アジア映画巡礼

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『PATHAAN/パターン』来襲!! ①シャー・ルク・カーンはいかにして「イケおじ」になったか

2023-08-07 | インド映画

『PATHAAN/パターン』公開を機に、再びシャー・ルク・カーンを日本で超有名にしようともくろむ日々。何せ私がファンになったのは、1992年11月13日公開の『ラジュー出世する』を翌年の1993年7月24日に、当時はまだマドラスと言っていたチェンナイのドリームランド・シネマで見た時から。当時から南インドの観客はノリがよく、この時も私の旅行ファイルに、「タイトルでは拍手が起きた。シャー・ルク・カーン60%、ジュヒー・チャーウラー70%、ナーナー・パーテーカル80%」というメモが残っています。普通、映画は見っぱなしでメモなど残さないのですが、この時はトヨタ財団から研究費をもらっての現地調査だったことから、真面目にメモをとっていたのでした。

この時シャー・ルク・カーンへの拍手が共演者に比べて少なかったのは、彼がまだデビューしたての新人で、知名度が低かったからです。上は『ラジュー出世する』のプレスシート(マスコミや関係者向け試写などで配る資料。中身は簡単なストーリー紹介とスタッフ&キャストのクレジット、それから挿入歌の歌詞が掲載されているのが標準仕様)ですが、この映画が1992年6月に『Deewana(恋に夢中)』でデビューしたシャー・ルクの、3本目の公開作品でした。首都デリーの大学卒業後、デリーにあった国営放送テレビ局(DD)で俳優デビューしたシャー・ルクは、1991年に母が病気で亡くなった(父はずっと以前に病死)のを機にボンベイ(現ムンバイ)に居を移して映画俳優を目指します。1991年から1992年にかけて撮ったヒンディー語映画が、1992年と1993年に立て続けに公開されるのですが、シャー・ルクの存在を知らしめたのは、1993年11月に公開された『賭ける男(Baazigar)』と翌12月に公開された『Darr(恐怖)』でした。

『賭ける男』(上はプレス)も『Darr』(下写真)も、どちらもアンチ・ヒーロー物と呼ばれる悪玉ヒーローの物語です。『賭ける男』は関西のテレビ局で放映されたことがありますが、親の敵と狙う実業家に復讐するために、その娘や目撃者を冷酷に殺していく主人公と、その青年に恋する実業家の下の娘とを描きます。『Darr』は一方的に恋心を募らせ、相手の女性が結婚してもつきまとう男の話で、シャー・ルクはストーカーのアブナイ男を実に巧みに、偏執狂ぶりを遺憾なく見せて演じました。彼がキランという女性(ジュヒー・チャーウラー)に一方的に呼びかける言い方「キ、キキキ、キラン!」というセリフは、名前は違うものになっていますが『PATHAAN/パターン』の中でも登場します。

そして、シャー・ルクの幸運は、まさにこの『Darr』から始まるのです。『Darr』の監督であり、プロデューサーでもあるヤシュ・チョープラー(1932-2012)は、ヤシュ・ラージ・フィルムズ(YRF)の大ボス。彼に気に入られたシャー・ルクは、以後YRFの作品にたびたび起用されるようになり、それが『PATHAAN/パターン』まで続いている、というわけです。特に1995年、ヤシュ・チョープラーの息子でYRFの現社長アーディティヤ・チョープラーが監督デビューした作品『DDLJ=Dilwale Dulhaniya Le Jayenge』(下写真)ではカージョルと共に主演を務め、この作品を大ヒットに導いたことは、シャー・ルクとYRFの絆をさらに強いものにしました。『DDLJ』は日本ではまず『シャー・ルク・カーンのDDLJ ラブゲット大作戦』という邦題で1999年9月に公開され、その10数年後に日活が買って配給会社オデッサにより公開される予定だったのですが、なぜか『DDLJ 勇者は花嫁を奪う』という邦題で大阪の民博で上映された後、お蔵入りしてしまいました。

