美しい夕焼け

美しい晩年を目指して

「夜と霧」

2024-01-14 20:48:08 | 本・映画
 

人に薦めたい本として、「夜と霧」を書いたところ、ブログで仲良くなったお友達から、その本の感想を聞かれました。

私はもう40年くらい前に読んだ本なので、この本を人に薦めたいと思ってきたけれど、詳しいことは覚えていなかったのです。それで、読んでから感想を書くと伝えました。

そして、読みました。ヒットラー、ナチスがユダヤ人とナチスに反対する人たちを強制収容所に拉致し、閉じ込め、残虐な仕打ちを続け、飢えと悲惨な状況から、死に至るものも多く、それよりも、労働に向かないものは、ガス室で集団虐殺されていたのです。

ヴィクトル・E・フランクルはウィーンに生まれた、精神医学士で臨床の医者でもありました。そして、彼はユダヤ人でした。アウシュビッツに送られたフランクル教授は、過酷な労働と飢えと不潔な環境の中で、医者としての役得を使わず、一人の囚人として生き延びたのでした。

彼は、強制収容所での人々の姿を見、それを「強制収容所における一心理学者の体験」(それが「夜と霧」です) に書きました。それは、そこのすさまじい悪逆を描いたのではなく、人がどのようにその逆境を受け止めたかということが書かれていました。

どのようにも救われない環境の中で、多くの人は、「収容所の囚人」となり、でも、少しの人は、なお人間としてとどまり、人間としての尊厳を守る一人の人間になるのです。次に少し引用します。

一人の人間がどんなに彼の避けられ得ない運命とそれが彼に課する苦悩とを自らに引き受けるかというやり方の中に、すなわち人間が彼の苦悩を彼の十字架としていかに引き受けるかというやり方の中に、たとえどんな困難の状況にあってもなお、生命の最後の一分まで、声明を有意義に形づくる豊かな可能性が開かれているのである―ある人間が勇気と誇りと他人への愛を持ち続けていたか、それとも極端に尖鋭化した自己保持のための闘いにおいて彼の人間性を忘れ、収容所囚人の心理について既述したことを想起せしめるような羊群中の一匹に完全になってしまったか―その苦悩に満ちた状態と困難な運命とが彼に示した倫理的価値可能性を人間が実現したかあるいは失ったか―そして彼が「苦悩にふさわしく」あったかあるいはそうでなかったかー。

強制収容所の中の過酷な環境にあってもなお、人は人を思いやり、内的な世界を持つことができると、フランクル教授は書いています。それは本当に過酷で悪辣な残虐非道がまかり通っていたところででもです。

人は、本当にこんなところで人間的でいられるのかと思いますが、でも、そうであったというフランクル教授の言葉を感動を持って読みました。

そういう人でありたいと自分の心を見る思いでした。

人は、ナチスのようにもなれるし、内的な人にもなれるのだと、深く沈痛な思いでいます。

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「図書館の魔女」

2023-08-13 15:01:54 | 本・映画


一の谷の王宮の後ろにそびえたつ高い塔の図書館があります。そこに、政治・経済・文化のすべての書物を繙き、多くの言葉を操り、国のすべてのもとを決めていく「図書館の魔女」と呼ばれる女性がいます。

その魔女マツリカのもとへ、彼女のお世話をするためにキリヒトという少年が送られてくる、という場面から始まります。

魔女マツリカは、言葉をしゃべることができず、音は聞こえるので、相手は言葉を話して、手話でマツリカの言葉を理解するというスタイルで会話します。それでも、多くの事柄を話し聞いて、多くの本を繙いて、国のすべてのもとを決定するマツリカは、素晴らしい能力の魔女として、人々に恐れられています。

周りの人たちは、マツリカを見たこともあまりなく、彼女がまだ少女といえるほど幼いことをあまり知りません。

そんなマツリカのもとへキリヒトがやってきます。最初は、キリヒトは、図書館での仕事をしながら、マツリカの世話をするように思われていたのですが、実は、幼いころから、暗殺者として修行をしてきたのです。そして、本来はマツリカの身の護衛のために送られてきたのでした。

