Stelo☆ panero

変態ですがよろしくお願いします。更新は気分次第、気の向くままに。新題名は、エスペラント語で、星屑という意味だったり。

【風船魔導士 クオラ】 一時限目 美術

2015-10-25 14:44:57 | 妄想小説
1)
  アネモネ魔法学院は、保育園から大学院まで一貫した教育施設で、幾つかの専門科目に分かれて学ぶこととなっているが、魔法剣士科だけは、特別にすべての学科を習得しなければいけないことになっている。
 それゆえに、魔法学院の中でも、エリートが集い、偏差値も高く難関とされていた。そこの中等部1年にユルギスは所属していた。その教室の窓際の席で、彼は物思いにふけっていた。

  「 しっかし。昨日のあれは何だったんだ???」

  と、独りごちているのは、先日の午后の課外授業での出来事のことだ。
  ドラゴンが炎を吐いて、やられるっと覚悟して不覚にも目を閉じた刹那の間に、何かがあったらしい。
 
   「 あの魔法は、どう考えたって、最高位クラスの水系氷結魔法だったよな。」

  ドラゴンの炎まで凍結させるなんて、彼が知りうる中では、至高の凍結魔法、コーキュティアくらいしかありえないのだが、魔素が減衰していたあの場所で、誰がどうやって、発動させたのか?

