かりんとう日記

禁煙支援専門医の私的生活

医者の仕事

2010年10月29日 | がん病棟で
94歳のおばあちゃんが、息子さん夫婦に連れられて外来にやってきた。
足腰が弱っているので病院の玄関から診察室までは車椅子。
耳はかなり遠い。
ヘルペスの後遺症で左目が見えない。
けれど、とっても小奇麗にしていて、ボケてはいない。

「ボケないように、毎日絵手紙書いてるの」

ふだんは自宅近くのU診療所がかかりつけで、降圧剤と高脂血症の薬を処方してもらって飲んでいる。
たまたま撮った検診用の胸のレントゲンが異常だということで、紹介されてきた。

あちゃ・・・
一目で手のつけようのない肺がんだとわかった。

『U診療所の先生は、なんとおっしゃっていましたか?』

紹介状だけでは真意がわからないので、ご家族に尋ねた。

「今後の対応のこともあるので、病気の診断だけはつけてもらったほうがいいと・・・」

94歳で肺や肝臓に転移だらけの肺がんでは、緩和医療のみを行っていくのがベストな選択。
ご家族もそれを望んでいる。
幸い、今のところ咳もほとんど出ていないし、食事も美味しく食べられているようだし、U診療所の先生には、このまま穏やかに寿命を全うしていただきましょうという内容の返事を書いて帰っていただいた。

その1週間後。

息子さん夫婦だけがまた来院。

「U診療所の先生には、これ以上ウチでは診られないと言われてしまいました。おじいちゃんも最期まで自宅で看取ったし、おばあちゃんもそのようにしてあげたいとは思っているのですが、がんとなると・・・苦しんだり痛がったりするんでしょうか?そうなった場合、私だけではいったいどうしたらいいのか、とても不安になりまして・・・診療所では今までどおりに血圧の薬は出してくれるそうです」

がんだってことがわからないままだったら、老衰、大往生ってことで最期が迎えられたはずだった。
うちのおばあちゃんも具合が悪くなったとき、心筋梗塞って診断しちゃったもんだから、94歳だというのに、最期は病院で管だらけにさせてしまった

だけど、病気を正しく診断したり、病状を把握したりすることは、本人の苦痛を和らげる適切な処置を施すためには重要なことだ。
だから、診療所の先生も「診断を・・・」と紹介してきたはずではなかったのか。
それなのに、いきなり丸投げ?
しかも、「今までどおり高血圧の薬は出します。あとのことは向こうの先生に相談してください]

薬は出すけど、患者は診ません?
あなたは医者ですか?薬屋ですか?
患者さんが苦しんでいるときこそ働くのが医者ではないのですか

専門分野が違うので・・・ということであれば、せめてそういうお手紙か電話が欲しかった。
そうすれば、家族を必要以上に不安がらせずにすんだはず。

医療者の手を借りずに、自宅で穏やかに最期を迎えさせるのは、現実問題、かなり無理がある。

おじいちゃんのときは、別の診療所の先生が「責任もって最期まで診るよ」と言ってくれて、それで家族も安心して在宅介護ができたそうだ。
その先生は残念なことに数年前にお亡くなりになった。

そこで、往診で最期まで診てくれそうな先生を探して紹介状を書いて、家族には介護保険の申請をして訪問看護などを受けられるようにする方法をアドバイスした。


看取ることを避けたがる医者が増えているような気がする。
病気を治す、あるいは治そうとするのだけが医者の仕事じゃない。
治らない病気はたくさんあるし、人は必ず死んでいくのだ。
穏やかに人生を終わらせる手伝いというのは、医者に課せられた重要な仕事だと思う。















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1 コメント

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考えさせられます (Murata)
2010-10-30 02:33:40
とても難しい問題ですね。

最近は、訴えられたりするから、医者も
責任逃れをしようとして、重要な事を
したがらないのかもしれないですね。

胸が痛みます
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