阿武山(あぶさん)と栗本軒貞国の狂歌とサンフレ昔話

コロナ禍は去りぬいやまだ言ひ合ふを
ホッホッ笑ふアオバズクかも

by小林じゃ

かしやんな

2022-08-18 15:17:16 | 狂歌鑑賞
ツイッターでフォローしている妖怪・霊獣・異形の神仏というアカウントのツイートに、

<禍(わざわい、か)> わざわいをもたらすという、巨大な猪や牛のような姿の妖怪。鉄を食べる。 1.『釈迦八相倭文庫』「わざわい」 #妖怪 

と出てきた。「釈迦八相倭文庫 」の挿絵をみると、天竺の話なのに男女とも江戸の人のようないでたちで、妖怪ワザハヒは日本刀を食っている。そしてこの中に、迦旃延 (かしゃうゑん)という尊者が描かれている。この名前は以前に徒然の友に入っている貞佐の狂歌を紹介した時に出てきた。もう一度引用してみよう。


    ○佛護寺といふこと    芥川貞佐
佛護寺といふ寺ありけるがいつのころにやありけん借金いたく嵩みければその支拂方に檀家の人々心配しけるときよめる

 護佛寺は借銭山のお釈迦かな阿難かしやんなもうくれん尊者


仏護寺は今の本願寺広島別院、浄土真宗本願寺派のお寺であって、原爆以前は貞佐の墓が残っていたという。貞佐の歌をみると、護仏寺とひっくり返してあるのは御仏事にかけてあるのだろうか。釈迦、阿難、目連と尊者の名前をつらねて、「あな貸しやんな、もう呉れん、損じゃ」と面白くまとめている。

ここではもう一人、「かしやんな」のところはカッチャーナという尊者がいて、最初に出てきた迦旃延(かせんねん)と同じ人である。問題は貞佐が果たして「カッチャーナ」というサンスクリット語の読みを知っていたのか、これは明治29年に出版されたこの本の作者の作り話ではないのか。貞佐といえば

  死んでいく所はをかし仏護寺の犬が小便する垣のもと

という辞世が知られていて、それで貞佐と仏護寺を結びつけたのではないか、という疑念は疑り深い性格の私でなくても出てくるはずだ。今回のツイートを見て、改めて少し探してみた。国会図書館デジタルコレクションで「梵語」で検索したところ「多羅要鈔」(文政五年)というのが唯一出てきて、「か」の項に迦旃延はあったがカッチャーナは無かった。しかし、出典として信行梵語集という書物の記載があり、こういう本を上方での修行時代に貞佐が見ていた可能性はあるのかもしれない。結論を出すにはまだまだ読書量も知識も足りないが、一応ここまでを書いておきたい。



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