるのが嬉しかった。
そういう意味では、この本で取りあげられている作品に昔熱中した大人が読んだら、ニヤリとさせられ、より楽しめるとは思う。
これもまた、日本の漫画の歴史の一部ではあるのだ。
個人的には、パート2も出してほしい気はしている。
この本でセレクトしきれなかった作品は、多数あると思われるので。
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