今回のTIFFは台風のほかいろんなことと重なって、いつもほど会場に行けていません。実は今日も、先日発生した水漏れの修理に工務店の人に来てもらうため、外出不可の1日でした。結局水漏れ箇所は発見できず、もう少し様子を見ることになってしまいました。築30年超のマンションなので、給排水管もそろそろ交換時期なのです。そんなわけで、オン・デマンドで2作品見たのですが、昨日見た2作品も交えて簡単にご紹介したいと思います。
『セクシー・ドゥルガ』
2017/インド/マラヤーラム語、ヒンディー語/86分/英題:Sexy Durga
監督:サナル・クマール・シャシダラン
出演:ラージャシュリー・デーシュパーンデー、カンナン・ナーヤル、スジーシュ・K・S、ヴィシュヌ・ヴェード
南西端インドのケーララ州。冒頭でかなり長く、ある町で行われるドゥルガ女神のお祭りが紹介されます。椰子の繊維がボディとなったドゥルガ像、そして、タイプ-サムのように体に太い針を突き刺し、クレーンにつり下げられて行進するトランス状態の男たち...。その喧噪が静まった町はずれで、人待ち顔にたたずむ大きな荷物を持った若い女性がいました。2人乗りのバイクがやってきて、後部座席の若い男が降り、「早く逃げろ」という運転者の声に励まされるように女性と共に去って行きます。その後2人はヒッチハイクをしようとするのですが、夜でもあり、止まってくれる車は現れません。ようやく止まった車には、あまり人相のよくない二人組の男が乗っていました。男たちはあれこれ詮索し、女性の名前がドゥルガ、若者の名前がカビールであると聞き出します。「姉ちゃんは北インドの人間で、兄ちゃんはイスラーム教徒か」途中、ドゥルガとカビールは何度かその車から逃れようとしますが、運命は2人にそれを許してくれません...。
手持ちカメラでかなりの長回しが重ねられ、夜の闇の中と暗い車の中での映像が続くという、閉鎖状況のイライラがたまってくる作品でした。脚本としてはよくできていると言っていいのですが、主人公2人の行動があまり納得できず、「何が言いたい???」となってしまいます。お祭りとの関連もいまひとつ不明で、さらにオープニングで出てくる「ラーマーヤナ」のシュールパナカーのエピソードとの関連も不明。最後の最後にヒロインが名前の通りドゥルガと化すのかと思ったのですが...。
『Have a Nice Day』
2016/中国/アニメ/北京語/74分/原題: 好極了/英題:Have a Nice Day
監督:リウ・ジエン(劉健)
声の出演:チュー・チャンロン、ツァオ・カイ、リウ・ジエン、ヤン・スーミン
© 2017 Nezha Bros. Pictures, Le-Joy Animation Studio
中国南部のあるしょぼくれた町。ボスである劉の金を運んでいた手下の中年男は、運転手の張に刺されて金を奪われてしまいます。その頃ボスの劉は、幼馴染みの男を監禁し、若い手下阿徳と共にいたぶっていました。そこに、張が金を盗んだという電話が入り、劉は伝説の殺し屋に依頼して金を取り戻そうとします。そんなこととは知らず、ひとまず駅前旅館に落ち着いた張は、小汚い食堂で腹ごしらえし、恋人と連絡を取るためにネットカフェに向かいました。ところが、食堂の親父は張の鞄に大金が入っていることに気付き、妻と共に張を追ってきます...。
まだまだ登場人物がいるのですが、それらの人々がみんなお金の入った鞄に踊らされ、最後には玉突き状態になって次々と死体になっていく、という、とんでもないブラック・コメディー・アニメーションでした。絵柄がリアルすぎて、どの人物にもまったく好感が持てない(笑)という、悪相の集団に悪意をまぶしたみたいなアニメなのですが、な~んか面白く、つい見入ってしまいました。物語は章立てになっているらしく、画面の右下方に「1」とかの数字が出てくるものの、あれは別になくてもいいのでは、という気がします。冒頭でトルストイの言葉が引用されることといい、劉健監督のこだわりもかなりヘンで、異色の中国アニメーションでした。
『アケラット-ロヒンギャの祈り』 公式サイト
2016/マレーシア/華語、広東語、福建語、マレーシア語/106分/原題:Aqerat阿奇洛/英題:We the Dead
監督:エドモンド・ヨウ
主演:ダフネ・ロー(劉イ青[女文])、ハワード・ホン・カーホウ(韓家豪)、ルビー・ヤップ、ジョニー・ゴウ、ウォン・ジュン・ヤップ
©Pocket Music, Greenlight Pictures
マレーシア北方の海辺の町。レストランで働くフイリンは、台湾に言って働くためにお金を一生懸命貯めていましたが、それを同居していた女性に持ち逃げされてしまいます。レストランの経営者である黒社会(ヤクザ)のボスは、フイリンに別の仕事を紹介してやります。それは、ボスの下で働く兄貴分とその手下3人と共に、ミャンマーから海を渡ってくるロヒンギャの難民たちを売買する仕事でした...。
