解れを縫い繕う

　　
2週間、実家に戻ってたの。
ずっとじゃないけど。
リスカもバレて、刃物捨てられて、
ずっと誰かのいい子でいなきゃいけなくて。
でもぼく何でも足りない悪い子でしかなくて。
ため息いっぱいきいた。
はぁ、って。
かおはなって。
どうして普通にできないんだろなって。
健康ならよかったのにって。
悪いんじゃ仕様がないって。



仕様がない子でごめんなさい。
健康じゃなくてごめんなさい。
普通じゃなくてごめんなさい。
私という人間でごめんなさい。


何も持ってなくて、与えられなくて、浪費するだけで、ごめんなさい。
なんの価値もなくて、世間体も悪くて、ごめんなさい。
いい子じゃなくて、ごめんなさい。



それでもいい子でいようってがんばるのも、
消えたくて消えたくて爆発しそうなときも、
自傷行為をしてちょっとずつ解消してきたけど、管理下にあってできなくて。
すごく苦しくて。
何度も死んでやりたいって。
今すぐここで死んでやろうって。
みせつけてやろうって。
思うけどそんな下らないことで死んでたまるかって思いもあるからやれなくて。



でもほんとにずっと苦しくて。
泣くことも切ることもできなくて。
苦しくて。

たすけてって言いたい人はもうずっと返事がなくて。
たぶんぼくはもう要らない子で。


親の「死ぬな」って言うのも自分の娘に対してであって、
かおるそのものに言われてることじゃないから。

そのかおるは2週間も死ねなくなったからきっともう見放されちゃったの。
要らないにんげん。



昨日からいろいろ理由を作って東京にひとりで戻って来れたの。

それでね、バイトの帰りにカミソリ買っちゃってね。
もうずっと、苦しいの我慢できたから、切ってもいいでしょって思ってね。
たくさん切ったら、我慢してた苦しいの、傷口から出て行ってくれると思ったの。
あぁ、やっと一瞬ずつの安心を得ようって。



手首の下5cmくらいのところを切ったら、
場所が悪かったのか、いつもより深かったのか、
血がぴゅーって出るほど切れちゃってね。
びっくりしたんだ。

あ、でも死ねるかもしれない。
このまま、止血しなかったら、お湯に浸けたら、死ねるかもしれない。
ごみ箱にぴしゃぴしゃいいながら落ちていく血を見ながら思ったんだけどね。

死ぬとしたとしても、好きな人の声が聴きたくなって、
恋人さんに電話したんだけど、深夜だったし通話はできなくて。
3週間くらい前に、好きな人から「先に死なないでね」って言われたの。
ひとりにしないよって言ったの。
だから「さきに死んだらごめんなさい」ってらいんだけ送ったのね。

でもできるだけ死なないようにしなきゃって思って、
止血して、でも止まらなくて。
いろいろあって深夜外来やってる外科で縫ってもらったよ。

帰ってきて、血だらけの部屋を掃除して、血だらけの服も脱いで、ぼくだけになって。
涙いっぱい出てきて。
ずっと大好きな居場所で苦しむことしかできなかったことも、いっぱい血がでて怖かったことも、タクシーのおじさんに血だらけなの驚かれたことも、病院でリスカ見せるの嫌だったことも、大嫌いな注射黙って耐えたことも、手術怖かったことも、傷口がずきずきするのも、既読マークだけ付いてたのも、2週間死ねないって送った後から返事も連絡もないことも、軽率な行動して友人に嫌な思いをさせたのも、たすけてって言える人誰も居なくてついったーでしかたすけてって言えなかったことも、そばにいてって言える人も居ないことも、手術こわかったんだよって言える相手も、2週間自傷我慢できたこと認めてくれる人も居なくて、ぜんぶぜんぶぜんぶ悲しくなって。ぜんぶ、ぜんぶ。
ぜんぶ、ひとりでしかなくて。
悲しくて。
悔しくて。
寂しくて。
痛くて。
悔しくて悔しくて悔しくて。
さっきまで血まみれだった床の上で、裸のぼくをぎゅーってして泣き喚いて、
みんなだいっきらいって。
みんなみんなこんな世界だいっきらいって。



大嫌い。
こんな世界。
大嫌い。
苦しいことばかり詰まったまあるい星。
私を生んだ愛しい世界。
だいっきらい。



週末にまた実家帰るんだ。
来週からはもしかしたらひとり暮らし再開できるかもしれないの。
あとね、来週はちゃんと抜糸にも行くよ。
病院にも。
学校にも、やっと行ける。



勉強するの。
泣く暇がないように。




縫いとめる
離れ離れになった肌を
ほつれてしまいそうな自分を