2年に一度開催される山形国際ドキュメンタリー映画祭。今年2011年は開催年で、10月6日(木)~10月13日(木)まで、また山形市が熱く燃える世界の”ヤマガタ”になります。今年は特に、東日本大震災の記憶も新しい中で、”ヤマガタ”に世界のドキュメンタリストたちが集うことは格別の意味を持つでしょう。<インターナショナル・コンペティション>や<アジア千波万波>といったお馴染みのプログラムのほかに、<東日本大震災について考えるプログラム>も企画されているようです。
先日映画祭事務局から、「インターナショナル・コンペティション15作品決定!」というプレスリリースをいただきましたので、その中のアジア関連作品をピックアップしてみます。いずれもプレスリリースをそのまま掲載しました。
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阿仆大(アプダ) Apuda
中国/2010/中国語/カラー/ビデオ/145分
監督:和淵(ホー・ユェン) He Yuan
■中国雲南の少数民族の年老いた父と息子の暮らしから■
中国雲南省北部。少数民族ナシ族の農夫阿仆大は、老いて体の自由のきかなくなった父親と二人暮らしをしている。暗い室内で薄明かりをたよりに、父が服を着て、煙草に火をつけ、床の上に起き上がるのを助ける。阿仆大自身は、父の介護のかたわら、果樹の手入れや水汲みにいそがしい。時には近所の老人が来て、不人情な息子の愚痴をこぼす。山の奥深い村に生きる父子を、悠揚たるリズムと深みのある映像で見つめ、生と死のドラマを映し出す。
YIDFF 2005 雲南映像フォーラムで『金平県ハニ族の織物』『息子は家にいない』を上映。
星空の下で Position Among the Stars
オランダ/2010/インドネシア語/カラー/ビデオ/111分
レナード・レテル・ヘルムリッヒ Leonard Retel Helmrich
■笑いや涙あり、インドネシアのある一家のホームコメディ■
インドネシアの一家族を12年間追い続けた三部作の完結編。両親を亡くし叔父一家と暮らす孫娘を訪ねて田舎から出てきた祖母を中心に、定職がなく闘魚に興ずる叔父とそれを嘆く妻との夫婦喧嘩、反抗期を迎えた孫娘の大学進学問題などがテンポよく映し出される。宗教間の衝突や貧富の格差、世代間の意識のずれを巧みに折り込みながら、家族を想う庶民の日常を、疾走するカメラワークでドラマチックかつユーモラスに描いた作品。
YIDFF 2009にて『約束の楽園』上映。
飛行機雲(クラーク空軍基地) Vapor Trail (Clark)
アメリカ、フィリピン/2010/英語、タガログ語/カラー/ビデオ/264分
監督:ジョン・ジャンヴィト John Gianvito
■フィリピンの米軍基地跡地に残される毒と傷■
朝鮮、ベトナム、湾岸戦争を通して米軍の重要拠点だったフィリピンの基地跡地では、化学物質の土壌汚染による住民の深刻な健康被害が出ていた。本作は、苦しむ被害者と家族の話を丁寧に聞きとるだけでなく、支援する活動家の闘いとその壮絶な個人史にもカメラを向け、フィリピン現代史で繰り返される社会的不公正の構図と虐げられてきた者の尊厳に光をあてる。さらに19世紀末の対米戦争の歴史を写真で織り交ぜ、支配関係の根深さを分析する。土本典昭監督へのオマージュ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ほかにもパレスチナを撮った作品とかもあるのですが、私の「アジア映画」カテゴリーの作品はこの3本です。しかしながら、間もなく<アジア千波万波>の上映作品が発表される予定で、そうなると怒濤のようなアジアのドキュメンタリーが押し寄せるはず。ぜひ公式サイトをチェックしていて下さいね。 山形国際ドキュメンタリー映画祭の過去の上映作品には印象に残る作品がいくつもありますが、そんな中でも特に強いインパクトを受けたのが、インド映画『戦争と平和-非暴力から問う核ナショナリズム』(2002)です。監督はアーナンド・パトワルダン。実はこの作品は第10回地球環境映像祭で大賞を受賞し、その後山形国際ドキュメンタリー映画祭2003年の審査員招待作品として上映されたものです。下の写真は1995年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でのスナップですが、水色のクルターを来ているのがアーナンド・パトワルダン監督です(その前にいる後ろ向きの女性は、河瀬直美監督)。
この作品は、インドとパキスタンが1998年に行った核実験を受け、インド全体が核の危険なエッジの上に立っているという観点から作られたものです。パキスタンに対抗し、国威発揚のために核実験を大いに利用しようとする右翼のBJP(インド人民党)政権、それに乗せられる人々や宗教界、反対に、マハートマー・ガーンディーの非暴力抵抗運動を実践し、核開発に反対して平和行進やウラン工場の公害告発をしている人々など、インドの様々な面が紹介されます。それと共に、”敵国”パキスタンを訪れた時の素朴な驚きや、被爆国日本での取材、核大国アメリカの姿なども紹介されていきます。
インドでの軍事パレードで登場する核兵器もショッキングですが、もっと胸を突かれるのは当時のビハール州、今のジャールカンド州ジャードゥゴーラーにあるウラン工場UCIL周辺で起こっている出来事。村に2人しかいない医師のうち1人はガンになり、村人にもガン患者が多発。工場や鉱山で働いていた人だけでなく、その家族にも被爆が及んでいるのです。ケロイドを負った少女、障害が起きてベッドから起きあがれない少年、片方の目がふさがって生まれてきた少年等々、悲惨な現実をカメラは次々に捉えます。そして異常に高いガイガー・カウンターの数値.....。ここは先住民族である部族民の住む村だという説明が、差別の構造を暴き出してくれます。
日本のパートは、”ヒバクシャ”の武田さん、広島の”ハトのおじさん”、そして長崎の原爆語り部の女性によって構成され、これも胸を打つ内容となっています。この部分だけでも見てもらいたいと、大学でドキュメンタリーの授業をする時には必ず素材にするのですが、何度見ても泣けてくるのは”ハトのおじさん”のパート。原爆によって両親を亡くしたおじさんは、犠牲者の供養はもちろんですが、人間の勝手で死に追いやられたたくさんのハトや軍馬などに思いを馳せます。監督から、「原爆を落とした側を憎いとか思ったことはありませんか?」と尋ねられ、「うん、小さい時は.......悲しかった」と声を詰まらせるのです。でもその後、釈尊の言葉として、「憎しみは憎しみによっては解決しない」という考え方を紹介し、原爆ドームの写真を貼った広島の石をインドの子供たちへのプレゼントとして託して去っていきます。”ヒロシマ・ナガサキ”に続く”フクシマ”の今だからこそ、ぜひ多くの人に見てもらいたい作品です。
『戦争と平和-非暴力から問う核ナショナリズム』は日本版DVDも発売されています。下に付ける予定のアフィリエイト投稿の貼り付けがうまくいかない(さっきから、貼り付けては消えるの繰り返し。おまけに、貼り付けたあとに記載した文章も全部消えてしまう!)場合のために、アマゾンの注文ページはこちら。今年の”ヤマガタ”も意欲作がいっぱいやってくることでしょう。ぜひ、東北振興のためにも、今秋はヤマガタ国際ドキュメンタリー映画祭へ!
戦争と平和―非暴力から問う核ナショナリズム [IF DVDシリーズ1 今、平和と戦争に向き合う]
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