さらにもう一つの幸運は、アーディティヤ・チョープラーやシャー・ルクの仲間で、父親がプロデューサーであるカラン・ジョーハルが監督デビューし、これまた主演にシャー・ルクを起用したことでした。カラン・ジョーハルは今ではボリウッドのゴッドファーザー的な存在ですが、1995年当時はアーディティヤ・チョープラーやシャー・ルクといつもつるんでいた映画青年でした。『DDLJ』にもシャー・ルクの友人役として出演しており、やがて1998年に『何かが起きてる』を初監督して、大当たりさせます。続く2作目『家族の四季 愛すれど遠く離れて』(2001/下写真)はシャー・ルクとアミターブ・バッチャンを父子役で共演させ、これも大ヒットになりました。カラン・ジョーハルの会社はダルマー・プロダクションと言い、現在は製作と配給で超大手となっていますが、その出発点はシャー・ルク作品だったのでした。

こうしてデビューから10年、シャー・ルクは押しも押されぬ大スターとなります。その間にジュヒー・チャーウラーと『ラジュー出世する』の監督アジーズ・ミルザーの3人で映画会社を作りますが、それはやがて、シャー・ルクと妻ゴウリーによる会社レッド・チリー・エンタテインメントへと発展していきます。また、サンジャイ・リーラー・バンサーリー監督による『デーヴダース』(2002)や、ファルハーン・アクタル監督による『DON 過去を消された男』(2006)、ファラー・カーン監督による『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(2007/下写真)等々、YRF周辺以外からも、ヒット作が出るようになりました。『恋する輪廻』は振付師でもあるファラー・カーン監督会心の作品で、この作品でシャー・ルクはデビューしたての新人と言っていいディーピカー・パードゥコーンと初めて顔を合わすのです。

シャー・ルク&ディーピカーのコンビはその後も、ローヒト・シェッティー監督作『チェンナイ・エクスプレス~愛と勇気のヒーロー参上~』(2013/下写真)をヒットさせます。続いてファラー・カーン監督が『Happy New Year』(2014)で三たびシャー・ルクとディーピカーのペアをスクリーンに乗せ、今回の『PATHAAN/パターン』は4度目というわけです。ほかにもカメオ出演での共演、というのもあるのですが、相性のいい二人と言うことができるでしょう。

ところで、1965年11月2日生まれのシャー・ルクは、2005年11月で40歳になったのですが、その後、思い切ったイメージチェンジ作品に出演します。それが、アーディティヤ・チョープラー監督作『神が結び合わせた2人』(2008)で、シャー・ルクは年相応に老け込んだ、田舎町の水道局勤務のおじさんを演じています。ある事情から、若い女性(アヌシュカー・シャルマー)と結婚する羽目になり、お互いになかなか心を開けないままでいたのですが、妻がダンスコンテストに出たいと言いだし、自分も若い男に変身して彼女のパートナーとなって、やがて2人の心は結びつく...という作品で、イケおじどころか冴えないおじさん姿が決まっていて、二役に等しいシャー・ルクが楽しめるとこれも大ヒットした作品でした。下はDVDカバーなのですが、左側に冴えないおじさん姿が使ってあります。

その後もシャー・ルクの若い役は続くものの、CGを駆使して別人になるといった『ファン』(2016)や『Zero』(2018)はファンにそれほど歓迎されず、少々分別くさい役の『Dear Zindagi』(2016)や『Jab Harry Met Sejal』(2017)も嫌われたのか、大ヒットには至りませんでした。そして本作『PATHAAN/パターン』では、若くなろうとはせずにいながら、強靱な中年としての魅力を思う存分見せつけてくれるシャー・ルクが登場、とってもチャーミングです。少々お茶目度は下がりましたが、まだまだ全盛期という華にあふれ、シャー・ルクのファンはみんな目がハートになったことでしょう。アクションはリティク・ローシャンやタイガー・シュロフに比べるとやはり見劣りがしますが、何気ない会話や駆け引きに大人の魅力が溢れ、まさに「イケおじ」万歳!といった感じです。日本では『PATHAAN/パターン』に先だって、『ブラフマーストラ』(2022)でシャー・ルクの魅力に目覚める人が続出、日本のインド映画ファンは目が高いと感心させられました。『PATHAAN/パターン』のセクシーな「イケおじ」の魅力を、大画面でたっぷりと味わって下さいね。

『PATHAAN/パターン』の公式サイトはこちら、最後に予告編を付けておきます。

『PATHAAN/パターン』インド版予告編

 


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