美しい夕焼け

美しい晩年を目指して

「八咫烏シリーズ」

2024-12-06 20:10:42 | 本・映画


10年位前のこと、新聞に「烏に単は似合わない」の紹介が載っていました。大学生が書いたファンタジーです。読んでみようかと文庫本を4冊、そのあとに出版された単行本を2冊買いました。

その八咫烏シリーズが、今年、NHKでアニメで放送されました。それを観て、もう一度、本を読み返してみようと思いました。

八咫烏の住む山内の世界の物語です。八咫烏は、人間の姿で生きています。そして、烏として飛ぶこともできます。朝廷で貴族たちが勢力争いをしたり、まるで人間の世界のままです。

最初は、八咫烏の長の若宮のお妃選びから始まります。(「烏に単は似合わない」)そして、若宮が地方の豪族の少年を近習としようとするのですが、少年は反発して、1年だけの側仕えとして若宮に仕えます。(「烏は主を選ばない」)

いろいろなことが起こり、それを若宮とその少年雪哉を中心とした人々が活躍して解決していき、お妃は決まり雪哉も自分の故郷に帰ります。登場人物の心の襞が描かれ、若宮と雪哉とのつながりが生き生きと描かれています。

そして、この後大きな事件が起こります。人食い猿に八咫烏が食われるのです。山内というのは、大きな山を中心にして、その周りに建物を建てて、八咫烏だけが住んでいます。そこに外界から猿が侵入してきます。(「黄金の烏」)

八咫烏の世界は、八咫烏だけの世界ではなく、猿や山の神や人間もいる世界なのです。最初はただのファンタジーとして、人間のような烏を生き生きと描いているのだと思っていました。でもそうではなく、八咫烏の世界は、人間の生きている今の世界とつながり、その異世界のありようを魅力的に描いているのです。(「玉依姫」)

なぜ八咫烏は人間の姿になったのか、なぜ八咫烏の山内の世界は他の世界と連絡が取れなくなったのか、そういうことも解き明かされていきます。

作家の阿部智里は、大学生の時にこの本を出版し始め、今も続いています。こんな異世界のあり方をその若さで構想したことをすごいなと思います。

私は、雪哉が魅力的で好きです。勁草院での若者たちの熱い思いに心が奪われました。(「空棺の烏」)

八咫烏シリーズは「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」「黄金の烏」「空棺の烏」「玉依姫」「弥栄の烏」までで第一シリーズは終わりました。そのあともまだ続いていますが、私はまだ読んでいません。これから楽しみにしています。

八咫烏シリーズは、人(烏)の心の触れ合いと、得たもの、失ったものを厳しい目で描いています。たくさんの感動をもらうことができます。

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「自由研究には向かない殺人」

2024-10-03 15:21:37 | 本・映画


この頃、推理小説を読んでいます。この前読んだ「自由研究には向かない殺人」がとても面白かったので、紹介しようと思います。

推理小説の中には、とても魅力的な探偵が出てくることがあります。シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロはとても有名ですね。コーモラン・ストライクやハードボイルドのフィリップ・マーロウも私の好きな探偵です。

「自由研究には向かない殺人」の探偵は、高校生の女子です。学校の自由研究に、5年前の住んでいる町での殺人事件を取り上げたところから、この物語は始まります。

彼女は、その殺人事件に疑問を持っています。華やかな女子生徒が行方不明になり、つきあっていた男子生徒が自分が殺したといい、自殺するのです。でも、犯人といわれている高校生だった男子生徒を無実だと思っています。

彼女は、その男子生徒が自分をいじめている子供たちから守ってくれたことから、その男子生徒が殺人しないと信じています。彼は、人種などに対する偏見を持っていないということが分かっているからです。

その男子生徒の弟と一緒に真の犯人を捜します。ほんのすこしの食い違いから、真の犯人を捜していきます。

それは思っていた以上に複雑な事実が絡んでいて、事件はいろいろな方向へ飛び火していきます。そして、いろいろな人達の姿が明らかになっていきます。

真犯人が明らかになり、殺人者と思われていた男子生徒の無実が証明されて、その家族が町の人から受けていた残酷な態度が、改めて取り上げられます。

その主人公の探偵のピップの物事への真摯な態度に、心洗われるような気がしました。ピップは、世の中や人に対して、公平な姿勢で対します。公平というのは、とても難しいことですが、でも、すべての判断の基本になくてはならないものだと思います。

