渋谷NHKに夫を車で送って行くことがよくあります。
NHK西門近くにあるビルの前栽に、みごとな馬酔木を発見。「お見事!」と叫びたくなるような圧倒的な存在感。薄紅の花房もアッパレです。
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「馬酔木の山鳥の尾のしだり尾の
長々し夜をひとりかも寝む」
と口遊み、太古の人々に想いを馳せる。するとすかさずセリンちゃんが「鳥の尾っぽが垂れ下がっているのと、花が垂れている事を言っているね」と。
さすが詩人の孫…言葉に敏感だ。
馬酔木はスズランに似た鈴のような小花を房にして咲かせる。触るとサラサラ渇いた音がする。概ね花房は白、薄紅はことのほか珍しい。
「一人かも寝ん」と、恋愛から遠ざかって私はどれほど経つか。乾き切った孤独、それは「長々しい夜」に停留し続け、そこから抜け出すこ事すら思い付かないという風だ。果たして私の夜は明けるのか。
十代の頃にさらった和歌が、今になって豊かな情緒を教え諭してくれるとは。胸に広がる荒涼とした風景が、朝露を頂いて瑞々しい色彩を取り戻して行く。
車窓越し、手荒な春風が舞い踊る。馬酔木はサラサラ鳴り続けてやまない。