   「 ん~?まぁ、いいか。」

  ユルギスは、あっさりと追及を止めて、授業へと専念することにした。

2)
 同時刻。魔法科の生徒は、美術室にいた。

  「 あぁ、も~。美術とか、かったるい~。」

 クオラ・バロニア・ティルル・ポエニカは、オッドアイを潤ませながら、紫水晶のような左目に涙をにじませ、あくびをした。

  「 クオラ~。そんなこと言わないの~。」

 同級生の、リルル・ラルル・リルルが、呆れながら、クオラを窘(たしな)めた。

  「 だって、色によって魔法の効果が変わっちゃうとか、めんどくさいじゃない~。」

 クオラが、ウザそうにリルルとしゃべっていると、美術教師の耳にも入ったのか、

  「 ほぉ?めんどくさいとな?クオラ・ティルル・ポエニカ。」

  「 バロニアが抜けてます~。ダリせんせ~。」

  「 うっさいわ。お前には、身をもって、魔法画の効果を示さんといけんようだな。」

 美術教師は、さらさらさらと猛烈な勢いで、キャンバスに、クオラの自画像を描くと、

  「 赤は、炎系。」

 クオラの自画像を、赤く塗りつぶすと、クオラの身体も火が付いたように熱くなっていく。

  「 あち!あちっ!」

  「 青は、水系。」

 ついで、別のキャンバスに描いたクオラの肖像画を、青く塗りつぶしていく。
 どこからか、ザバンと水がかかる音がして、クオラの身体は水浸しになった。

  「 くちゅっ…ん!」

 かわいらしく、クオラはくしゃみをすると、教師に文句を言おうとした。

  「 な、何をするん…。」  

 が、耳もかさず、教師は、更に黄色に線画だけの自画像を塗りたくる。

  「 まぶしっ!」

 クオラ自身が発したストロボの光に、一瞬、目を閉じると、服が元に戻っている。

  「 あ?あれ?」

 美術教師は、再び、教壇の前で、魔法画の基礎を板書していた。

  「 さて、クオラが自ら実験台になったように、色には魔力が込められている。

    赤は、炎系。青は、水系。黄色は、時間系というように…。

    教科書の12ページに、表として載せてあるから、確認しておくように。
    
    あと、クオラ、授業の後、職員室まで来るように。」

 クオラといえば、狐にでもつままれたような表情をしていた。

3)
 さて、アネモネ魔法学院の重要な収入源は、学費ばかりではない。課外授業で手に入れたアイテムを売りさばくことでも、収入を得ている。

  「 で、クオラ。昨日の課外授業のことだが。旧エオリア宮だったらしいな。」

 クオラが、休み時間、職員室に向かった後、通されたのが、理事長室だった。彼女の目の前で、偉そうな口調で尋ねる幼女が、理事長のリナ・カリオペア・アネモネアだった。

  「 はい。たしか、そうだったような?リナ理事長。それが?」

  「 ふむ、まずは…。レッドドラゴンが、宝物庫に出たそうだな?すまなかった。」

 二人っきりの部屋で、神妙な口調をし、リナはクオラに謝辞を入れた。

  「 え?頭をあげてください。そんな…。」

 慌てるクオラに頭を下げたまま、リナは、本題を切り出した。

  「 いや、すまなかった。だが、学園の金庫も逼迫している。話を聞いてはくれまいか?」

  「 そりゃ、別にいいですけど?」

 引き受けの言葉を受けて、初めて、リナは顔をあげた。

  「 よかった。ありがとう。実は…。」

 リナの話によれば、旧エオリア宮には、世界随一の秘宝が隠されていたらしい。

  「 ひほう…、ですかぁ?」

 そんなものあったっけ?という表情で、クオラは記憶を探ってみるが、全く心当たりが見当たらない。

  「 もし売ったら、その額、少なく見積もっても、1000万阿僧祇ギュエルていう、途方もない宝なのよ。竜が守ってるという。」

  「 い…、いっせんまんあそうぎぎゅえる…????!!!!」

 この世界の全ての国の国家予算、一千万年分の額を言われ、クオラは卒倒しそうになった。

  「 ええ、それだけあれば、サービスも充実できるし、今、有料の学費と寮の費用も賄えるわ。」

  「 いや、でも、まさか、あれ…が????」

 昨日の授業で、宝箱から出てきた革製の古ぼけたポシェットを思い出す。それは、彼女のリュックの中に無造作に入れてあって、個人用に割り当てられたロッカーの中に、そのリュックは入れてあった。

  「 やっぱり、何か出てきたのね?宝石?大量のギュエル金貨?それとも、入手困難なミスリル鉱?」

 目を煌めかせながら、リナは、クオラに詰め寄った。

  「 ちょ…。そんないいものじゃないですよぉ。風船が出てくるポシェットですってば。」

 クオラは、詰め寄るリナを押しとどめながら、真実を語った。

  「 へっ????」

 と、一言だけリナは発して、石化したように動かなくなってしまう。

  「 理事長????」

  「 ・・・・・・・・・・。」

  「 りじちょぉ~???」

  「 ・・・・・・・・・・。」

  「 守銭奴ロリ~????」

  「 はっ!・・・・・・・。持ってきて。そのポシェットを、早く。」

 しばらくたって、ようやく我に返ったリナは、クオラにポシェットを持ってくるよう促すのだった。

  「 は、はい。」

 ぱたぱたぱたと足音を響かせて、廊下に出るクオラを見送りながら、リナは、

  「 守銭奴ロリって…?私?」

 と、首をひねるのだった。

4)
 しばらくして、クオラが持ってきたポシェットを、ためつすがめつ見ながら、リナは頭を捻った。

  「 ふむふむ…。この留め具かわいらしいわ。この意匠も好み。」

 風船をデザインした留め具は、結わえた紐で魔法陣を描いている。
  
  「 開けていいかしら?」

 クオラが頷いて了承すると、リナは留め具を外して、中に手を入れてみる。

  「 あら?何も出てこないわね?」

 リナが、何度も試してみるが、何も出てはこなかった。おかしいなと思いながら、次はクオラが、中に手を入れてみる。

  「 えっ?おかしいですね。確かに…。」

 すぐに柔らかい手ごたえがあって、クオラは赤い風船を取り出してみせた。

  「 ほら、風船です。」

 クオラは、手にした風船をリナに見せた。

  「 ほっんとね…。ふ~せんだわ。ちょっと、貸して?」

  「 どぞ?」

 クオラが、風船を渡すと、リナは深呼吸をして、風船の吹き口に口づけた。

んん~~~~~~~~~っっっ!!!!

 小さな身体をくの字に前屈させて、顔を真っ赤にしながら、頬をふくませて、風船に息を吹き込もうとがんばるリナ。

んんん~~~~~~~~~っっっ!!!!!!

 だが、その努力も虚しく、一向に風船はふくらむことはない。

んんんん~~~~~~~~~~~っっっ!!!!!! ぷはぁっ!

 「 ぜぇ、な…。何なのよ。ぜぇ、このふ~せん、ぜぇ、硬…。ぜぇ、ぜんぜん、ふくらまない。」

 リナは、肩で息をしながら、一向にふくらまない風船に不満を述べた。

 「 おかしいですね~?ちょっと、ウチにも。」

 「 どうぞ。私と一緒に赤っ…。

すぅ、ぷぅぅぅ~~~~っ!
すぅ、ぷぅぅぅ~~~~っ!

 恥…

すぅ、ぷぅぅぅ~~~~っ!
すぅ、ぷぅぅぅ~~~~っ!
すぅ、ぷぅぅぅ~~~~っ!

 を…ってぇ!」

 リナの目の前で、余裕で風船をふくらませるクオラ。

 「 なんで、あなたは余裕でふくらませるのよぉ!私、理事長よ。理事長。」

 リナの糾弾に、クオラは、風船に口づけたまま答えた。

 「 ぶぅ~ぶぶぶ…(ん~?なしてだろう)?」

 「 むぅ~~~~っ。も、いっこもらえる?」

 クオラは、ポシェットから風船を取り出すと、リナに渡した。

 「 とりあえず、これだけでも、鑑定に出してみるわ。」

 リナは、そういって、恥ずかしそうに、風船を手に取るのだった。

【つづく】




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