たいていの探偵は少々心に重いものを抱えているのですが、ピップはその重いものを前面に押し出して闘う姿が、魅力的でした。

読み終わった後に、さわやかな風が吹いたような気がしました。

作家は、イギリスのホリー・ジャクソンです。

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「モンテ・クリスト伯」

2024-08-30 17:20:57 | 本・映画


毎日、夜寝る前に本を読みます。本はたくさん持っているのですが、今読みたい本はそんなにたくさんありません。

それで、時々本を買います。でも、そうすると、結構本代がかかるため、持っている本の中で読みたい本を探します。昔読んだ本ですから、あまり覚えていないものばかり、その中で面白そうだと思ったものを読んでいます。

今回も持っている本の中から、また読んでみようかなと思って選んだものです。「モンテ・クリスト伯」岩波文庫7冊です。

読んだはずなのに、覚えていなくて、こんなに長い本だとは思いませんでした。ご存じの方はたくさんいらっしゃるでしょうが、復讐の物語です。

若く凛々しい船長のエドモン・ダンテスが、航海から帰ったときから物語は始まります。恋人のメルセデスと結婚して、新しい人生を始めようとしていました。

ダンテスの幸運をねたむ二人の男フェルナンとダングラールが、ダンテスを陥れる手紙を書き、それを糺すべき検事のヴィルフォールが、自分の身の安全のためにダンテスに罪をきせてシャトー・ディフへと送ってしまいます。

ダンテスは、無実の罪で海の中の牢獄に14年閉じ込められてしまいます。自分では、何の罪かもわからず、絶望の牢獄生活でしたが、脱獄を計るファリア神父と出会います。

神父の知性や教養に出会ったダンテスは、学問や言語、貴族としてのたしなみまで神父に習い、第二の父として愛するようになります。神父は病気のため死に、ダンテスは遺体になり替わり、脱獄に成功します。

神父から、財宝の隠し場所を教えてもらったダンテスは、その財宝と知性や教養でエドモン・ダンテスではなくモンテ・クリスト伯爵として、パリの社交界にデビューし、自分を陥れた人々への復讐を始めます。

ダンテスをただ一人助けようとした船主のモレルへの恩を返し、陥れた人々への復讐は成功しますが、ダンテスは、明るい心ではなく、多くの巻き込まれた人々の苦しみと共に苦しみます。

最後に王女エデとの新しい愛に気づき旅立ちますから、それだけは救いでしょう。

ダンテスは、無実の罪でひどい牢獄生活をし、復讐は当然のことのようにも思われますが、読んでいるうちに少しずつ、復讐をすることは本当に当然のことなのかと思い始めます。

人は暴力で人を貶めることはできないと思うのですが、暴力に暴力で対することは仕方ないのでしょうか。戦争などはそういうことなのでしょうから。

モンテ・クリスト伯爵は、教養もあり、おおらかに人々を魅了し、人ではなく神のようだと思われるような人なのです。それは、人は人を罰することはできないけれども、神として真実のためならということなのでしょうか。

物語としてはとても魅力的なのですが、復讐ということが成り立つものなのかどうか、考えてしまいました。

モンテ・クリスト伯爵は、とても魅力的な人で、こんなに財宝があり、知性や教養もあり、おおらかに人としての優しさもあれば、魅了されてしまいます。それに、センスのあるハンサムな人なのですから。

作家はアレクサンドル・デュマ、このお話は実話を参照して膨らませたものだそうです。

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「ドリアン・グレイの肖像」

2024-05-30 13:40:23 | 本・映画


美しい自分の肖像画に、年を取るのは自分ではなく、肖像画がとればいいと願ったことで、肖像画が年を取り、自分は年を取らなかったことで陥る不幸なドリアン・グレイの一生を描いた小説です。

肖像画は、若さと美しさで息づいているようでした。ドリアンは、自分の美しさを理解し、このままの姿でいたいと願い、そして、肖像画に自分の代わりに年を取ってくれるように願ったのでした。それが聞き入れられるとは思いもせず。

初めて、それを見たのは、付き合っていた女性を無残に捨てた時でした。自分の肖像画の口元に嫌なしわができていたのです。驚いたドリアンは、その肖像画を人目につかない部屋に運び、誰にも見せないようにしました。そして、その絵の変わっていく姿を見続けていました。

絵は次第に醜くなり、それは、ドリアンを恐れさせました。絶対他人には見せないように、と気を付けていました。

ドリアンは、悪の道に陥り、そして、他の若い貴族の息子たちを誘い、悪の道に陥れたりして、自分の欲求のままに生きていきました。それだけに肖像画は、醜く変わっていったのです。