セリフが極端に少なく、絵での説明もほとんどないという、エドモンド・ヨウ監督が作ったもう一つのTIFF作品、『ヤスミンさん』とは対極にある作品でした。今、世界的に関心の的になっているロヒンギャ族がマレーシアにも難民としてやってきているのを初めて知りましたが、彼らが金ヅルになるシステムがいまいちよくわからず、また難民たちの描写もファンタジーのようで、ちょっと白けました。
『ある肖像画』 公式サイト
2017/フィリピン/フィリピノ語/120分/原題:Ang Larawan/英題:The Portrait
監督:ロイ・アルセニャス
主演:ジョアンナ・アムピル、ラケル・アレハンドロ、パウロ・アヴェリーノ
©Culturtain Musicat Productions
1941年10月のマニラ。あと2ヶ月で日本軍が侵略してくるとは知るよしもなく、古い建物の2階に、昔のままの家具に囲まれてカンディダ(ジョアンナ・アムピル)とパウラ(ラケル・アレハンドロ)姉妹が父と共に暮らしています。父は有名な画家なのですが、事故に遭って以来部屋に引きこもって、人と付き合おうとしません。そんな家に、親戚の青年ビトイが訪ねてきます。久しぶりの訪問に喜ぶ姉妹。さらに、ジゴロみたいな青年トニー・ハビエル(パウロ・アヴェリーノ)もスーザンとバイオレットという2人の女を従えてやって来、それを皮切りにいろんな人が訪ねてくるようになります....。
本格的なミュージカルで、セリフがいつの間にか歌になり...と、ミュージカル・ナンバーを挿入するというよりは 全編がこれミュージカル、という作品でした。主人公たちだけでなく、脇役たちのどの人も例外なく、非常に達者な歌を披露してくれます。ごくごく自然な歌への移行、それが可能になる素晴らしいメロディー、そして出演者たちの歌唱力、と、音楽的には最高の映画でした。ただ、舞台がほとんど主人公たちの家だけに限られ、まさに舞台劇を見ているようで、少々閉塞感も覚えました。でも、その点を除けば、最後の聖母マリアの祭りに集う女性たちのテルノ(民族衣装)が素晴らしい等々、「美術さんや衣裳さん、いい仕事、してますねえ」の作品でもあり、いろんな面で楽しめました。
閉塞感の原因は、ずっと同じ室内ということもあるでしょうけれど、あと、俳優のドアップがやたらと多いってことも影響しているかもと思いました。映画館のスクリーンで観るには、ちょっとドアップすぎて圧迫感がありました。
で、やっぱり美術、衣装が素晴らしかったというのは同感で、Q&Aで僕が質問したのもそこでした。
歌とか舞台が中心の役者さんばかりのようで、ほとんどが知らない役者さんだったのですが、有名な大物があちこちに出ているという気配が濃厚でしたね。きっと、フィリピンの人はそこも楽しめるのでは。
ところで、パウラ役の方の名前の読み方、やっぱり「ラケル」なんでしょうか? 映画.comには「レイチェル」ってなってましたし、最初に見た時にはとっさに「ラヘル」かなとも思ったのですが。名前の読み方にはいっつも悩まされています。
なるほど、クローズアップが多かったことも閉塞感をもたらしたのでしょうね。
実は私は英語字幕のスクリーナーをパソコンで見ていたので、それほど気にならなかったのですが、大画面だとキツイかも。
Rachel Alejandroのカタカナ書きですが、私もTIFFのサイトのまま転載したので、フィリピンでの正確な読み方はわかりません。
TIFFの場合、私がインド映画の人名カタカナ表記を依頼されるように、それぞれ言語、あるいは地域の専門家の方がなさっているのでは、と思いますが、本作は言語が「フィリピン語」と書いてあったりするので、別の方がなさったのかも知れません。
余談ながら、私の場合は、今年はさらにタミル語専門の方と、マラヤーラム語に詳しい方に、『ヴィクラムとヴェーダ』と『セクシー・ドゥルガ』の人名表記をそれぞれチェックしていただきました。
いや~、本当に人名を含む固有名詞のカタカナ表記は難しいですが、字幕に「プラバカ」(正しくは「プラバーカル」。英語専門の方は、最後の「r」音をすべて無視してしまうか、長母音にする)と出てきたりすると、ホントに情けなくなるので、タダで教えるから聞いてくれぇ~~~、と思ってしまいます。
日本の国際映画祭合同で、何か「固有名詞表記チェックシステム」ができないかしら、と思っているんですが...。
力作の映画評で、上映前後のレポートも合わせてすごく読み応えがありましたので、こちらにリンクを張っておきます。
http://garakuta.blue.coocan.jp/diary/diary.html
(10月31日のレポートです)
やっぱり、きちんと大画面で、日本語字幕で見るべき作品でしたね、と反省。
『クリスト』(11月1日)のレポートの中にあった、「なぜみんな、ネクスト・ブリランテ・メンドーサを目指すのだ?」という辛辣な批評を書かれた方の言葉にも、なるほど~、と思ってしまいました。
でも、低予算で撮れるし、素材はいっぱいあるし、このブーム@フィリピン映画界は当分続きそうですね。