阿武山(あぶさん)と栗本軒貞国の狂歌とサンフレ昔話

コロナ禍は去りぬいやまだ言ひ合ふを
ホッホッ笑ふアオバズクかも

by小林じゃ

濱松の音はざゞんざ

2020-10-09 13:25:07 | 家づと
鯛屋貞柳「家づと」(1729年刊)、今日は神祇の部より一首。 


        住吉にて

  濱松の音はざゞんざ住吉の岸より遠(ヲチ)のあわち嶋臺




(ブログ主蔵「家つと」10丁ウ・11丁オ)


まず、この歌は神祇の部に入っているけれど、住吉社参拝とは書いてなく、貞柳翁狂歌全集類題では雑の部となっている。また、貞柳翁狂歌全集類題では「あはちしま」となっているが、このテキストでは次の歌とも「あわち嶋」と読める。



(ブログ主蔵「貞柳翁狂歌全集類題」52丁ウ・53丁オ)


歌の内容は、「ざざんざ」という松風の音を聞きながら住吉の浜から淡路島を遠望している。この「家づと」を読むにあたって立てた仮説、貞柳の歌は浄瑠璃や俗謡など多様なリズムを取り入れていて、そのために、五七五七七を一定の調子で読もうとする我々には難しく感じられるのではないか。この歌も最初の「濱松の音はざゞんざ」は狂言などに出てくる小唄であって、それを歌っておいて淡路島が遠くに見えると詠んでいる。さらに言えば謡曲「住吉詣」の一節「住吉の浦より遠の淡路島」も取り入れていて、二つをつなげただけの歌のようにも思える。しかしこのスタイルで貞柳は多くの門人を獲得して上方狂歌の一時代を築いたともいえる。当ブログでは、貞柳のリズムを探るという我が実力からすると少々無謀かもしれない目標を立てている以上、出典がわかったものは取り上げていきたいと思う。実際、これは間違いなく流行歌の類だろうと思っても何なのか見つからないものも多い。この歌は幸いにして狂言に多く出てくることから実際の節回しを動画で確認することができた。あとで引用したい。

さてこの「浜松の音はざざんざ」は検索してみても、

  ざざんざ 浜松の音はざざんざ

これ以上の長さでは出てこない。狂言でも、お酌や一杯飲んだあとにこの一節だけ、また検索してその演目に入っているとあっても和泉流などの本には記述が無い場合もあり、アドリブ的に挿入されてきた小歌のようだ。普通に考えるともう少し長い歌謡があってそれを狂言が切り取ったと推測したいところだけれど、この前後を見つけることはできなかった。

この「浜松」は普通名詞で、「浜松の音」は、浜の松風の音ということになる。実際淡路島を見ているのだから、地名の浜松ではない。一方、静岡県浜松市には、足利将軍義教が富士見下向の折にこの歌を謡ったとか(曳馬捨遺 )、家康の酒宴の場で歌われたという説もある。浜松市のざざんざの松は歌枕となり、ざざんざ織という織物もあって、ざざんざの由来となる伝承が残っている。

それでは、実際どのように歌われたか、動画を見てみよう。

【狂言】どうしても酒が飲みたい二人の工夫|棒縛り  
(6分10秒ごろから「ざざんざぁ 浜松の音はざざんざぁ」そのあと笑い)


日本舞踊 第三回「茶壷」藤間勘十郎  
(4分45秒ごろから「ざざんざぁ 浜松の音はざざんざぁ」)


狂言では、やはりお酒にからめて謡われて、そのあと笑い声が入って陽気に酒宴が盛り上がるという場面が多いようだ。この節回しについては知識がなくて解説できないけれど、とりあえず貞柳の歌もこの調子で歌ってみていただきたい。今のところは貞柳の色々な歌についてリズムを取って歌ってみる、これを心がけていきたいと思う。


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3 コメント

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Unknown (kaminaribiko2、)
2020-10-09 14:11:18
この浜松は静岡県の浜松のことですか?

私は一読、摂津国住吉の浜の松のことを詠っているのかと思いました。住吉の浜からは淡路島が見えたと思いますから。
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Unknown (cachillat)
2020-10-09 16:37:50
kaminaribiko2さま、コメントありがとうございます。

そうです。貞柳が詠んだのは摂津ですね。ざざんざの由来として、浜松市に伝承があるとご理解ください。
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Unknown (cachillat)
2020-10-09 16:52:40
kaminaribiko2さま、

読み直してみた所、私の説明不足でしたね。少し加筆します。ご指摘ありがとうございました。
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