キリヒトは、体を無駄なく使い、マツリカの手話から始まり、指話まで使えるようになり、マツリカにとって大切な相棒になっていきます。

うら若き少年少女の、地下道の探検、市中の発見などを通して、二人はお互いをよく知り、成長していきます。

でも、これは、少年少女の恋のお話ではなく、(それもちょっとはありますが)、一の谷と北の国々の戦争が始まりそうな中、魔女マツリカの戦争をなくして、お互いの国が、どうすれば自分の国を豊かに平和にしていけるかという企みであり、奇策です。

たくさんの魅力あふれる人たちが、自分の力を発揮して、それぞれの国の平和を勝ち取ります。様々な人々の魅力、理性、愛情、知恵、力が発揮されるところは、とても読みごたえがあり、この本が終わるのが寂しいと思われるほどです。

私が一番好きな部分を少し抜き書きします。
私が死んでも、私が滅しても、私の言葉はまだ滅びない。ハルカゼが、あるいはキリンが、あるいはキリヒトが、次に「私の言葉」となり「私」となるだろう。

マツリカの言葉ですが、言葉は文化だと実感する本です。

文庫本4冊の大部ですが、どこを読んでも面白い!! なかなか出会えない素晴らしい本です。作者は、高田大介です。

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「新世界より」

2023-05-30 13:21:26 | 本・映画


今から1000年後の日本、思春期を迎える子供たちが、昔の世界を知ったことで、今の自分たちの世界の不可思議に気づいていき、世界のもろさや人間の弱さなどを知っていくSF、そしてミステリーでもあります。

1000年後の日本は、小さな集落のなかで、平和に暮らしています。人間は、呪力を持ち、バケネズミという知能の高い動物を使役して、暮らしています。

主人公の五人の子供たちは能力の高い子供たちで、呪力が目覚める年齢に達し、いろいろな不思議にめぐり合います。そして、五人は一人ずついなくなるのです。この世界に住めない人間は、消滅するということが決まっているのです。

残った二人の子供たちが、バケネズミの反乱を抑え、人間の世界をかろうじて持ちこたえさせます。

人間は、呪力を持たなかった人間を、バケネズミという動物に換え、呪力の力で支配していました。その中の頭脳の高いバケネズミの人間への復讐を、二人は命がけで戦い、勝つのです。

私たちの生きている時代は先史時代と呼ばれ、人間は戦争と暴力で、世界を破滅させるのです。そして、生き残った人間の中で、呪力を持つものと持たない者との争いが起こり、呪力を持つものが残り、小さな集落の中で、今の世界を持ち続けようとしているのです。

人間はそういった集落の中で、自分たちの世界を外敵から守ることに、大変な力を使っています。少しでも、集落の調和を乱すものは消滅させるのです。

それでも、どんなに守りを固めていても、型破りのものは現れ、人間の世界が壊されそうになることがあります。それにバケネズミの陰謀が加わり、人間の世界は今にも壊れそうになります。

そこで、二人の主人公が命がけで戦い、人間の世界を守るのです。そして、二人は、やはり、人間の世界はいつ壊れるかわからないと思いながら、力を尽くして、今の世界を守っていこうと思うのです。

人間は、暴力で世界を滅亡させ、わずかな力を持った人間の小さな世界を守っていくことでしか、人間の世界を存続させることができないという考え方に、少しショックを受けました。わずかな人間による管理で、危なっかしい人間の世界を守るということにも、とてもショックを受けました。

人は、自由でなければなりません。そうすると、人の世界は滅びてしまうかもしれないというのです。それなら、わずかな人間の管理で、世界を守る方が幸せなのでしょうか。それでも、人は、自由を求めて動き、争いが起こるのかと思うと、理不尽な気持ちになりました。