自分の生き方を顧みることもなく、ただ欲望の赴くままに生き、そして、自分の肖像の醜さを憎むドリアンは、少しずつ肖像画に振り回されていきます。

20年近くたった時、ドリアンは自分がこんなみじめな日々を送るのは、その肖像画を描いた画家のせいだとその画家を殺してしまいます。そして絵はひどい様相の絵になります。

その絵を見ていたドリアンは、その絵が自分を苦しめると、その絵の心臓にナイフを刺し、恐怖の叫び声を発したのは、その絵を刺したドリアンでした。

その絵の前には、醜くやつれた男が死んで横たわり、誰もその男が誰かが分からなかったのです。そして、壁には若く美しいドリアンの肖像画がかかっていたのです。

人生にとって、若さや美しさは価値のあるものだと、人は思います。それを追い求めるのは、当然のことだと思います。ただし、それは、ひと時のこと、人間は、若く美しいままに居続けることはできません。

だから人は、若さや美しさばかりを求めていくと、躓いてしまうのです。何かを失うときには、何かを得なければなりません。知性や、愛情や、生きることへの味わいなど、を得なければなりません。そうしなければ、若さと美しさへ取り込まれてしまうのです。

作者のオスカー・ワイルドは、この作品を出版した時には、同性愛の作品として、批判されたそうです。出版は、1890年ですから、時代がそういうことを拒否したのでしょう。

オスカー・ワイルドは芸術のための芸術という唯美主義の作家です。「ドリアン・グレイの肖像」を読んでいると、美への讃嘆だけではなく、芸術とは、人生とは、と作中人物が語り合い、19世紀ロンドンの社交界の有様が目に見えるようです。

19世紀ロンドンの社交界の花形だったオスカー・ワイルドがヘンリー卿、画家バジル、そしてドリアン・グレイの姿を通して、美への賛美、人間の生き方への自由な姿勢、などを語る知的で大胆な小説なのです。

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「図書館の魔女 烏の伝事 (からすのつてこと)」

2024-02-27 12:58:34 | 本・映画


去年の夏に「図書館の魔女」を読んで、本を読むことの醍醐味を思い知らされました。この「烏の伝事」もきっと気持ち持っていかれるなあと思いながら読み始めたのです。

ところが、図書館の魔女が出てこない、えっという気持ちでしたが、でも面白い。今回は山賊(やまがつ)と呼ばれる山で暮らす者たちが、ニザマの姫君を南のほうへと向かう船の出る港に案内するというところから始まります。

山賊たちと姫君とそれを守る護衛の近衛たちの旅は、港の廓に着いたところで終わったはずだったのに、山賊たちは、自分たちの命が危ないことに気が付き、夜のうちに逃げ出します。近衛たちは3人ばかりが命からがら逃げ出すことができたのですが、姫君は廓に留め置かれます。

港は荒れ放題の様相で、山賊も近衛も逃げ出すことができません。そして、地下の穴倉に住む鼠と呼ばれる子供たちに助けられます。

そして、姫君の救出やつかまっていた仲間の救出などするのですが、誰も何に追われているのか、なぜ追われているのか、が分かりません。

そして、最後のころになって、図書館の魔女が登場します。港の寺院に置いてあった本を水に痛められないように救出するためにです。

マツリカが登場すると、待ってました、という感じです。とても魅力的な女性がちょっとひねくれた様子でいるのです。

誰に追われていたのか、ということを言うとあまり面白みがなくなるので、言わないことにします。

大変な冒険を山賊たち、近衛たち、鼠たち、そして一の谷のスパイなどが、大活躍して、解決するのです。図書館の魔女がそれを見通していて、手助けしたのは当然のことです。

そして、エゴンという鳥飼と烏の活躍を言わなければなりません。エゴンは子供のころのけがで顔に傷があり、口もゆがんであまりしゃべることができません。人は皆彼を痴呆のように思い、烏を飛ばすことだけに力を認めていました。

しかし、彼は物事の自然な姿を見ることができ、成り行きの流れを見ることができ、文字さえも読み書きできるのでした。彼と烏の活躍が無くしては、事件は無事解決しなかったかもしれません。烏の伝事という題もエゴンの活躍を言っているのです。

「図書館の魔女」「図書館の魔女 烏の伝事」のどちらにも大きな政治の動きがあり、一の谷、ニザマ、アルデシュなどの国々のこれからがどうなるのかと、楽しみです。きっと続編があるだろうと思います。そこには、キリヒトも出てくるかなあと想像しています。

作者は、高田大介です。緻密な美しい日本語の文章にひきこまれます。彼の教養の豊かさがよくわかる魅力的な本です。

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