韓国映画『王の願いーハングルの始まりー』が、現在シネマート新宿ほか全国の劇場で上映中です。こちらで第1弾のご紹介をしたのですが、その後なかなか第2弾がアップできず、公開後になってしまいました。まだまだ上映が継続していますので、サンスクリット語ファクターをご紹介した第1弾に続いて、肝心のハングル文字が生まれたことに関するパートを今回書いておくことにします。まずは、映画のデータからどうぞ。
『王の願い-ハングルの始まり-』 公式サイト
2019/韓国/韓国語/110分/原題:나 랏 말 싸 미/英語題:The King's Letters
監督・脚本:チョ・チョルヒョン
出演:ソン・ガンホ、パク・ヘイル、チョン・ミソン
配給:ハーク
配給協力:EACH TIME
※6月25日(金)よりシネマート新宿・シネマート心斎橋ほかにて全国順次公開中
© 2019 MegaboxJoongAng PLUS M,Doodoong Pictures ALL RIGHTS RESERVED.
本作は、朝鮮王朝第4代の王で、在位が1418~1450年と32年間にわたった世宗大王(ソン・ガンホ)が主人公です。詳しくは、最初に挙げた記事に書いたのでそちらをお読みいただければと思いますが、世宗は当時朝鮮半島で使われていた中国の文字、漢字が読めない民衆のために、朝鮮独自の文字を作らねば、という強い使命感に動かされて、晩年を文字の作成と普及に捧げたのでした。さらに世宗に苦労を強いたのが、文字作りのための知恵を借りる相手が、当時儒教尊重のせいで下位に貶められていた仏教の僧侶シンミ(パク・ヘイル)、という点で、山ほどのハンディも抱えながら、とうとう現在も使われているハングル文字を生み出すことができた奇跡の物語が、本作では描かれているのでした。
© 2019 MegaboxJoongAng PLUS M,Doodoong Pictures ALL RIGHTS RESERVED.
しかしながら、文字をゼロから作り出すのは、ちょっと考えただけでもものすごく大変であろうことがわかります。地球上にある文字のほとんどは、この何千年かの間に生まれ、使われては様々に淘汰・変形等手が加えられたのち、今日の形になったものです。例えば日本語の平仮名は、五十音の音の並びはサンスクリット語の字母表をもとに整備されたため、下の表(Wiki「平仮名」より)にあるように、縦はあ行、か行、さ行...と子音の音でまとめられていますし、横は子音に付く母音の音でまとめられています。しかしながら、漢字を元に作られた平仮名の文字自体は、縦も横もその形に何ら法則性はありません。も~のすごくおぼえにくいのです。以前留学生から、「”し”の字はどうして右にカーブするんですか? ”も”の字と似てますが、関係があるんですか?」などと聞かれたりしたのですが、明確に答えることはできず、「そのまま憶えるしかないのよ~」と申し訳なく思ったのでした。平仮名、カタカナ、漢字と3種の文字を使いこなしている我々日本人もすごいと思いますが、留学生の皆さんは、平仮名に加えてカタカナ、そして中国語圏以外の人は漢字も憶えないといけない、中国語圏の人も日本独特の漢字を覚えないといけないので、日本語の文字ハードルはものすごく高いと思います。
そんな日本語に比べてハングルは、最初学習した時、非常によく考えられて作られている文字で憶えやすい、と驚きました。そのすごさは、1つの文字の中に、基本となる字の形が二階建て、三階建て、あるいは二棟続きになって入っていて、時にはその混合もあったりすることでした。漢字にも同じような形のものはあり、二階建ての「男」「息」、三階建ての「案」「簡」や、無数にある二棟続きの「池」「椿」「私」等々、いくらでも出てくるのですが、ハングルですごいのは、階や棟でバラしてもそれぞれに音がある、ということでした。詳しくは、Wiki「ハングル」を見ていただければ、と思いますが、例えば、ポピュラーな挨拶「アンニョンハセヨ」は下のようになります。ローマナイズの下線部は、二階建ての下段部分です(下線はこの場だけの便宜的な表記法です)。
안 녕 하 세 요
an nyong ha se yo
「アンニョン」の元の漢字は「安寧」なのですが、それぞれハングルでも1文字ずつになっていますね。余談ながら、「~ン」となる元が漢字の単語で、語尾が「n」か「ng」かの見分け方は、広東語と同じく、「n=音読みの語尾が、”ん”の漢字」「ng=音読みの語尾が、”い”か”う”の漢字」と憶えるとわかりやすいです。例えば「ソンセン」は「先生(せんせい)」ですから「선생(sonseng)」となり、「ピョンヤン」は「平壌(へいじょう)」なので「평양 (Pyongyang)」となります。全部がこの法則にあてはまるかどうか、ちょっと自信がないのですが、書き取り試験の時はこれでよくセーフ!になりました。その他、韓国語学習者が「日本語と同じ音だ!」と感激する「約束」は「약속 (yaksok)」となり、これも元の漢字と同じく二文字となっています。韓国語を勉強しながら、スグレモノのハングルにいろんな所で「おお!」と驚き、とても楽しかったです。
© 2019 MegaboxJoongAng PLUS M,Doodoong Pictures ALL RIGHTS RESERVED.
そして、本作『王の願いーハングルの始まりー』では、そもそもこの文字の基本となる「○」「卜」「L」などの記号がどのように考え出されたのか、というシーンも再現してくれます。それを見ているうちに、子音字の並び方が音声学に基づくものであることもわかって来、それ以前の「口の中のどこで音が出ている?」と調べるシーンへと結びついていきました。韓国語の辞書を引く時は、子音の登場順である「カ・ナ・ダ・ラ・マ・パ・サ...」と唱えながら辞書のページを見ていくのですが、調音点が喉の奥から前へと移動していることが本作を見て初めてわかり、なるほどな~、とこれまた舌を巻いたのでした。
© 2019 MegaboxJoongAng PLUS M,Doodoong Pictures ALL RIGHTS RESERVED.
派手な作品ではありませんが、言語の成り立ちや文字の不思議などを考える上で、とても刺激的な作品です。こんな作品を作ってしまう韓国映画界、すごいですねー。韓国語を勉強中の方、言語学や音声学を専攻している方は、ぜひ大画面での上映をお見逃しなく。最後に本作のメイキング映像を付けておきます。ガンちゃん、いいですねー。パク・ヘイルがサンスクリット語を話すシーンもちゃんと記録されています。それで、あんなに上手なサンスクリット語をしゃべっていたんですね、脱帽です! 楽しそうな現場、心和みます~♥。
映画『王の願い ハングルの始まり』メイキング映像