構想、30年、想像力と創造力の大きな力を感じさせる小説です。貴志祐介 作の、文庫本では3冊の大部の作品です。

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大江健三郎さん

2023-03-27 12:23:17 | 本・映画
大江健三郎さんが、3月3日に亡くなりました。大江健三郎さんは、私が30代から40代のころ、ずっと読んできた作家です。40冊くらい本を持っています。



亡くなってから、少し時間がたっていますが、それは、私の記憶力のせいです。読んでいたのは、30代から40代のころですから、30年から40年位前です。

私は、自分の記憶力に対して、あまり自信はありませんが、それでも好きな作家の本くらい覚えているのは当たり前と思います。

ただ、言い訳というのではないですが、7年前に病気をし、股関節を骨折して、リハビリをしているときに、エコノミック症候群にかかり手術をしました。その後の安静期に血液の薬を飲まなかったために、脳こうそくを起こしました。

それは軽いものでしたから、しゃべることは普通にできるのですが、言葉を忘れ、人の名前や人のことを忘れ、自分の中の記憶も忘れてしまいました。

そのせいで、昔読んだ本をあまり覚えていないのです。でも、大江健三郎さんは、私にとって、とても大切な作家で、本でしたから、何か書きたいと思ってきました。

その時、昔本を読むと、読後感を書いていたことを思い出しました。妹に頼んで、2階の机の引き出しを探してもらいました。そうすると出てきたのです。

それを読んで、私は、大江健三郎さんにたくさんの影響を受けていると思いました。

大江健三郎さんの本を読んで、私は、自分が狭い個の世界から、他へ広がっていくことを学んだように思います。

そして、生き方にも影響され、大江健三郎さんのように民主主義を生きたいと思っていました。今もそれは続いていますが。

若いころに大江健三郎さんに出会ったのは、とても素晴らしい体験でした。それを薦めてくれたのは、夫です。この人の本を読んでみたら、と言って、買ってきてくれました。

今、私の中には、細かな記憶は無くなってしまいましたが、もう一度、「同時代ゲーム」や「燃えあがる緑の木」を読んでみたいと思います。

大江健三郎さんの、姿も、しゃべり方も、生き方も、本も、とても好きでした。ご逝去を悼み、感謝の気持ちを表したいとこれを書きました。

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「童話物語」

2023-03-10 16:27:17 | 本・映画


「童話物語」は、ハイ・ファンタジーのジャンルの日本の作品です。向山貴彦 作、宮山香里 絵の、少女ペチカと妖精フィツとの、人間は滅びるものなのかという問いかけをしながらの冒険ファンタジーです。

妖精フィツは人間が滅びるべきかどうかを調べるために、人間界にやってきます。最初に会った人間とだけ口がきけるフィツは、ペチカという少女と出会います。ペチカは、母を亡くしてからのすさまじい残虐ないじめや虐待に心をゆがめられた少女でした。



本来ならば、優しいものの心が理解できる少女でしたが、ゆがんだ心は、フィツにも周りにもひどい態度で打ち解けず、でも妖精と少女は逃げだすようにして、旅に出ます。

次第に旅で出会った人や動物に、心が動かされていくペチカですが、大きな町で炎水晶という不気味なものに出会います。それは次第に大きくなり、人間の世界を滅ぼしていくような力を持っていきます。



いろいろな人々に出会うペチカは、人を愛することを知り、炎水晶と対決して、人間の世界は美しく、残されるべきものであるとフィツと共に戦います。

そして、人間の世界は滅ぼされず、炎水晶は破壊されます。

フィツの言葉に
人間はつまらない生き物なんかじゃないよ。地上に来て分かった。消えていくものだって、永遠に残すことはできるんだ。人間には、地上のすべての生物には、そういうすごい力があるんだ。

最後は感動的で、人間の力や人間の愛を信じたいなあと思ったことでした。



炎水晶は、魔の力を持っていて、人は己を忘れ、その力に染まり、世界を破壊していくのです。これは、今の時代では、インターネットのようなものでしょうか。それとも、もっと恐ろしい人を同じ方向へ向けて、武器を持たせるようなことなのでしょうか。そんなものに人は、動かされたりしないと思いたいです。

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